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日銀への恫喝が続くことへの怖さ

自民党の安倍晋三総裁は23日のフジテレビ番組で、日銀が来年1月の金融政策決定会合で物価上昇率目標(インフレターゲット)の設定を見送れば、日銀法改正に踏み切る考えを明らかにした(日経新聞)。

「次の会合で残念ながらそうでなければ、日銀法を改正して、インフレターゲットをアコード(政策協定)を結んで設ける」とも述べたそうであるが、これは明らかな恫喝とも言えるものであろう。

今から約20年前の1992年2月に当時の金丸自民党副総裁が「日銀総裁の首を切ってでも公定歩合を下げるべきだ」と発言したことを記憶している方もいるのではなかろうか。当時はまだ日銀法は改正されておらず、日銀総裁が大蔵大臣の命令に違反した場合、または日本銀行の目的達成上、特に必要があると認められるときには、内閣が日銀の役員を解任できると規定されていた。ただし、この規定が発令されたことはなかった。

ちなみにインフレターゲットを世界で最初に取り入れたニュージーランドでは、同国の準備銀行法第49条で「準備銀行が、財務大臣との合意(PTA)に基づき決定された政策目標の達成を確保するにあたる総裁の実績が不十分であった」場合、総裁を罷免できるとされている。ただし、こちらも総裁罷免権が実際に行使されたことはない。

さらに安倍氏は「雇用についても責任を持ってもらう」と強調したそうである。米国の中央銀行制度では、物価安定と雇用最大化を促すというデュアル・マンデートとも呼ばれるFRBの2つの使命(目的)を持っている。さらに今月12日のFOMCでは、米失業率が6.5%を上回り、向こう1~2年のインフレ率が2.5%以下にとどまると予想される限り、政策金利を低水準にとどめるという目標を課した。これも意識しての安倍総裁の発言であったかと思われる。

このあたりについて、日銀は次回会合までに「物価安定の目途」の見直しを行うことを指示した。つまり、これは安倍総裁の要請もあり、2%という物価目標とアコードを検討するということになると予想される。新政権からはインタゲをやらないならば日銀法改正をちらつかせており、来年の総裁、副総裁人事なども見据えて、日銀としては飲まざるを得ない面もあろう。

しかし、いったんこのような脅しに屈するとなれば、次から次へと要求が突きつけられることが予想される。CPIの動向のみならず、名目GDPや失業率の数字を見ながら、日銀の緩和が足りないとばかり、次々と追加緩和が要求されるような事態ともなりかねない。

そもそも、白川総裁はゼロ金利下で物価を上昇させるプロセスにおける金融政策上の困難を指摘している。さらにこれは米国でも議論されていることであるが、金融政策が雇用の改善に働きかけるプロセスは、はっきりしていない。米国の今回の目標設定も、内容はかなりフレキシブルなものとなっている。

しかし、リフレ派の意見を取り入れている安倍氏は、フレキシブルな金融政策などとうてい飲めず、物価の上昇も雇用の促進も日銀に責任を押しつけ、それが達成できないとなれば、総裁などの罷免も行うつもりのように見受けられる。

これが何を意味するのか。中央銀行の独立性に関わる大きな問題であるとともに、そもそも中央銀行が金融政策で物価や雇用に直接働きかける手段は、現在の金融政策の仕組みでは持ち得ていない。それを行うには、まさに輪転機に働きかける必要があり、それも安倍総裁はすでに指摘している。それが何を意味するのか。そのあたりのことを考えれば、巨額債務を抱えた日本で、今後、非常に恐ろしい事態になりうる可能性があることを覚悟する必要があろう。これはどこかで歯止めを掛けなければいけない。

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