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問われる大学全入時代の入試の在り方(後編) - 樋口 健

画像を見る かつての大学入試には《選抜》という意味での高いハードルがありました。学生たちは選抜をくぐり抜けるために一生懸命に勉強し、そのなかで成長をしていくのが常だったのです。しかし時代が変わり、一部の大学を除いては入試が努力の対象ではなくなりつつある、という話を「大学生が振り返る大学受験調査」を元に前編ではお伝えしてきました。では今の時代に合った入試とはどんなものなのでしょうか? 後編では、大学全入時代における入試の在り方についてお伝えしていきます。


全入時代における《育てる入試》の必要性

短大からの転換や専門学校が新たに大学を設けるなど、大学の数は年々増加しています。1990(平成2)年の時点でほぼ500程度だったのが現在では783と800近くになっています。この間、大きく増えたのが私立大学です。一方で、18歳人口を1990(平成2)年と現在を比べてみると実に6割にまで減っています。このようななかで、多くの大学は経営を続けていくために、学生をできるだけ多く集めていく必要があり、入試での学力選抜の位置づけが低下したというのは、事実だと思います。

そんな今だからこそ、全入時代に合った入試の再構築の必要性を強く感じています。とはいっても以前のように間口を狭くして学生を競わせようというものではありません。たとえば本来推薦・AO入試というのは、学生自身が将来と結びついた問題意識を持ち、大学入学前から自分の研究テーマに取り組んでいけることを目的とした選抜方式でした。その本来の目的を遂行するためにも、入試を通して学生が育っていく仕組みを考えていくべきです。学ぶ力や意欲を鍛えると同時に、大学での学びの呼び水になるような仕組みを入試の段階で整備することが、入学後の学生の伸びにも繋がっていくのではないでしょうか?



早期に合格が決まる推薦・AO入学者のモチベーション、どう高めるか?

前編では推薦・AO入試の入学者の学習習慣が未確立であることの課題について触れましたが、一般入試に比べて合否決定の時期が早いことも学生のモチベーションを低下させる引き金になることがあります。

たとえば高校によっては、クラスの3分の1から半数近くが推薦・AOで早期に合格が決まってしまうケースがあります。しかし同じクラスにはセンター入試のために2学期をがんばっていかねばならない生徒もおり、両者が混在している状況で、教師が学級経営に苦労しているという声も聞こえてきます。そのため学習意欲の維持を目的に、センター試験が必要ない生徒にも受験するように指導している高校もあるほどです。

推薦・AO入試で合格を決めた学生の、学びのモチベーション維持は大きな課題のひとつです。一般的な大学のAO・推薦入試は11〜12月ごろが合否決定のピーク。そこから数か月という時間は、放っておけば学生のやる気をまっさらにしてしまうどころか、マイナスにしてしまう可能性もあるのですから。そのようなリスクを減らすためにも、合格後から入学までの間に、学生のモチベーションを高めるための課題を大学側が課していくなどの対策が必要なのではないでしょうか?



大学側の入試の姿勢も、大学選びの基準に

学力不足を補うために大学が講じている対策として、「入学前リメディアル」というものがあります。これはいわば、高校の学習の補講のようなもので、大学の学習を十分に理解するために、高校で学んだ教科の復習をさせて4月の入学に備えるというもの。しかし一部には、大学での主体的な学びへの助走になるような課題を入学前の学生に積極的に課している大学もあります。

たとえばある私立大学では、学問への関心を高めるために、高校で学んだ知識を用いてのテーマ学習や、研究課題レポートを課しています。別の私大では、合格後に頻繁に学生を集めてキャリアカウンセリングを行い、将来を考えさせることでモチベーションを高めています。さらに入学後にはその成果を活かしてプロジェクト学習に参加させるといった試みも行っています。一方ある国立大学の例ですが「高校での学びから大学での学びへの転換」を合言葉にAO入試合格者を対象にしたSNSを開設しています。

ネット上のコミュニティーの中で、先輩学生や教員が大学での学びの魅力について語り、大学での学びについて理解を深める。それとともに自学教材提供、論文作成技法の指導など、まさに大学生としての学びにつながる統合した仕組みをICTをうまく活用してつくりあげています。

AO入試の本来の趣旨を理解して、きちんと学生を見て選抜しているか。また入学前にどのような取り組みをしているか。これら大学の入試に対する姿勢は、大学自体の姿勢を表しているとも言えます。先生も保護者も、偏差値だけでなく、志望校の入試の取り組みについてもしっかりと見ていくことが大切だと思います。

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