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養老孟司「生死をさまよい、娑婆に戻ってきた」病院嫌いが心筋梗塞になって考えたこと

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447万部の大ベストセラー『バカの壁』の著者として知られる解剖学者・養老孟司氏が、82歳で心筋梗塞に。長年健康診断も一切受けず、かねて避けてきた現代医療。しかし25年ぶりに東大病院にかかり入院することに……。そして考えた、医療との関わり方、人生と死への向き合い方。体験をもとに、教え子であり主治医の中川恵一医師とまとめた『養老先生、病院へ行く』を上梓。同書より第1章を2回に分けて特別公開する──。(第1回/全2回)

※本稿は、養老孟司、中川恵一『養老先生、病院へ行く』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。

病気はコロナだけじゃなかった

2020年2月後半、新型コロナウイルス(以下「新型コロナ」や「コロナ」とも表記)の感染者が急増してから、外出できなくなってしまい、鎌倉の自宅に缶詰状態になってしまいました。

取材や打ち合わせは鎌倉の家に来てもらって行うので、外出するのは自転車に乗ってタバコを買いに行くくらい。公衆衛生の観点でいうと、感染症は人にうつさないことが基本ですから、自分なりに人との接触は避けていました。

それでも感染するのは仕方のないことです。感染症は感染するかしないかのどちらかですから。感染しないつもりでいても、感染するときはします。高齢者ですから、重症化して亡くなることもあるでしょう。

同年3月26日に、このたび刊行した『養老先生、病院へ行く』の共著者で東京大学の後輩でもある医師の中川恵一さんと「猫的視点でがんについて考える」(『医者にがんと言われたら最初に読む本』所収)という対談を行ったときも、そんなお話しをしたのを覚えています。

ところが、病気はコロナだけではありませんでした。6月に入ってから、私自身が別の病気で倒れてしまったのです。

新しくよりよい世界への扉を開こうとしている男
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NiseriN

「身体の声」に背中を押されて…

私はよっぽどのことがなければ、自分から病院に行くことはありません。ただ家内が心配するので、仕方なしに病院に行くことはあります。自分だけで生きているわけではないので、家族に無用な心配をかけるわけにはいきません。

養老孟司、中川恵一『養老先生、病院へ行く』(エクスナレッジ)
養老孟司、中川恵一『養老先生、病院へ行く』(エクスナレッジ)

ところが今回は様子がかなり違っていました。6月4日の「虫の日」に、北鎌倉の建長寺で虫塚法要を終えるまでは何でもなかったのが、10日くらいから体調が悪いと感じるようになりました。

在宅生活が続いたことによる「コロナうつ」かとも思いましたが、「身体の声」は病院に行くことを勧めているようでした。

身体の声というのは、自分の身体から発せられるメッセージのことです。例えば、昼に何か食べて、その日の夜、あるいは次の日の朝でも、「なんだか調子が悪いな」と思ったら、昼食に食べたものが悪いとわかります。このとき自分の身体は、いつもの状態と違う何かを伝えていると考えています。

現代の医療システムに巻き込まれたくない

家内も早く病院に行きなさいと催促しています。長年、健康診断の類いは一切受けていなかったこともあり、仕方なしに病院に行って検査してもらおうと決心したのです。

なぜ病院に行くのに決心がいるのかというと、現代の医療システムに巻き込まれたくないからです。このシステムに巻き込まれたら最後、タバコをやめなさいとか、甘いものは控えなさいとか、自分の行動が制限されてしまいます。コロナで自粛しているのに、さらなる自粛が「強制」されるようなものです。

なぜ医療システムに巻き込まれることにこれほど悩むのかについては、『養老先生、病院へ行く』の中で詳しく述べましたが、そのことで家内と対立するのも大人げないので、病院に行くことを決心したのです。

いったん医療システムに巻き込まれることになったら、つまり病院に行ったら、あとは「俎(まないた)の鯉(こい)」です。すべてを委(ゆだ)ねるしかありません。それは覚悟していました。

25年ぶりに東大病院を受診する

受診の相談をしたのは、中川恵一さんです。東京大学医学部附属病院勤務で、がんの放射線治療が専門ですが、終末医療の造詣(ぞうけい)も深く、『自分を生きる 日本のがん治療と死生観』という本を一緒に書いたこともあります。

82歳の年寄りですから、重大な病気があれば、そのまま終末医療に入れるかもしれません。それはそれで好都合です。

また、中川さんは私のような「医療界の変人」への対処法もよくわかっています。その安心感もありました。そこで6月12日、中川さんに連絡を入れてみることにしたのです。

そのときの私の症状は、1年間で約15kgの体重減少、あとはなんだか調子が悪い、元気がない、やる気が出ないといった不定愁訴(ふていしゅうそ)だけです。体重がなぜ10kg以上も減ったのか、理由はわかりません。

6月中は何かと忙しく、そのときは緊急性があると思っていなかったので、少し暇ができる7月に入ってから受診できるかどうか相談しました。

ところが、その直後、7月以降の予定がいくつも入ってしまい、身動きがとれなくなってしまったのです。そこで、6月20日過ぎに改めて受診の調整をしてもらい、6月26日に東大病院で中川医師の予約をとりました。東大病院を受診するのは25年ぶりのことでした。

今から思うと、この日に診てもらわなければ、自力で病院にたどり着くことは不可能だったかもしれません。というのは、受診日の直前3日間はやたらと眠くて、猫のようにほとんど寝てばかりだったからです。

まさかの心筋梗塞

6月26日、友人の運転で鎌倉から本郷の東大病院まで連れていってもらいました。中川医師の指示で心電図と血液検査を受けました。心電図をとってくれた検査技師は、特に何も言わず、表情も変えていないので、特に心臓に異変はないのだろうと、そのときは思っていました。

それから中川医師の部屋に行き、問診を受けました。血液検査は糖尿病の数値が高かったくらいだったので、次の受診の予約をとり、家内や秘書らとともに病院の待合室で待機していました。

東大病院のある本郷から近いので、御茶ノ水の山の上ホテルにある老舗天ぷら屋(てんぷらと和食 山の上)に行って、食事をしようかなどと話していたくらいで、今日はそのまま帰れると思っていたのです。

そこへ、中川医師が急ぎ足でやってきました。「養老先生、心筋梗塞です。循環器内科の医師にもう声をかけてありますから、ここを動かないでください」と言われ、そのまま心臓カテーテル治療を受けることになりました。その前後のことは、半分寝ているようだったのでよく覚えていません。

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