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ストックの再分配を強化すれば、現行の社会保障を維持できる―結城康博氏インタビュー

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淑徳大学総合福祉学部の准教授・結城康博氏(撮影:BLOGOS編集部)
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BLOGOSが「知」のプラットフォームSYNODOSとタッグを組んでお送りするインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。

前回のインタビューでは、再分配機能の効果と必要性について聞きました。後編では、現在問題になっている社会保障制度の再編にスポットをあてていきます。 (取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

日本ではストックの再分配が機能していない


―最近は「これからの社会は利益の分配ではなく負担の分配をしなければならない」という言説が増えているように思います。

結城:確かに、高い経済成長が見込めないので負担の分配という部分はあると思います。そうは言っても、日本の再分配で、まだ機能していない部分があります。日本の所得や税金というのは、原則フローです。年収や月給に代表されるような「入ってくるお金」の再分配しか議論していません。既に持っている資産である土地や預貯金といったストックの富の再分配は、固定資産税など以外あまり社会システムに組み込まれていないのです。

―なぜストックの再分配が機能していないのですか?

結城:それはマイナンバー法案がないからでしょうね。個人情報の問題で反対する人も多いですが、私は賛成です。これを導入することで、次のステップとして金融機関口座とマイナンバーとを組み合わせることで資産を把握することが一部可能となるでしょう。ただ、タンス預金や海外預金は難しいですが。いずれにしても、現状では国民全員の資産をきっちり把握できないからストックへの課税という話にならない。日本では、高齢者が一番資産を持っているんですよ。よく世代間格差が問題になりますが、高齢者の世代内の格差の方が大きいんです。

資産を持っていない高齢者もたくさんいますが、何億も資産を持っている高齢者もいるわけです。社会保障というと、世代間の再分配とフローである所得の再分配の話になりがちなのですが、ストックの再分配の議論をもっとすべきだと思います。マイナンバー制を導入して、最終的にはストックの再分配を強化できる社会システムを構築すれば、あまり「負担の再分配」をしなくても大丈夫だと思います。

―ストックの再分配というと、いわゆる資産課税みたいなものですか?

結城:現在の再分配は、若者と高齢者の間で行われています。しかし、もう少し世代内再分配とストックの再分配をやれば、高齢者のための社会保障費用は、まだまだ私はまかなえると思っています。

先ほど指摘したように、何十億という資産を持っている高齢者でも、支給される年金額はそれほど変わらない。一方、資産ゼロで厚生年金15万円だけで生活している人もいるわけです。フローの部分の議論しかしていないので、これだけ状況に差があっても固定資産税の部分しか再分配機能が働かない。この部分の再分配を強化すれば、まだまだ日本の社会保障は給付を抑制したり、必要以上に負担を増やさなくても大丈夫だと思います。

これは前回の話に戻るわけですが、なぜ金持ちになって資産を積み上げてこれたか?というと、「運が良かった」という面もあるわけですから。

―ただやっぱり人間の心理として自分の実力だと思いたいのではないでしょうか?「運も実力のうち」という考え方もあるでしょう。それでも、再分配があった方が、社会全体が効率的ということなのでしょうか?

結城:今の日本は高度経済成長期が終わっていますし、企業のグローバル化も進み、超高齢化社会なっている。このように社会が変わっていく以上は、「勝った者が勝ちっぱなしでよい」という国民意識を変えていかないと最終的に日本国全体が滅びてしまう。お金持ちの方には申し訳ないですが、全部取るわけじゃないですから。

―そうなると「公共性」とか「社会とは?」といった議論になってきますよね?

結城:そうですね。コミュニタリアンとはちょっと違うかもしれませんが、一人の人間はやはり社会の中でしか生きていけません。プロ野球界全体が衰退している中で、いくら自分がホームラン50本打っても仕方ない。やはり、プロ野球業界全体が盛り上がっていかないと、意味が無いですよね。年俸10億円でも、業界全体が衰退していけば、早晩、それほど稼げなくなっていく。

―しかし、資産課税を強化すれば当然富裕層は嫌がります。その結果、「こんな資産課税の高い国には居たくない」といって、より税制が有利な国に移住するという可能性もありますよね。

結城:そういう人は、移住していいと思いますよ。しかし、私は、そういう人がそれほど多いとは思わない。アメリカやオーストラリアに永住する人がいてもいいと思いますし、それは自由でしょう。しかし、私はそれで日本の税収が激減するほどの規模の人が移住するとは思わない。やはり人間は生まれ育った所の方がいいはずですよ。

繰り返しになりますが、資産の所まで突っ込んで再分配を行えば、私はそれほど社会保障を抑制する必要はないと思います。今限界に来ているのは、フローの再分配ですね。

―資産課税を強化すれば、それほど急激に社会保障が破綻しないというのは、個人的には非常に意外でした。高齢者が増加する中で、今後の社会保障は絶対に支え切れなくなるというイメージがあります。

結城:ただ同世代間の再分配を高齢者の間でやるか、というと今の政府、自民党も民主党もフローの所だけやって、あまりストックの所には手をつけないんですよ。フローばかりに注目していては、低所得の高齢者も富裕層の高齢者も同じなのですが。

―ストックへの課税が進まないのは、テクニカルな部分では先ほど指摘があったように「捕捉できない」という理由があると思います。加えてやはり、高齢者の方が票になりやすいという部分や、お金があって政治力があるという理由もあるのでしょうか?

結城:審議会に出てくる人間もみんなお金持ちですからね。やはりお金持ちが優遇されやすい政策決定過程になっている部分は否定できないと思います。

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