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「ネット選挙運動」の「誤解」と争点

既に報道各社が報じているように、安倍新首相が2013年夏の参議院選挙までに、ネット選挙運動の解禁に取り組むことに言及した。

「ネット選挙」来年の参院選までに解禁 安倍晋三首相、就任後初の記者会見」
http://www.j-cast.com/2012/12/27159786.html

自民党をはじめとする各政党が2012年の衆議院選挙のマニフェストに掲げていたため、ある意味では既定路線といえる。

「「ネット選挙運動」をめぐる各政党の2012年衆議院選挙の見解(マニフェストを並べてみた)」
http://ryosukenishida.blogspot.jp/2012/12/2012.html

しかし、ネット選挙運動の解禁をめぐる論点というのは、どうにも見えにくい(ように思われる)ので、少し整理してみたい。まず公職選挙法は

第一条 この法律は、日本国憲法 の精神に則り、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする。



ことを目的としている。だが、インターネット・メディアの速報性、拡散性といった技術特性は、必ずしもこの公職選挙法の目的との相性が良いとはいえない。「インターネット・メディアの可能性」というときには、大抵こういった技術特性を活かした、たとえば個人が企業や政治家、行政組織と対峙できる「非対称性」に新しい可能性を見出している。しかし、この「非対称性」を活かすことができる人は可能性としては開かれていても実態としては限られている。言い換えると「機会の公平」はともかく「結果の公平」は維持できない可能性が高い。

他方、現行の公職選挙法において、選挙運動におけるいわゆる「文書図画」の利用はビラの枚数やポスターのサイズ、枚数なども規定し「結果の公平」を重視している。
第百四十二条  衆議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙においては、選挙運動のために使用する文書図画は、次の各号に規定する通常葉書並びに第一号から第三号まで及び第五号から第七号までに規定するビラのほかは、頒布することができない。この場合において、ビラについては、散布することができない。


一  衆議院(小選挙区選出)議員の選挙にあつては、候補者一人について、通常葉書 三万五千枚、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に届け出た二種類以内のビラ 七万枚      




(...以下、略)




「インターネット・メディアの選挙運動への利用は総務省の解釈にすぎない」という説明を見るが、現行法を読む限り必ずしもそうもいえない。いわゆる制限列挙によって、「〜(という法律で定めた形式のもの)のほかは、頒布することができない」としているので、公職選挙法が指定しているものを除くと認めていないのである。そしてインターネット・メディアはここに指定されていない。ということは、インターネット・メディアは選挙運動に利用できない、と考えるほうが自然といえる。

また同様にしばしば「インターネットが普及したのに、利用を認めないのは時代遅れ」という指摘がなされるが、これもまた必ずしも的を射た指摘とはいえない。書籍、ラジオ、新聞、テレビといったメディアはインターネットよりも先に普及し、中には高い普及率を示すが、よく知られているように候補者による自由な利活用は認められていない(ところで、新聞を見ると各全国紙を合計して、朝刊世帯普及率が約46%というのはいろいろ興味深いですね。http://adv.yomiuri.co.jp/yomiuri/busu/busu01b.html(読売新聞調べ))。

加えて、公職選挙法はあいさつや戸別訪問も禁止している。



第百四十七条の二  公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域)内にある者に対し、答礼のための自筆によるものを除き、年賀状、寒中見舞状、暑中見舞状その他これらに類するあいさつ状(電報その他これに類するものを含む。)を出してはならない。




 第百三十八条  何人も、選挙に関し、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて戸別訪問をすることができない。 




2  いかなる方法をもつてするを問わず、選挙運動のため、戸別に、演説会の開催若しくは演説を行うことについて告知をする行為又は特定の候補者の氏名若しくは政党その他の政治団体の名称を言いあるく行為は、前項に規定する禁止行為に該当するものとみなす。




このようなメディアや戸別訪問等に対する規制が存在するなかでネット選挙運動の(自由な)解禁だけを認めることには整合性の問題が生じてくると言わざるをえない。「ネットはお金がかからない」というけれど、現実にはすでに多くの広告代理店やPR会社、ウェブ制作会社が規模の大小はあれど、政党や候補者から仕事を受注している。それでいて現行の改正案では電子メールの原則や有料広告を複雑な条件のもと原則禁止にするなど、すでに広告代理店やPR会社、ウェブ制作会社など多様な主体が参画しているだけに、理想的だが現実的とは考え難い条件も存在する。

「衆議院 議案」(パーマリンクがないようなので、関心のある方は「公職選挙法の一部を改正する法律案」で探してください。)
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm

なぜ、このような公職選挙法の目的と、複雑に過剰に均質化や公平を企図するような条件が存在するのかというと、公職選挙法の目的とその成立時の時代背景がある。現在の公職選挙法の原型は1950年に遡ることができる。当時は第2次世界対戦の敗戦直後で、物価や物資の調達に制限があった。そのため資金力の違いが選挙結果に影響しないようにという配慮のもと、このように半ば過剰に、選挙期間中に、候補者が使用出来るメディアを現在の感覚からすると過剰に制限して公平な政治空間のなかで、候補者を競わせることを重視した結果である(ただし、運用面には抜け穴が多く、しばしば「ザル法」などと呼ばれてしまう)。

ところで、誤解のないように述べておくと、筆者はネット選挙運動の解禁には賛成である。政治の透明化や政治と国民の距離を近づけること、国会議員に政策立案競争を行なってもらう必要があると考えるからだ。このような理念が、現行の公職選挙法の目的よりも上位に来ると考えるがゆえに、インターネット・メディアに限らず各種メディア、あいさつ、戸別訪問等も含めた総合的な再検討が必要と考える。そのためには、理想としては法改正としては一般にハードルが高いと言われるが、公職選挙法の目的の改正が必要だろう。

2012年の衆議院選挙では政界の大きな地殻変動があったが、次の参議院選挙でも「激変」が起きることを本音で望む候補者は多いとは考えにくい。よくチェックしておかないと、結局骨抜きの公職選挙法の「改正」が導入されてしまう可能性も否めない。最近ネット選挙運動の解禁を求める声をしばしば耳にするようになったが、なぜネット選挙運動の解禁を求めるのか、その理由は曖昧なことが多い。現実に目的からの改正が実現するかはさておきもう少し深く掘り下げたほうがいいのではないか。

ここまでの話は2012年の衆議院選挙以前から存在する論点だったが、今回の衆議院選挙を通じて、ネット選挙運動についての新しい論点が複数生まれた。機会を改めて、記してみたい。

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