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「テレワーク小国」から急脱皮:ドイツ企業と働く人が見つけた「大きな可能性」 - 熊谷徹

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シーメンスは「コロナ後」も、全世界の社員の約半数が週に2~3回はテレワークを行なえる制度を導入する(ロラント・ブッシュCEO) ©︎AFP=時事

シーメンスCEOのロラント・ブッシュは「テレワークは企業にとって良くないという偏見は雲散霧消した」と語る。コロナ禍への緊急対応から新たな成長戦略へ――かつてスウェーデンやイギリスに大きく水を空けられていた「テレワーク小国」ドイツの議論は、新たな段階に入っている。

一時はドイツ企業の7割がテレワーク実施

 去年春のコロナ・パンデミック第1波の際に、ドイツの企業は日本企業よりも積極的にテレワークを実施した。

 フラウンホーファー労働経済組織研究所(IAO)とドイツ人事労務協会(DGFP)は、去年5月5日から22日までに、500社の企業を対象としてテレワークに関するアンケートを行った。その調査結果によると、「社員にテレワークを行わせている」と答えた企業の比率は、コロナ禍勃発前には32%だった。だがコロナ禍が始まって以降は、回答企業の70%が「全ての社員もしくは大半を自宅で働かせた」と答えた。

 また、ドイツIT通信ニューメディア産業連合会(BITKOM)が去年10月~11月に1503人の就業者を対象として行った調査によると、回答者の62%が「毎日もしくは1週間に数日、テレワークを許されている」と答えた。しかも回答者の4人に1人は「毎日テレワークを行っている」と述べた他、20%が「時々テレワークを行っている」と答えている。

 つまり去年秋の時点でも、回答者の半分近くがテレワークを行っていた。BITKOMは、「この数字をドイツの就業者全体にあてはめると、約1050万人の労働者が毎日自宅で働き、830万人が時々テレワークを行っていることになる」と述べている。

 また「去年3月のロックダウンの際には、私の会社ではテレワークが義務付けられた」もしくは「テレワークを行うことを許された」と答えた回答者の比率は65%で、「テレワークは実施されなかった」と答えた回答者(32%)に大きく水を開けた。

 これに対し内閣府が去年6月に発表した日本の就業者に対する意識調査の結果によると、「去年春のパンデミック第1波の際には、勤務時間の半分以上がテレワークだった」と答えた人の比率は21.5%に留まっていた。東京商工リサーチが今年3月18日に発表した調査結果でも、テレワークを実施していると答えた企業は38.5%だった。43.8%の企業が「コロナ禍発生以降、一度もやっていない」と答え、17.7%が「コロナ禍発生以降実施したが、今ではやめている」と答えた。

コロナ前からリモート勤務の基盤が整備されていた

 去年の日独のテレワーク普及度に差が出た理由は、ドイツの1日あたりの新規感染者数や死者数が日本よりも多かったことだけではない。

 ドイツでは2010年以降、好景気と高技能を持つ人材不足が続いたため、労働時間の柔軟化の傾向が強まっていた。このためコロナ前から金融サービス企業やIT企業を中心に、社員にテレワークを許可する労使間合意が導入されていた。

 また大手企業では、テレワークを可能にするためのITインフラの整備も始まっていた。一部の会社では、コロナ前から業務関係書類を100%電子ファイルに収めることが義務化されていた他、デジタル署名や電子押印も普通に行われていた。

 しかし2019年末まではドイツでも日本と同様に「仕事はオフィスでするもの」と考える経営者が多く、実際にテレワークを行う社員の数は少なかった。

 ドイツ経済研究所(DIW)が2016年2月に発表した報告書によると、2014年の時点で通常もしくは時々テレワークを行っていた社員の比率は、ドイツではわずか7%で、スウェーデン(26%)や英国(20%)に大きく水を開けられていた。

 特に管理職へのスピード昇進を狙う「やり手の社員」の間では、在宅勤務はほとんど行われていなかった。ドイツ企業でも、上司から抜擢されるには、オフィスでの仕事ぶりを上司に見せることが重要だった。ドイツもかつては日本と同じテレワーク小国だったのだ。

 だが去年春のコロナ禍は状況を一変させ、製造業を除く多くの企業が大半の社員に在宅勤務を命じた。ドイツの管理職社員が絶対に守らなければならない義務の一つに「保護義務」という概念がある。管理職は、社員の健康と安全を最優先にすることを義務付けられている。新型コロナウイルスについての知識が乏しく、ワクチンもなかった当時、ドイツ企業の経営者たちは社員を守ることを最も重視した。コロナ前から労使間の合意があったことやデジタル化が始まっていたことが、テレワーク体制へのスムーズな移行を可能にした。

テレワークでも収益性・生産性の維持に成功

 だがパンデミックは、雇用者にも被雇用者にも新しい視点を開き、この国の働き方を大きく変えることになった。まずドイツ企業の多くの経営者たちは、「コロナ禍のために、テレワークが秘める大きな可能性を発見した」と語っている。

 製造業を除く業種の企業経営者は、社員の大半が自宅から働いても業務がスムーズに進み、売上高や収益性、生産性が減らないことを学んだ。ZoomやTeamsなどリモート会議のためのアプリケーションは、自宅から外国の顧客と商談を行うことを可能にした。また多くの経営者は、テレワーク拡大がオフィスの賃借費用、光熱費、出張費などの経費削減につながる可能性に気づいた。

 たとえばドイッチェ・バンク(ドイツ銀行)のカール・フォン・ローア副頭取は去年7月に日刊紙とのインタビューの中で「コロナ危機によって、テレワークは非常に良く機能することがわかった。特に大都市での長い通勤時間がなくなるので、社員たちの生産性はコロナ前よりも改善した。我々は現在、不動産にかかる費用の内どの部分を節約できるかを検討している」と述べている。

 またドイツの公的貯蓄公庫「シュパーカッセン・フィナンツ・グルッペ」の有価証券運用部門Deka-Bank(デカ銀行)は、将来社員の約30%にテレワークを行わせるという方針を打ち出した。このため同行は、2022年からフランクフルト・アム・マインの新しい本社ビルで賃借するオフィスの面積を、コロナ前に持っていた計画よりも25%減らした。

 ドイツの大手保険会社アリアンツでは、去年春のコロナ・パンデミック第1波の際に、社員の90%が在宅勤務を行い、去年7月の時点でも75%がテレワークを行っていた。同社は「現在のオフィス面積の3分の1が不要になるかもしれない」という見解を明らかにしている。

 一方、社員からもテレワークは歓迎された。その理由は通勤時間がゼロになったことや、自分が好きな時間に仕事を始め、終えることができること、国内外の出張がなくなり家族と過ごす時間が増えたことである。

 DAK(ドイツ一般健康保険)が去年7月に公表したアンケート調査結果によると、去年春のコロナ・パンデミック第1波で初めて長期間のテレワークを経験した社員の約77%が、「将来も、少なくとも部分的にテレワークを続けたい」と答えた。

 DAKによると、回答者の66%が、「テレワークの最大の利点は家庭と職業のバランスが改善されたことだ」と答えた。テレワークの場合、自宅で働くために家族との対話が増え、コミュニケーションは自然と密になる。会社向けの仕事の合間に休憩時間をとって、浴室の掃除をしたり、台所のゴミを捨てたりすることもできる。オフィスで働く場合には、そうした家事を行うことは不可能だ。妻が夫に対して「あなたは会社の仕事ばかりやっていて、家庭を顧みない人ね」と愚痴をこぼすことも少なくなる。つまりテレワークは、家族とともに過ごす時間を長くすることによって、ワークライフバランスを改善する効果を持っていたのだ。

 ドイツのニュース週刊誌『シュピーゲル』が去年9月に公表したアンケート調査結果は、テレワーク経験後のドイツの働き手の心境の変化を浮き彫りにしている。「去年春のロックダウン中に、良いと思った点は何でしたか」という問いに対して、回答者の47.1%が「日常生活のスピードがゆっくりになったこと」と答え、31.2%が「人生で大切なことに集中することができた」と回答している。また22.1%が「家族と一緒の時間が増えたこと」と述べている。

 つまりテレワークは、この国で働く多くの人々のワークライフバランスを改善したのだ。

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