記事

フィリップ殿下死去で悲しみに揺れるイギリス 女王のために身を捧げた人生を追悼

1/2
Getty Images

イギリスのエリザベス女王(94歳)に70数年連れ添ってきたエディンバラ公フィリップ殿下(99歳)が9日、ロンドン郊外の公邸ウィンザー城で亡くなった。

軍人としてのキャリア追求を断念し、「君主の配偶者」として女王を公私両面で支えてきたフィリップ殿下は、今年2月、不調を訴えてロンドン市内の病院に入院。3月に別の病院で心臓関連の既往症の治療を終えて退院し、新型コロナウイルスの感染防止のために滞在していたウィンザー城に2週間ほど前に戻ってきたばかりだった。

市民からは「エリザベス女王のことが心配」の声も

王室が殿下の死去を発表するや否や、イギリスのテレビ、ラジオ、ニュースサイトは追悼のニュース報道でいっぱいとなった。筆者がBBCニュースのウェブサイトを開くと、死去についてのニュース記事で満載になっており、つい先ほどまでトップニュースだったコロナやワクチンの情報は下方に移動されていた。

夕方、自宅前の中庭で隣人たちの会話に参加してみると、ここでも殿下の話でもちきりだった。日本人の筆者以外は、トルコ人、スロバキア人、イギリス人という顔ぶれだ。

「自分のキャリアを捨てるなんて、すごい。特に昔は『男性が一家を支えるもの』という考え方が強かったから」とイギリス人の女性が口にする。トルコ人女性は「女王のことが心配。あれだけ長く一緒にいた人が亡くなったなんて。どんなに悲しいことか」と顔を曇らせた。

家に戻ってテレビを付けて、驚いた。BBCのニュース専門チャンネル、主力チャンネルBBC1とBBC2が特別追悼番組を放送し、いずれもまったく同じ番組だったからだ。予定していた番組スケジュールを午後10時までキャンセルし、代わりに特番を放送。ウィンザー城、バッキンガム宮殿前からの生中継ととともに、スタジオではゲストが殿下にまつわる逸話を語る。事前に制作された殿下の人生にスポットライトをあてた番組を挟みこみながら進行させていた。

司会者を含めた出演者全員が黒装束に身を包んでいた。

イギリス中に"喪のカーテン"が下りた日

女王に一生を捧げた殿下を称える英各紙(4月10日付、撮影筆者)

民放最大手でBBCのライバル的存在となるITVも同様の構成の番組を放送し、別のニュース専門チャンネル、スカイニュースも同様だった。教養番組を放送するチャンネルBBC4は番組予定をキャンセルし、BBC1の視聴を勧める通知を出すほどであった。

この日、イギリスにいる人はどの主要チャンネルに行っても殿下に関する番組を目にした。一斉に「喪のカーテン」が下りたかのようだった。

イギリスでは放送の多様性が重視されているものの、この日ばかりは一色に染まったと言える。

ロックダウンのなか、ウィンザー城とバッキンガム宮殿へ献花に訪れる人々の姿

多くの国民にとって、フィリップ殿下の死去は非常に大きな出来事だった。

死去の日以降、ウィンザー城やバッキンガム宮殿に少しずつ人々が訪れ、献花を行っている。イギリス全体がロックダウン状態で大人数は集まってはいけないとの行動規制が続くなかでの行動だ(12日から、一部解除)。

王室は国民に対し、ウィンザー城やバッキンガム宮殿に追悼のために集わないようメッセージを出した。追悼の意はオンラインで受け付け、追悼の花束を置くよりも、これを慈善団体への寄付に変えてほしいと呼びかけている。それでも、人の波は小規模ながら今も続いている。

ロンドンの中心街ピカデリー・サーカスにある大型広告スクリーンには殿下の生前の笑顔の姿が映し出された。

女王と殿下が結婚式を挙げたウェストミンスター寺院では、この日の夜、99歳で亡くなった殿下にちなみ、鐘を99回鳴らした。

10日正午からはフィリップ殿下を追悼する41回の礼砲が、ロンドン、エディンバラ、ほか各地で、また洋上の海軍艦から放たれた。この模様はテレビで生中継された。

イギリスは17日まで8日間の喪に服し、王室の居宅などでは半旗の掲揚となる。政府庁舎は葬儀翌日の午前8時まで、半旗を掲げる予定となっている。

2人で1つだったエリザベス女王・フィリップ殿下夫妻

Getty Images

死去翌日10日の新聞各紙のトップ記事は、フィリップ殿下の死去に関するニュースで埋まっていた。「トップ」だけではなく、1ページ目から10ページ以上続けた新聞も少なくない。また、それぞれ別冊にした訃報や写真集を綴じこんだ。

日曜日となった11日も、各紙、数ページ続くトップニュースとしての扱いに加え、新たな別冊が発行された。殿下の葬式は17日に予定されているが、その様子を伝える特集冊子が翌18日付の新聞に入ることが予想され、死去から10日ほど、イギリス国民には殿下にまつわる情報が伝え続けられる。 このことからも、君主・エリザベス女王の長年の伴侶であったフィリップ殿下死去の事実が国民にとってどれほど大きなものかがうかがえる。

殿下の死は女王個人や王室の悲しみや痛みであるとともに、国民にとっての悲しみ、痛みである。国民は自分の家族に女王あるいは殿下の姿を投影させる。王家であっても、イギリスに暮らす1つの家族であることに変わりはない。

フィリップ殿下は女王の公務の際には必ずと言ってよいほど女王の隣にいた。2人はセットだった。殿下は高齢のため、2017年に公務からの引退を決めたが、それでも何十年にもわたり、女王の隣には殿下が、殿下の隣には女王がいた。今後は、2人一緒の姿を見ることはできない。「いるのが当たり前だった人」を失い、その存在感の大きさにしみじみと思いを馳せている。

「世界でもっとも偉大な、君主の配偶者」

エリザベス女王に勝るとも劣らず、イギリス国民はフィリップ殿下自身にも強い敬意と愛情を持ってきた。 歴史家マックス・ヘイスティングス氏はサンデー・タイムズ紙にフィリップ殿下について、「アウトサイダーの勝利」という見出しで寄稿した(4月10日付)。

同氏は、殿下の人生をこう要約する。

ギリシャ北西部ケルキラ島の「台所のテーブルの上で生まれた少年は、愛情も家も家族もないままに育った。しかし、将来女王になる女性の心を魅了したことで、フィリップ殿下は宮廷で仕える人々の憎しみや自分自身の失言に打ち勝ち、世界でもっとも偉大な、君主の配偶者となった」。

あわせて読みたい

「フィリップ殿下」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「オリンピックは中止すべき」の調査結果は正しくない〜統計はウソをつく

    新井克弥

    05月17日 14:16

  2. 2

    コロナ対策の都道府県別の評価【大阪府 最下位】

    山内康一

    05月17日 15:57

  3. 3

    ジェンダー問題の被害者?“おじさん上司”にも存在する生き辛さ

    ABEMA TIMES

    05月17日 09:23

  4. 4

    企業でいえば万年課長 大臣の一言でいつでも飛ばされる官僚はつまらない商売か

    ヒロ

    05月17日 10:54

  5. 5

    本仮屋ユイカ 有村騒動で涙…1ヵ月半で破綻した信頼関係

    女性自身

    05月16日 22:58

  6. 6

    東京オリンピック 強行しても拭えない「穢れ」の印象

    柴那典

    05月17日 08:16

  7. 7

    ようやく減りだした東京の感染者数 人流抑制は変異株に有効か

    中村ゆきつぐ

    05月17日 08:31

  8. 8

    対コロナ戦争の誇り高き勝利国インドを地獄に叩き落とした変異株 東京五輪は本当に可能なのか

    木村正人

    05月17日 09:33

  9. 9

    安倍政権以降、EEZで重要な国境離島が消失か 2020年末時点で8島の存在が確認できず

    野田佳彦

    05月17日 17:42

  10. 10

    石橋貴明の始球式が“神対応”と話題 若者ファンが急増のワケ

    女性自身

    05月17日 13:22

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。