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「勝った人間が独り占めを続ける社会」の秩序はいつか崩壊する―結城康博氏インタビュー

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淑徳大学総合福祉学部の准教授・結城康博氏
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BLOGOSが「知」のプラットフォームSYNODOSとタッグを組んでお送りするインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。 社会保障や世代間格差と言った文脈の中で登場する「再分配」というキーワード。再分配には、どのような機能と理念が込められているのでしょうか。いわゆる新自由主義的な考え方には、どのような問題点があるのでしょうか。淑徳大学の総合福祉学部で准教授を勤める結城康博氏に聞きました。(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

“運によって発生するリスク”を社会全体で共有する


―まず非常に基本的で、ざっくりとした質問ですが、「再分配」とは、どういうことなのでしょうか?

結城康博氏(以下、結城氏):まず、いわゆる「新自由主義的な考え方」というのを最初に説明しますね。

再分配という文脈で非常に簡略化していうと、病気の人・障がい者などといったギリギリの生活福祉は一応担保するけれども、他の部分においては個々人の努力がものをいう社会。これが新自由主義的な社会です。「商売で失敗したり、失業したりしても自業自得でしょ」というのが新自由主義的な福祉国家。つまり、国による福祉は最低限でよいという考え方です。

市場経済の中で、一生懸命働いたり、良いアイデアを出して、上手くいったから自分が収入を得る。これは、フェアな市場経済の中で得る富なので、もちろんフェアだといえます。ただ、基本的に富の配分はそれで終わりとなる、いわゆる「小さな政府」という考え方ですね。

それとは反対の「大きな政府」では、市場経済で配分された富を、もう一回税金として国に納めて、困っている人やいわゆる弱者に分配し直す。市場経済の中で負けた人間も、もう一回再起をはかれるような仕組みをつくっていくのが、再分配社会です。要するに最初の市場経済による配分で負けてしまい、それによって貧しくなったり病気になったりした人たちも救おうとする考え方です。逆に市場経済で勝った人たちは、勝ち取ったものをもう一回税金や保険料として納めて、負けた人達にも援助をする。

このように、再分配が小さな社会と大きな社会という、二つの考え方あるわけです。例えば、「生活保護制度の充実といった再分配はしなくていいんじゃないか?」というのは、いわゆる新自由主義的な考え方です。市場経済によるパイの切り取り合いを基本として、あまり負けた人までは救う必要はないという考え方。その対極として、結果として負けたとしても、やっぱり困っているんだから、きちっとセーフティーネットを張るべきじゃないかという考え方があるのです。

―市場経済による配分というのは、ある意味ではフェアですよね。なぜ、再分配が必要なのでしょうか?

結城:国全体の構成員が同じメンバーであり、みんなで助け合うというのが再分配社会の考え方ですね。もちろんお金持ちには、それなりの累進課税があるので一概には言えませんが、なぜ再分配が必要なのかという議論は、「なぜ勝った者の独り占めじゃいけないのか」という議論になると思います。

一生懸命やった結果、勝つ人もいれば、負ける人もいる。しかし、この場合の「勝った」ということ、市場経済で金を儲けて富を自分で得たということは、「本当に自分の実力だけで得た成果なのか?」。市場の中で勝つ要因として「たまたま運だった」というのがありますよね。あるいは、実は負けた人達が縁の下の力持ち的に努力した結果、自分が勝ったかもしれません。

つまり、「本当に全部自分の能力のおかげで勝てたのか?」ということは究極的には分からない。負けた人達も本当にたまたま運が悪くて負けたという場合もある。一生懸命努力したけれども、運で負けたという場合があるので、そういう運や偶然性という部分に左右されるのであれば、やっぱり全員でリスクをマネジメントした方が良いんじゃないですか、ということで、再分配機能があるのです。

よく新自由主義の人達は、「負けた人間が悪いんだし、自分の家族と自分のことなのに備えをしなかったのが悪いんだから、それはしょうがないんじゃないの?」といいます。もちろん、「何でそんな人達が困った時に助けなきゃいけないんだ」という議論はあると思いますし、それはそれで私もある程度正しいと思います。

ただ私は、再分配が機能する国にしたい。なぜなら、偶然的に自分は一定の富を得ているけれども、その偶然と運によって発生するリスクをある程度共有しなければならないんじゃないかと考えているからです。そのためには、やはり再分配が必要なのです。

―よく「機会の平等が担保されていれば、あとは競争でOK」といった言説がありますが。

結城:それも一つの考え方ですね。ただ、機会の平等が担保されていたとしても、勝負すれば、最後は勝ち負けが発生する。要するにスタート地点だけは、同じにするけども、勝負が終わった後は知りませんというのが機会の平等です。再分配が機能していれば、負けた人ももう一回スタートに立たせるということができます。機会の分配を二回、三回と繰り返すことができる。要するに再チャレンジを何度でもできるということですね。また、最初の勝負で病気になってしまうといったように、再チャレンジできなくなってしまう人もいます。そういう人に対する最低限の保障をしていく。これは「再分配」の効用といえるでしょう。

再分配にはもう一つ効果があります。新自由主義を推し進めて、勝ち組と負け組みが分かれていくと格差が広がります。そうすると社会秩序が必ず乱れる。なぜかというと負け組の人間をそのまま負けたままにさせておくと、社会の底辺層が増えていくことになります。底辺になったグループの力は社会を壊す方向に向かいます。腹いせに、略奪や窃盗などの犯罪が起こるようになっていく。つまり、格差が広がれば広がる程、治安が悪化する。格差の指標であるジニ係数が大きい国では犯罪が多発するようになります。

―それは統計的に明らかなのでしょうか?

結城:明らかですね。ただ、再分配を強化すると経済成長が見込めなくなると主張する新自由主義の人もいます。「一生懸命働かないのに暮らしていけるんだったら、一生懸命働かなくなるだろ!」という批判です。共産主義を非難する考え方と同じですね。そこの調整は難しい。あまりにも「大きい政府」にしすぎて、” ナマケモノ”を作り出してしまうという危険性もある。

市場経済による配分は確かにフェアかもしれません。しかし、10~ 30年というような長いスパンで社会を見てみると、どうでしょうか。負け組の人達も、一定水準の生活ができる再分配組織を作って置かないと、それは社会秩序を壊す要因を残してしまうことになってしまうのです。

―爆弾を社会の中に残してしまうことになるんですね?

結城:そういうことになります。

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