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私が菅首相の政治手法をスト2の「待ちガイル」だと思う理由

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元経産省官僚の宇佐美典也さんに「私が○○を××な理由」を、参考になる書籍を紹介しながら綴ってもらう連載。第7回のテーマは、のらりくらりと追及をかわす菅首相答弁の手法について。「待ち」の姿勢から、飛び込んできた相手に攻撃を加えて体力を削る――。宇佐美さんは、人気格闘ゲーム「ストリートファイター2」で物議を醸した戦術と重なる政治手法だと分析します。


私事になるが去る3月26日に「菅政権 東大話法とやってる感政治」という本を星海社からひっそりと出版させていただいた。“ひっそりと”と書いたのにはそれなりの理由があり、今回は、政権批判本であったり、中小出版社からの出版であったり、短期かつコンセプトベースで一気通貫に書いてみたり、と初めての試みが多く不安があったからで、しばらくは宣伝抑えめで売ってみて評判を見てみようというつもりだったのだが、幸にして今のところ好意的な書評を多くいただいている。

おかげで多少の自信も出てきたので、新著について「どのようにして作り上げていったのか?」ということについて書いてみたいと思う。これから本を書きたいと思っている人にとっても幾らか役に立つだろう。

24歳編集者から届いた菅首相の答弁手法を読み解く企画

Getty Images

星海社の編集担当の片倉くんから「本を書いてみないか?」と依頼のメールが来たのは去年(2020年)の11月9日のことだった。あんまり気が乗らなかったのだが、とりあえず話だけは聞いてみようと11月26日にZoomで会議をすることにした。ということであまり気が乗らないままweb会議に臨んだのだが、いざ顔を合わせてみると予想以上に担当の片倉くんが若々しく、メールの印象に反して「24歳」ということを聞き、普段基本的に同年代以上としか仕事をしない身としては「若者と仕事をしてみたい」と俄然乗り気になった。

それで片倉くんに話を聞いてみると

「菅首相や加藤官房長官のようなのらりくらりと追及をかわすような答弁手法について本を作りたい。仮タイトルとしては『東大話法』というものを考えている」

とのことだった。一時期「ご飯論法」などという言葉もあったが、さすがにその手の話法そのものを分析する論説に関しては掘り尽くされていると感じていたので、こちらからは

「答弁手法そのものの分析で今更本を書くのは厳しいし、そもそも『東大話法』という言葉自体の解説は提唱者の安冨歩氏の専売特許だろう。少し視点を変えて、ここでは菅政権の『東大話法』というものが政治的にどういう文脈で機能しているのか、という観点からもう一つ要素を加えて考えてみよう」

という提案をした。

そこで「野党が今の攻め方で菅政権のこうした『東大話法』を崩せると思うか?」ということが議題となり、当時話題だった学術会議問題関連の国会質疑などを見ながら二人で議論していたのだが、漠然と「野党の言っていることは筋が通っているし、菅首相の答弁は酷い内容だが、結局は今のやり方では、野党は菅政権を切り崩せないだろうな」という見解で一致した。

ストリートファイター2を見て気付いた「菅首相は“待ちガイル”」

共同通信社

そこで「なぜ野党は菅政権を切り崩せないのか考えよう?」ということを二人で議論していたのだが、いつの間にか二人でストリートファイター2の動画を見ていた。そして二人で出した一致した答えは

「菅首相は『待ちガイル』である。野党は菅政権を攻めているのではなくて、攻めさせられている。」

というものだった。

ややマニアックな話になるが、スト2でガイルが待ちながら近寄ってくる相手をいなしつつソニックブームを打ち、焦れて飛び込んでくる相手にサマーソルトキックを打って体力を削っていくのと同じような構図で、菅政権は攻めているようで「待ち」の政権である。概ね二人で政局を見ながら1ヶ月弱議論しながら見出したのは、

① 菅政権は説明をしないまま、政策を小出しに実行して国民に対して『(改革を)やってる感じ』をアピールする
② 政策には穴があるので、諸方面から総ツッコミに遭う。
③ 野党は各所からのツッコミを受けて政府を追及する。菅政権はその追及をのらりくらりと『東大話法』でいなし続けて時間を稼ぐ
④ しばらくすると菅政権はまたも説明がないまま追及に答える形で政策を実行する
⑤ 結果として野党は攻め手をなくす→①に戻る

という構図で、ここで『東大話法』と『やってる感政治』という二つのキーワードをベースに菅政権の強さとその問題を解き明かす、という本書のコンセプトが決まった。幸にして今に至るまでの政治展開を見る限りは菅政権に関するこうした見立ては間違っていなかったように思う。Go To トラベルにしろ、緊急事態宣言の運用にしろ、今のところ菅政権は度々批判が集まっても、その度に批判されている方向に政策を転換し、結局のところ批判勢力が腰砕けになってしまっている。

国民民主党・玉木雄一郎代表との対談で解決策のヒントを模索

写真AC

では、ここから具体的にどういうように章立てを作っていくか、ということになるわけだが、

「菅政権独自の事情や時事のみの内容にすると、分析も深まらないし、短期的な読み物にしかならない。中小出版社の性質として、長く売ってヒットを狙うのが常道なので、それよりも菅政権が誕生するまでの経緯や、菅首相が柔軟に政策を実行できる官邸主導の背景まで掘って、21世紀の日本政治を振り返る内容にしよう」

という方向で落ち着いた。本の内容は想定する本の売り方とも連動するものである。

ここで概ね本の方向性は固まったのだが、課題として残ったのは「今の内容では菅政権の【分析】まではできても、問題に対する【解決策】が提示できない」というものだった。さりとてテーマが大きいだけにそもそもこの問題に対する解決策自体など持ちようもないわけで、ここで出た案が「では現実に菅政権と今までと違うアプローチで対峙している野党の当事者から【解決策のヒント】をもらうことにしよう」ということで、国民民主党の玉木雄一郎代表との対談をお願いさせていただくこととした。

こうして本書は

第一章で小泉政権から菅政権までの官邸主導の歴史、構造を追う
第二章で菅義偉氏が首相になるまでの流れを追い、菅首相の権力基盤を明らかにする
第三章で現政権の政策、答弁を分析し、問題を明らかにする
第四章で玉木雄一郎代表との対談の中で問題解決のヒントを探す
という構成にすることが12月末には概ね固まった。また本の内容からして早めに出すことが求められるので、出版時期も3月を目指すという短期プロジェクトになった。

「小泉政権以降のポピュリズムと行政改革を問い直す本に」

これまで私はある種“筆の向くまま”に半年〜1年程度かけて本を書いてきたので、ここまで出版社の担当者と二人三脚で、コンセプトベースで全体設計し、なおかつ短期で執筆したこともなかったので、無事に書き上げられるか、また、いいものができ上がるか不安であったのだが、スケジュール的になんとかこなすことができ、また今のところかなりいい評価が得られている。

このように私にとってはかなりチャレンジングだった本書籍の執筆作業だが、文中に出てきた片倉くんから本書について紹介文をもらっているので最後に紹介することとしたい。

「お答えは差し控える」「そのような指摘は当たらない」…おなじみの菅義偉氏の答弁レトリック「東大話法」を糸口に菅政権を分析したのが『菅政権 東大話法とやってる感政治』です。

東大話法とは、政治家の答弁原稿を作るような東大卒エリート官僚が常用する詭弁的話法…ですが、現在やや党派性を帯びた使い方をされがちです。その経緯は深く触れませんが、今「東大話法」というフレーズを反射的に警戒した人にこそ、ぜひ読んでほしく思います。東大話法というネーミングはさておき、菅政権を支える最重要システムである話法は、実は現代日本政治を最もよく象徴しているのです。

「政治家の言葉」問題のルーツを見ていくと、国民に改革のスローガンを刷り込んだ小泉政権のワンフレーズ・ポリティクスの行き着いた先が菅氏の慇懃無礼な話しぶりで、そして言葉同様に歪曲された改革幻想のなれの果てが、本書のもう一つのサブタイトルでもある「やってる感政治」だということが分かります。実績よりも実績アピールに精を出すやってる感政治について詳しくは本書で。

言葉というカジュアルな視点から、小泉政権以降のポピュリズムと行政改革を問い直す骨太な本になりました。

ではでは今回はこの辺で。

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