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モンゴルの地政学的位置2 ―モンゴルの対外関係―([特別投稿]河東哲夫氏/東京財団上席研究員)

現在のエルベグドルジ大統領はソ連の軍学校とハーバード・ケネディ・スクール、バトボルド首相はソ連の名門国際関係大学とロンドン・ビジネス大学大学院と、いずれも東西双方で教育を受けている。これがモンゴルの対外関係を象徴していると言える。なお両名とも中国で教育を受けていない。

1.対ロシア


(1)モンゴルはソ連時代のロシア一辺倒から脱し、今ではその資源をめぐって諸国を競り合わせている感があるが、ロシアとも首脳レベルでの交流をはじめ親密な関係を維持している。しかし経済面でのロシアの地位は相対的なものとなったし、軍事面においても米国が毎年モンゴルと共同演習を行っている中、最近になってやっと軍事教育・訓練面を中心にモンゴルとの軍事協力を強化し始めている。なお2009年5月モンゴルを訪問したロシアのプーチン首相は、モンゴルでの原子力発電所建設を念頭に原子力協力の推進も申し入れている。

(2)ソ連時代からモンゴルの資源利権に深く入り込んでいるロシアは、モンゴルがこの分野に他国企業を引き込むことに対して神経質になっている。埋蔵量で世界の5指に入ると言われるオユトルゴイ金・銅鉱山の開発についてモンゴル政府は、ロシアの参入に同意せず、カナダ、豪州等を競り合わせているようだ。

そして特に最近では中国の進出が急であり、ロシアは圧力を受けているものと思われる。ロシアはタバントルゴイ炭田、ドルノド・ウラン鉱床の開発等において中国と競合している。特に後者においては、ロシアが買収を策していたカナダ社の利権を、途中で中国が倍額で奪い取ったようである。また、タバントルゴイ大炭田開発にロシアが参入を望んでいるのに対し、モンゴル側はこれを引き合いにロシアの過去の対モンゴル債権を取り消させようとしている。

だが、モンゴル・ロシアの合弁非鉄企業のエルデネトが(モンゴル政府が51%を所有。ロシア側は政府系持ち株会社のロステクノロジーである)、その生産物の銅、モリブデンのほとんどを中国に輸出して、モンゴル国家予算歳入の約50%を担うと言われているように、モンゴル、ロシア、中国の利益が一致する場合もある。

そしてロシアが今でも、モンゴル鉄道の株半分を所有していること、その鉄道のゲージがロシア並みに広く、中国からの車両はそのままではモンゴル鉄道で使えないこと等、ロシアが依然として優位を維持する面は残っている。

(3)モンゴルはロシア政府に対する債務を完済していない。これが両国間の種々の案件において、バーゲニング・チップとして扱われている。2003年にソ連時代の債務(推定110億ドル)は既に取り消し、2010年12月の首相間交渉ではロシア時代の債権のうち97.8%を取り消した。残りの額の扱いについては、報道が一定していない。

2.対中国


ソ連時代緊張気味に推移した(文化大革命時代、内モンゴルではかなりの弾圧が行われたようである)対中関係も、1980年代央には緩和に向かい、領事協定が結ばれ、1990年にはモンゴル首脳が28年ぶりに訪中した。これはソ連でのペレストロイカ、新思考外交に歩を合わせた動きだったのだろう。ソ連崩壊後の1994年には友好協力条約が結ばれた。胡錦涛の国家主席就任後初めての外遊は2003年、モンゴルに対してのものであり、それ以来モンゴルの大統領は2回訪中、首相級の往来も行われている。

だが中国は一貫してダライ・ラマのモンゴル訪問には抵抗し、2002年訪問の際にはモンゴルとの鉄道運行を暫時停止している。

建設労働では中国人の進出が大きいようであり、またモンゴルの輸出の7割は中国向けとなっており、ソ連時代とは様変わりである。

3.対米国


(1)米国がモンゴルを承認したのは実に1987年と、新しい。初代米国大使がモンゴルに着任したのは1990年7月のことである。ベーカー国務長官は90年8月、91年7月にモンゴルを訪問しているが、それはソ連圏の東欧部崩壊の兆しが濃厚だった当時、戦略的な偵察の意味を持っていたことだろう。

その後も要人交流のレベルは驚くほど高く、モンゴル大統領は数度にわたって訪米、2005年11月にはブッシュ大統領とライス国務長官が来訪している。その他、首相、国務長官・外相、国防長官・国防相レベルでの交流は日常茶飯である。2005年10月には、ラムスフェルド国防長官が来訪している。これはイラク戦争、アフガニスタン作戦へのモンゴルの積極的な協力に感謝を表明する意味合いを持っていただろう。

(2)1991年から2011年までの間にUSAIDはモンゴルに計2.14憶ドルの無償援助を行った。農務省は1993年以来、モンゴルに食糧援助を行っている。2008年の食糧援助は500万ドル相当であった。

2007年には米国の「ミレニアム」経済援助資金2.85億ドルを得て、5年間で4案件を実施する合意が行われた。これは鉄道近代化、所有権概念の定着、職業教育、保健であったが、鉄道についてはモンゴル鉄道の株50%を有するロシアの介入で、米国は関与を断念せざるを得なかった。しかしこの「ミレニアム」資金提供で米国は日本を抜いて、モンゴルへのODA最大供与国となった。

(3)2011年には、モンゴルの資源企業が海外の証券取引所への上場を計画し始めた。上場先としてはロンドン、香港等があがっており、幹事としてはドイツ銀行、ゴールドマン・サックス、クレディ・スイスなどの名が挙がっている。

(4)米国太平洋軍とモンゴル軍は2001年から(2003年とする報道もある)毎年、2国間で軍事演習を行ってきた。2006年以降は、これに韓国を含めインド、タイ、バングラ、トンガ、ブルネイ、スリランカ、インドネシア、カンボジア、フィジーなど20カ国以上からも約250人が参加し、国連PKO参加等のための訓練を行っている。日本、中国、ロシア、仏等はオブザーバーを送っている。

4.対韓国・北朝鮮


モンゴルと中国、そして韓国・北朝鮮の間の位置関係は興味深い。歴史的にもこれら地域の間の交流は密接なものであったろうし、現代の位置関係はまさに戦略的そのものである。それを意識してか、モンゴルは韓国、北朝鮮の双方と緊密な関係を維持しているばかりでなく、2008年7月には6カ国協議の作業部会を誘致している。つまりモンゴルは、北朝鮮との格好のパイプになり得る国でもある。

2004年末には、モンゴル大統領が北朝鮮を訪問している。2006年からは韓国が米・モンゴルの共同軍事演習Khan-questに参加しており、2008年8月には韓国国防相がモンゴルを初めて訪問している。

5.トルコ


トルコとの関係は薄いが、モンゴル・チュルク両民族はユーラシア東半分の主要な存在であるし、古来から往来していたであろう。トルコも、中央アジアを外交の重点地域としているから、モンゴルもその中に入っているかもしれない。

2005年7月にはエアドアン首相がモンゴルを訪問し、トルコ輸銀から2000万ドルの融資を約束した。しかし民間経済関係は微々たるものに止まり、トルコは共同軍事演習を欲するも、中国が関連人員・資材の国内通過を認めない由。

6.中央アジア


モンゴルは中央アジア諸国と同質な文化を持っているように見えるが、歴史上は、チンギスハンの軍隊がサマルカンドを中心に咲き誇っていたホレズム王国などソグド人の国を蹂躙したのである。今日でも、モンゴルは中央アジア諸国のいずれとも国境を接していない(カザフスタンとの間は短距離ながらロシアになっている。ここは山岳地帯)こともあり、実際の関係は薄いように見える。2008年10月には上海協力機構首相級会合の場で、当時のバヤル・モンゴル首相がカザフスタンの原油を150万トン輸入する用意を表明したが、その後の状況はわからない。

なおモンゴルは上海協力機構のオブザーバーであるが、当面正規加盟国になる気はないとしている。実際はインド加盟問題(ロシアは中国の力を中和するためにインドの加盟を策するが、中国はまさにそれを嫌ってインドの加盟を阻害していると言われる)のあおりで、加盟問題が実質的に凍結されているためではないか。

7.国際経済・軍事協力・交流


(1)モンゴルはWTO加盟国であるが、FTAはいずれの国とも結んでいない。

現在、APECに加盟するべく運動中。

(2)前出のとおりモンゴルは以前から、国連PKO等に積極的な協力を行っている。

2003年からイラク、アフガニスタン(米軍、ISAFの双方に)に派兵している。2008年にはイラクに100人、アフガニスタンのISAFに21人を派遣した(アフガニスタンでは政府軍を訓練)。米国務省資料によればこれまでチャド、コンゴ、エチオピア、エリトリア、グルジア、コソヴォ、シェラ・レオネ、スーダン、西サハラに3千名以上を派遣している。

(3)なおインドとも最近数年、「北方の象」という名称の下、共同演習を行っている。

世界で中国と最長の国境線を有するのはモンゴル、次がインドの由であり、この両国の間の共同演習はさして奇異なことではない。

2011年9月行われた「共同演習」へのインドからの参加者は40名ほどであり、おそらく軽装備でモンゴルに来ているのであろう。重装備は中央アジア、ロシア経由の鉄道で運搬せざるを得ない。

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