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デジタル社会の実現を阻むのは「三つの壁」 - 「賢人論。」第136回(前編)太田直樹氏

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1963年創業のボストンコンサルティングは、世界最高峰の名門コンサルティングファームとして常に世界のビジネス界をリードしてきた。その日本法人に18年在籍し、経営陣にも名を連ねた太田直樹氏は、AIやITなどデジタル分野にも精通する文理両道の経営コンサルタントだ。そんな太田氏の目に、私たちの社会はどのように映っているのか。コロナ禍で浮き彫りとなった日本のデジタル化の遅れの要因と、2021年9月に発足するデジタル庁への期待について話を伺った。

取材・文/盛田栄一 撮影/丸山剛史

コロナ禍で国民もデジタル化の遅れに問題意識を持つように

みんなの介護 昨年から続くコロナ禍では、医療機関と保健所がいまだにFAXで情報をやりとりしていたり、特別定額給付金の給付に時間がかかったりと、日本社会のデジタル化の遅れが浮き彫りになりました。太田さんは総務大臣補佐官時代、地方がITを社会実装するための政策立案に携わり、現在もCode for Japan理事として、ITで地域の課題解決をめざす活動をサポートされています。日本社会でデジタル化がなかなか進まない現状を、太田さんはどう見ていらっしゃいますか。

太田 高度情報通信ネットワーク社会形成について定めた「IT基本法」がわが国で施行されたのは2001年。これを機に、日本は通信ネットワークや産業、行政のデジタル化に向けて本格的にスタートを切りました。

ところが、あれから20年経った今も、特に行政のデジタル化はほとんど進んでいません。専門家や有識者はその事実を知っていますが、国民の多くは、デジタル化の遅れについてあまり関心がなかったのではないでしょうか。というのも、コロナ禍以前まで、全国的にはずっと「平時」だったからです。

日常生活で私たちが役所の世話になる機会は限られています。引っ越しや免許の更新も数年の一度のことだから、「面倒だけど、まあいいか…」と多くの場合はやり過ごすことも多いですよね。そしてそれっきり、事務手続きが面倒だったことも忘れてしまいます。

みんなの介護 確かに、自分もそうでした。

太田 ところが、コロナ禍のような「有事」には、「まあ、いいか」では済ませられません。特別定額給付金や持続化給付金の手続きが煩雑だったり、役所の作業が進まなかったりと、国民になかなか支給されないという事態が問題視されています。一方、アメリカでは3日、ドイツでは1週間程度で支援金が入金されたという話を聞けば、「日本はなぜこんなに時間がかかるのか」と、誰もが疑問に思います。

コロナ禍では、世界の国々がほぼ一斉に同じ状況に置かれ、しかもネットなどを通じて各国の情報がリアルタイムに入ってきました。それにより、日本社会で行政のデジタル化が遅れていることに多くの国民が問題意識を持ったはずです。だからこそ、「早急にデジタル庁を新設すべき」という流れが生まれたと私は理解しています。

戸籍の氏名表記がデジタル化を阻んでいる

みんなの介護 なぜ行政のデジタル化がなぜ進まなかったのでしょうか。

太田 それを阻む要因として「三つの壁」があるといわれています。

まず一つ目が、「縦割りの壁」です。例えば、国民に対して、デジタル処理でいち早く特別定額給付金を振り込むためには、国民の情報が載っている住民基本台帳がデジタル化されていなければなりません。今回の特別定額給付金は総務省と自治体の管轄ですが、金融機関が銀行口座をカタカナで管理しているのに対して、総務省も自治体も行政手続きに使える形でカタカナを持っていないのです。ですので、誤ったカタカナで申請が行われたりすると、振り込みができなくなってしまいます。姓名の読み仮名の大元は、法務省が所管している戸籍情報ですが、これまで法務省はデジタル化に対応するために読み仮名を法制化することに積極的ではありませんでした。

みんなの介護 ひらがな名・カタカナ名の人を除いて、戸籍の氏名は漢字で書かれていますね。

太田 はい。また、「表記ゆれ」の問題もあります。例えば、ある人が漢字を書き間違えて届け出れば、戸籍上は間違った漢字が正式の名前として登録されます。書き間違えでなくても、戸籍では「渡邉」なのに「渡邊」と書いてしまうと、コンピュータではじかれてしまいます。現在、戸籍や住民情報のデジタル化を進めていますが、その中でこういった問題が頻繁に発生しているのが実情です。

すると、企業や銀行が把握しているその人の名前と、戸籍謄本の名前が合致しなくなります。コンピュータは完全に一致しているデータしかマッチングできません。結果として、その人の書類は人間が手作業で処理するほかないのです。

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