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いまさらでも、思い付きでもいい。熊本地震5年、被災地のためにできること 巻誠一郎&芋生悠

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災害が起きれば、多くの人が思う。
「被災地のため、自分も何かを」

だが、何をすればいいのか。

見当はずれの支援になるかもしれない。
「いまさら」と受け取られるかもしれない。

そう思い、行動に移すのをやめてしまう―。
果たして、それでいいのだろうか。

撮影:塩畑大輔

ボートレーサーを目指す少女が、髪をバッサリと切る。
そんなCMに見覚えはあるだろうか。

「あたし、お母さんみたいになりたいけん。自分ば変えたいと」

熊本弁が流ちょうなのは、彼女が熊本出身だからだ。
芋生悠、23歳。


大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」などに出演。
「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2019」でベストアクトレス表彰もされたことがある、気鋭の女優だ。

熊本地震から5年を前に、インタビュー企画を申し入れた。
すると彼女から、こんな申し出があった。

「むしろ、私がお話を伺ってみたい方がいます。お礼を申し上げたいこともありまして…」

きっと復興支援のヒントを…


芋生が「対談」を希望したのは、元サッカー日本代表・巻誠一郎だった。

同じ熊本県生まれ。
2016年に熊本地震が発生すると、ボランティア活動に奔走し、話題になった。

撮影:塩畑大輔

「実は去年、巻さんにお世話になりまして」

2020年7月。熊本県南部を豪雨、そして洪水が襲った際、芋生は支援物資を東京から現地へと送った。
その際、届いた物資を熊本側で受け取り、避難所に配って回ってくれたのが、巻だったのだ。

「熊本地震や豪雨の被災地のために、何かをしていきたいという思いは、ずっとあります。では何をしていけばいいのか。熊本でずっと活動をされている巻さんなら、私にヒントをくださるんじゃないかと」

支援したくて。頼った先は…


都内のスタジオ。
対談の場に現れた巻に、芋生はまず礼を言った。

「巻さん、去年の熊本豪雨の時は、本当にお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」

撮影:塩畑大輔

芋生は俳優仲間にも声をかけて、できる限りの支援物資を集めていた。

大規模な洪水被害に見舞われた熊本のために、東京からでもできることをしたいと思った。
だが当初、ネットでリサーチしても「どんな物資が必要」や「どこに送れば被災者に届くのか」といった、生きた情報にはなかなかたどり着けなかった。

「それで連絡をくださったんですね」

「はい。結局のところ、巻さんのSNSアカウントにある情報に勝るものがなかった。なので、頼らせていただきました」

復興支援、コロナ禍ゆえの事情


熊本地震の時と同じように、巻は被災地を駆け回って、被災者支援に努めていた。

「自分でできる範囲で、ですけどね。今回はコロナがまん延していたので、活動には細心の注意や配慮が必要でした」

本人提供

「豪雨が起きた時は、ちょうど2週間以上東京に行っていなかったのでよかったのですが、活動を続けるためには引き続き上京するのは避けた方がよかった。なので、東京での仕事を全部キャンセルさせてもらいました」

7月から2か月間、自宅と洪水被害がひどかった人吉市との行き来だけに行動を絞った。
「密」をつくるわけにもいかない。最大で200人体制で動いていた熊本地震の時と違い、たったひとりで避難所を回り、物資を配り続けたという。

「そうしないと見えないものも、やっぱりあるんですよね。何より、人と向き合うことで、こっちも新しいエネルギーをもらえるところがある」

支援は自己満足?現地で得た"答え"


「芋生さんこそ、なぜ物資を送ってくださったんですか?」

巻が問いかけてきた。
以前、熊本地震の被災地を回った経験が大きかったと、芋生は思う。

2019年4月。
LINE NEWSの企画で、地震から3年がたった被災地をリポートした。

撮影:LINE NEWS編集部

熊本で生まれ、育った芋生だったが、地震直前に地元を離れ上京していた。
役者業に専念するためだった。だが結果として、多くの友人が被災する中、自分だけ安全な東京にいる形になった。

後ろめたく思った。何となく、熊本や被災地から足が遠のいてしまっていた。
リポートのため現地に足を運んだのが、地震後初めての被災地訪問だった。

故郷のために、何かはしないといけない―。
そう考え、それまでも東京でチャリティー映画上映会をやったりはしていた。

だが、役に立てている実感を持つことができなかった。
これは自己満足にすぎないんじゃないか。そう悩んでいた。

撮影:LINE NEWS編集部

だが、実際に現地を訪れ、被災者と交流を持ってみると、考えが変わった。
誰もが「来てくれてありがとう」と喜んでくれた。チャリティー上映会などの取り組みも「熊本を気にかけてくれてうれしい」とポジティブに受け止めてもらった。

「つらい思いをされてきたはずの被災地の皆さんの方が、私よりも前向きに進まれていました。先回りして悩むよりも、自分にできることをやった方がいい。そう教えていただいたんです。だから、去年の豪雨の時も、すぐ動けました」

プロデューサー・巻誠一郎


その現地リポートの現場で、芋生にはずっと気になっていたことがあった。

「なぜあの時、巻さんはずっと現場にいらっしゃったんですか?」

そう。2人は初対面ではなかった。
2年前、リポートの現場であいさつをかわしていた。だが、できあがったリポート記事の中に、巻はまったく登場していなかった。

2019年、熊本地震の被災地取材の合間に(撮影:LINE NEWS編集部)

「確かに、不思議ですよね」

巻は苦笑いで応じる。

リポート企画実現の裏で、巻は現地を駆けずり回っていた。
特にひどい被害があった益城町の町長に掛け合い、芋生との対談をセッティング。益城町の職員や、ハンドボール世界選手権のスタッフなどを取材する機会なども、次々と調整していった。

自分が登場するわけでもない企画に、なぜそこまで協力したのだろうか?
巻は答える。

「それはやっぱり、自分の力には限界があるから、ですね。被災地のことをもっと知ってもらおうと考えた時、限界を感じました」

女優だからできること


熊本県出身者の中でも、巻は指折りの知名度を誇っている。

2006年。ジーコ監督率いるドイツW杯日本代表にサプライズ選出をされた。
当時は「史上最高」と振り返る関係者もいるほど、代表人気が高かった。巻はサッカーメディアだけでなく、ワイドショーなどにまで追いかけられる「時の人」になった。

共同通信社

その知名度を生かして、熊本地震のことを積極的に発信してきた。
メディアも巻の被災地支援の様子を取材し、記事や番組にしてくれる。

芋生から見れば、圧倒的な発信力だ。
素直にそう伝えたが、巻は静かに首を振った。

「僕はあくまで、サッカー界の人間なんですよ」

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