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“難攻不落の名城”ゆえに…熊本城の復旧にまだ17年も必要なワケ《加藤清正vs最新技術》 復興のシンボル・熊本城の今 #1 - 葉上 太郎

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「復興のシンボル、天守閣が一般公開!」。このような報道が目立つ。

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 熊本地震で見るも無残に被災した熊本城である。最優先で進められた天守閣の修復工事が完了し、4月26日に一般公開が始まるのだ。

「よかった。発災から5年でようやく城が直ったのか」。そんな声を聞く。

 とんでもない。工事は天守閣の修復など一部が済んだだけで、全体からするとほんの1割程度の復旧でしかない。そもそも熊本城の修復には20年もかかり、この3月末でようやく計画の3年が過ぎたばかりなのだ。


馬具櫓。発災から1カ月近く経った2016年5月10日に石垣が崩落した

 なぜ、長い年月がかかるのか。それは被害が著しいのに加え、戦国武将の加藤清正が築いた難攻不落の城であるからだ。城攻めが難しく造ってある分、復旧工事も難易度が増す。さまざまな難工事が待ち受けていた。(全2回の1回目/後編に続く)

深夜に襲ってきた“最大震度7”

 熊本地震の本震、つまり2度目の最大震度7が襲ったのは2016年4月16日午前1時25分だった。

 熊本市役所で熊本城総合事務所に勤務している技術主幹、古賀丈晴さん(49)は、ちょうど市役所の本庁舎にいた。当時は都市建設局に配属されていて、泊まり掛けで地震対応を行っていたのである。

 熊本市の揺れは震度6強。28時間前に起きた前震の震度6弱より強かった。その日は“金曜日の夜”だったので、市役所周辺の繁華街では、まだ呑んでいる人が多くいた。驚いた酔客が一斉に店を飛び出して屋外に避難した。

 庁舎にいた職員は、庁内班と庁外班に分かれて行動を始め、庁外班は人々を広場に誘導した。古賀さんは庁内でバタバタと災害対応をしているうちに夜が明けた。

 窓から外の景色が見え始めると、辺りの職員がざわついた。

「あれっ、櫓がない」

 市役所は熊本城の真正面にある。都市建設局のある9階からは、東十八間櫓(ひがしじゅうはちけんやぐら)がよく見えた。清正が築城した1600年代初頭の創建と見られ、国の重要文化財に指定されている。

「あれっ、櫓がない」。古賀さんは驚いた。

 倒壊し、滑り落ちていたのだ。

 古賀さんは、のちに熊本城がどのようになっているか見に行ったが、櫓や石垣が崩落していて散々な状態だった。天守閣からも大量の瓦が落ちていた。「よもやこのような状態になるなんて……」。涙が込み上げてきて、あふれそうになった。

 熊本市民にとって、熊本城は親しみのある存在だ。それがボロボロになった姿で立っているのだから、人々の受けた衝撃は大きかった。被災で落ち込んだ心に、喪失感を与えた。

約8200平米の石垣が崩落

 熊本地震の揺れには特徴がある。短時間の間に激しい余震が何度も何度も襲ったのだ。

「収まったと思ったら、また激しく揺れる。1時間以上続いたような気がします」。多くの人が本震のあとの揺れをそう語る。こうした断続的な強い揺れに、伝統的な建築物は弱かった。

 熊本城では、東十八間櫓と同じ頃に創建されたとみられる建造物など13棟が国の重要文化財に指定されていた。復元された建物も20棟あった。これら全てが被災してしまったのだ。特に東十八間櫓など2棟の国指定重要文化財と、5棟の復元建造物は倒壊してしまった。

 石垣の損壊も、目を覆わんばかりだった。全体の1割に当たる約8200平米が崩落したほか、膨らみや緩みを含めると全体の3割が被災した。

 地盤は70カ所で陥没や地割れが起きた。

「前震の段階では、まだ修復可能かと思っていましたが、とどめを刺されたかのように感じました」。古賀さんは振り返る。

攻めにくい城は、工事もしにくい

 それでも熊本市は修復すると決めた。18年3月に策定した復旧計画によると20年もかかる。

「全国的には石垣しか残されていない城が多い中で、熊本城には復元も含めて多くの建造物が残っています。これらが一度に被災しました。通常、重要文化財や歴史的建造物の大規模修理は20~30年周期。解体修理となると100~200年に1度という話を聞きます。こうした工事以上に難しい修復を、全ての被災建物で一気に行わなければなりません」。復旧工事が長くなる理由を古賀さんが説明する。

 どのような建築物も、修復より新築の方が簡単にできる。例えば、国の重要文化財の長塀は、決して平坦な石垣の上に建てられていたわけではない。242メートルの延長も真っ直ぐではなく、少しずつ曲がるなどしていた。このため現場では柱の1本1本に神経を使って修復する作業が続いた。

 しかも、難攻不落といわれた城だけに、堀が張り巡らされて、石垣は高い。攻めにくい城は、工事もしにくいのだ。被災の特殊さもあり、どのような手法で解体や復旧工事を行うかは、城との知恵比べのような一面もある。

 その象徴的な現場があった。緊急工事で解体保存した飯田丸五階櫓(いいだまるごかいやぐら)と石垣だ。被災後、「奇跡の一本石垣」として有名になった場所である。

 この櫓は2005年の復元建造物だ。明治初期に陸軍が撤去し、1877(明治10)年の西南戦争で砲台として使われた。西南戦争では、西郷隆盛の率いる旧薩摩藩士軍が政府軍と戦った。だが、西郷隆盛は政府軍が籠もる熊本城を攻めあぐね、「官軍に負けたのではない、清正公に負けたのだ」と述べたと伝えられている。それだけの構造を持つ城だった。

 飯田丸五階櫓が建つ石垣は、熊本地震の前震で南側が崩落。本震では東側も崩れた。東南の石垣が全て崩れていたら、櫓も転落してしまっただろう。しかし、角の石組が一列だけ残り、壁がひび割れて床がしなる櫓を支えた。その必死で耐える姿を自らに投影する被災者が多かった。

 だが、余震や強風でいつ崩落するか分からない。

高さ14メートルの「鉄の腕」で櫓を支える

 そこで、早急に解体保存することにしたが、櫓や残された石垣がいつ落ちてくるか分からないので人が近づけなかった。危なくて工事に着手できないのだ。市役所では方法が見つからず、城の復元工事に携わってきた業者に投げ掛けると、下から支えるのではなく、櫓の後ろから屋根越しに腕を伸ばすようにして抱え込み、床下に手を入れるかのごとく支えを入れたらどうかという案が出た。そこで、鉄骨で高さ14メートル・長さ32メートル・幅5.5メートルの巨大な構造物を造った。総重量は470トン。関係者の間では「鉄の腕」と呼ばれた。

 鉄の腕で櫓が落ちないように支えると、遠隔操作の無人重機で地面に散乱した石を取り除いた。そして石垣の下から鉄骨を組み、高さが21メートルもある巨大なステージ状の「構台」を造った。構台にはいくつもの役割があった。石垣が崩落しないように押さえる。櫓解体のための足場の基礎になる。真横に堀があるような場所なので、ステージ上は作業スペースにもなった。

 高さ21メートルというと、5~6階建てのビルに匹敵する高さだ。しかし、石垣は高さが21メートルもあるので、どうしてもこの高さに合わせる必要があった。

 これほど高い石垣が造られたのは城を守るためだ。その上に外観は3層・内部は5階建ての櫓が造られ、下から見ると天を仰ぐようだったろう。難攻不落の城ならではの構造だ。

城を残すために、後世に残らない構造物を造る

 しかし、せっかく苦労して造築した鉄の腕や巨大構台も、櫓の解体が終わるまでに解体した。次の石垣の解体に邪魔になるからだ。

 現在、飯田丸五階櫓があった場所では、石垣まで取り払われて保存されている。今後は石垣を積み上げ、その上に櫓を再建する工事が行われる。

 これから進められる復旧工事でも、知恵や工夫を凝らした巨大な鉄骨構造物が造っては壊されるのだろう。さすがに鉄の腕は「一本石垣」があった飯田丸五階櫓だけに必要な工法だったが、巨大な構台は他の櫓の解体修理などでも状況に応じて使われるからだ。城を残すために、後世に残らない構造物を造る。手間がかかるだけでなく、経費もかかる。

 注目された天守閣の修復でも特殊なやり方が行われた。

 熊本城の天守閣は、西南戦争の開戦直前に焼失し、1960年の熊本国体開催に際して再建された。熊本城の復元建造物が木造になるのは1981年からなので、鉄筋鉄骨コンクリートなどで造られた。櫓としては、大天守(地上6階・地下1階)と小天守(地上4階・地下1階)で構成されている。

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