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「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」 オンライン申立義務化と新たな訴訟手続の創設に反対する

現在、民事訴訟手続のIT化について、法務省の法制審議会-民事訴訟法(IT化関係)部会で検討されています。

今般、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」が公表されました。
民事訴訟手続においてもIT化の流れは必然です。しかし、これは裁判を受ける権利のあり方にも直結するものです。IT化だからといって手放しで賞賛できるものではありません。
  ITオンチなのが悪い、では片付けられない問題を含んでいます。

法制審議会-民事訴訟法(IT化関係)部会
民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案(PDF)

  5月7日までパブリックコメントが実施されています。
「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」に関する意見募集

  民事訴訟手続のIT化の問題点はこちらにまとめられています。

特集: 裁判のIT化と審理の空洞化」(消費者法ニュース)

民事裁判等IT化研究会の特別訴訟手続等に反対する弁護士有志の会

  特に問題なのはオンライン申立義務化と新たな訴訟手続の創設です。
 オンライン申立義務化(中間試案1ページ)
  新たな訴訟手続の創設(中間試案8ページ)

  現時点ですべての国民に対してオンライン申立義務化するのはあまりに時期尚早、少なくともここ数年で達成できるような課題ではなく、オンライン申立に対する優遇処置などによりオンライン申立に誘引し、紙ベースでの申立を徐々に減少させ、その状況を見極める必要があります。そうした上で完全義務化ができるのかどうかを検討すべきものであり、最初から義務化という議論のあり方には問題があります。
 
加えて、オンライン申立によった場合、被告への送達をどのようにすべきかとうい課題が残ったままです。
 
電子データでの送付は誰もが個人特定のメールアドレスを保有しているわけではないからです。
 
予め裁判所に届け出ることも困難です。弁護士であれば可能ですが、被告となる側が最初から弁護士に依頼しているわけでもありません。
 
支払督促の電子申立もありますが、企業によっては特定のアドレスを予め裁判所に登録しておくことも可能かもしれませんが、全体としての実現可能性はありません。原告側が訴えの段階で被告のメールアドレスを指定することも、メールアドレスの取得に本人確認制度がない以上、あり得ない方法です。

この報道が興味深いです。

知らぬ間に敗訴 預金差し押さえ 裁判手続きの“隙間”悪用 訴訟男 知らないうちに養子縁組も 福岡県」(テレビにし日本2021年4月15日)

「男が裁判手続きの「隙間」を悪用して、訴状に、被害者とは関係のないデタラメな住所を記載していたのです。

さらに、男はデタラメな住所に送られた訴状が裁判所に戻ってきた際には、「電気がついていた」などと被害者の在宅をうかがわせる嘘の報告書まで提出していました。
そうして裁判所は、男が主張する住所を正しいと信じ込み、欠席裁判を進めたのでした。」

この事例でどうしても解せないのがデタラメな住所で判決は取ることができたとしても、銀行口座の差押えで行き詰まるはずなのです。銀行口座は本人の住民票上の住所となっていますから、判決に記載された住所との相違が生じます。普通はここで住所相違、該当なしとして執行は不能なはずです。
 
この事案では被告とされた方は裁判所からの書類を受領していませんが、裁判では被告とされた本人に裁判所からの書類が確実に届くことが求められています。現在は特別送達という方法によっていますが、これが電子メールということになったらどうなるのでしょうか。
 
ただでさえ、裁判所などの役所を語った架空請求がある中で、あるいは迷惑メールとして振り分けられてしまい、確実に受領できるかどうかわからない中で訴状の送達を電子メールで通知(通知を受けて裁判所にアクセスする)というのは危うい方法です。被告側に対しては防御の観点からも紙ベースでの送達を全くなくしてしまって良いかは疑問です。
 
いずれにしてもオンライン申立義務化は時期尚早です。

  新たな訴訟手続の創設については、IT化とは全く関連性がありません。最高裁がどうしてもこの制度を創設したいということから、今回の検討事項の中に押し込まれたという経緯がありました。手続の簡素化がメインですから今ここで拙速に結論を出すべきものではありません。

裁判を受ける権利は憲法上の権利ですが、これがIT化の名の下にIT弱者にしわ寄せが行きかねない状況があります。

裁判手続のIT化に伴う諸問題 拙速に導入することは避けるべき
裁判のIT化の問題点 訴えを起こす弁護士の視点だけではダメなんだよね

裁判手続等のIT化について、憲法の原則をふまえ、社会的・経済的弱者や司法過疎地を切り捨てることなく、充分な検討を求める意見書」(札幌弁護士会)

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