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「何度もシャッターを切ることをためらった」 安田菜津紀さんが"遺品"の写真を通して伝えたい思い - 写真展『照らす 生きた証を遺すこと』

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亡くなった人々が生前大切にしていた品々や、故人を追憶する人たちの姿。

そんな"命"にまつわる作品30点を展示する、フォトジャーナリスト安田菜津紀さん(NPO法人Dialogue for People副代表理事)の写真展『照らす 生きた証を遺すこと』が、東京都新宿区西新宿のオリンパスギャラリー東京で開催されている。

シリアの紛争地など海外でも取材活動を行ってきた安田さんだが、今回の写真展に並ぶのは東日本大震災以降の10年間で国内において撮影したものだ。

東北の被災地をはじめ、亡くなられた人々の生きた証を追う中で、シャッターを切ることに躊躇を覚えることも多かったという安田さん。それでも、「亡くなられた方が生前、どんな生き方をしてきたのかを写真で伝えなければならない」と取材を続けてきた。

どんな風に生きたのか。なぜ亡くなったのか。

「生きた証」を伝える安田さんが写真展に込めた思いを聞いた。

遺品を通して「どんな生き方をしていたのか」を伝える

両手のひらに置かれた小さな靴。

写真展の案内にも使用されているこの写真は、東京都内の認可外保育所でうつ伏せの状態で長時間寝かされ、2016年3月11日に亡くなった甲斐賢人くん(当時1歳2ヶ月)が生前に履いていた靴を撮影したものだ。

©Natsuki Yasuda / Dialogue for People

賢人くんのお父さんから安田さんのもとに、「子どもが生きた証を伝えてほしい」と連絡があったことが撮影のきっかけだった。

写真の中の賢人くんの靴は先端の一部が擦り切れている。「まだよちよち歩きで、当時一生懸命歩く練習をしていたことがわかります」と話す安田さん。「その人がどのように生きたのかという証を伝えたい」と、これまで遺品にレンズを向けてきた。

「亡くなられた方々は言葉を発することができません。しかし、遺品にはその方がどんな生き方をしていたのかという多くのメッセージが表れます。託していただいたからにはしっかりと伝えなければならない。この10年間で多くの方を取材するたびに、その思いは強くなりました」

「念じながらシャッターを切ってください」

生や死と向き合う撮影現場だからこそ、安田さんは「ご遺族のペースを大切にすることを心がけている」と話す。出会ってから写真の撮影を始めるまでに2〜3年をかけることもある。

発生直後から安田さんが取材を続けてきた東日本大震災の被災地では、破壊の爪痕や被災した人たちの心の傷は深く、何度もシャッターを切ることに躊躇した。

今年4月、沖縄で戦争犠牲者の遺骨収集を続けている具志堅隆松さんを取材した時も、遺骨が次々と見つかる現場を前に安田さんは当初、撮影をためらった。そんな時、具志堅さんからかけられた言葉に、安田さんは「ハッとさせられた」と振り返る。

「具志堅さんから『あなたの写真を掲載した記事を、偶然ご遺族が目にするかもしれない。だから、遺骨が写真を通してご遺族のもとに帰れるようにと念じながらシャッターを切ってください』と言われました。シャッターの重みを意識することや、取材相手の方とのコミュニケーションを重ねながら、写真で何ができるだろうと考えられるようになったのがこの10年間の大きな変化です。それを言語化してくださったのが具志堅さんの言葉でした」

©Natsuki Yasuda / Dialogue for People

「笑っていない方がいいですか?」

故人の思いに加え、遺族から投げかけられる「大切な問いかけ」とも安田さんは向き合ってきた。

宮城県石巻市の大川小学校に通っていた次女のみずほさん(当時小学6年生)を震災で亡くした佐藤敏郎さんを撮影していた際、「笑っていない方がいいですか?」と尋ねられた。

"遺族らしさ"というものをメディアが無意識に型にはめようとしているのではないか。それを問いかけるような言葉だった。


「取材中、敏郎さんが震災前の学校で子どもたちの笑い声が響いていたことなどを生き生きと語られていた姿が思い浮かび、『笑った顔、そのままでいてください』と伝えました。知らず知らずのうちに自分も"らしさ"みたいなもので相手を縛っていないか。常に意識しなければならないと改めて考えさせられました」

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