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焦点:ヨルダン王室の根深い内紛 コロナ遺族弔問で表面化


Suleiman Al-Khalidi

[アンマン 8日 ロイター] -   今年3月14日、ヨルダン王室のハムザ王子(41)は同国サルト市の病院を訪れ、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)患者の遺族を弔問した。この訪問が国王アブドラ2世(59)の「怒りに火をつける決定打」(国内有力者)になったのは、王位継承をめぐって異母兄である同国王や後継者フセイン皇太子(26)をけん制する動きと受け止められたからだ。

この数時間前、国王自身はこの病院を訪れ、9人の患者が死亡した状況について経営陣を公然と叱責していた。その6日後にはフセイン皇太子が同市を訪れた。

ハムザ王子の行動は王位継承のライバルである若い皇太子への国民の注目をそらすためだった、と複数の高官は語った。事情に詳しい8人の人物は、ハムザ王子の訪問が国王をおとしめたと指摘。当局は同王子を自宅軟禁状態に置き、国家の不安定化を狙った行為に関与したと非難している。

<「王位継承」の予想が一転>

混乱が続く中東地域にあって、安定した国家として知られているヨルダン。だが、この弔問をめぐる騒ぎは、同国王室内で根深い対立が続いている実態をあぶりだした。

ロイターは現・元当局者や王室関係者10数名に取材し、ハムザ王子への非難につながった出来事について話を聞いた。センシティブな問題だけに、彼らは匿名を条件に取材に応じた。

ハムザ王子はアブドラ国王の王位継承者と目されていたが、国王は2004年に同王子を皇太子から解任し、一族の伝統にならって長男のフセイン王子を皇太子に指名した。

ロイターは王室内の不和の原因や、死亡した患者の遺族を弔問した動機についてハムザ王子にコメントを求めようとしたが、連絡が取れなかった。

政府がハムザ王子の自宅軟禁に至った経緯について王室に問い合わせたが、コメントは得られなかった。同王子は今回の対立が勃発して以来、公の場に姿を見せていない。

アブドラ国王は7日、反乱は鎮圧され、ハムザ王子は「私の保護下にある」と述べた。ハムザ王子は、王族による仲介を経て、国王への忠誠を誓った。

当局者は、14ー16人が「陰謀」容疑で逮捕されたと述べている。

<国内各部族との親密な関係>

3月にサルト市を訪れた際、ハムザ王子は、病院における人工呼吸用酸素の不足で死亡した患者の遺族に暖かく迎えられた。

病院の酸素不足をめぐってはヨルダン国内で小規模な抗議行動が見られ、参加者の中には、国を救う人物としてハムザ王子の名を叫ぶ姿もあった。

ロイターでは病院にコメントを求めたが、連絡が取れなかった。

一方、アブドラ2世は、フセイン皇太子を後継者として前面に押し出す動きを強めており、大半の公式行事では2人が隣り合う位置を占め、外遊の際も同行することが多い。

著名な政治家数人によれば、先月の一連の出来事が表面化する前から、ハムザ王子の動きは国王にとって頭痛の種になっていたという。

故フセイン国王とヌール王妃の間に生まれたハムザ王子は、治安部隊の中枢を占め、ハシミテ王家の確固たる支持層となっている国内各部族と親密な関係を築いている。

ハムザ王子は今年、行動範囲をさらに広げ、地方の農村地域に足を運んだ。現体制に反発する「ヘラク」と称する緩やかな運動組織を形成している、不満を抱えた部族指導者との面会が目的だ。「ヘラク」参加者の多くは、退役した軍・治安部隊経験者である。

ソーシャルメディアには、ハムザ王子が遊牧民のテントの中で座って茶をすすりつつ、国王が十分な雇用や経済的な保障を与えていないことに批判的な長老たちと言葉を交わす様子が投稿された。

ハムザ王子が公の場で自らの見解を口にすることはめったにない。だが、宮廷の考えをよく知る複数の情報提供者によれば、宮廷では、同王子がこうした部族との結びつきを強めているのは、国内の若者に均等な機会を与える立役者として、アブドラ国王とフセイン皇太子に対抗しようとする試みだと考えられている。

また宮廷当局者3人によれば、ハムザ王子の動きは、王族が公的な場所を訪問する際には宮廷への通告を義務付ける規則を無視した行為だという。

事情に通じた3人の関係者は、過去最悪の失業・貧困に対して人々の不満が高まる中で、治安部隊はハムザ王子のあらゆる動きを追跡し、以前よりひんぱんに、王子の動きについて国王に定期報告していると指摘する。

ある治安当局者にハムザ王子に対する監視について尋ねたところ、国家の安全を守ることが各情報当局の職務であるとの答えが返ってきた。

<故フセイン国王のイメージを再現>

この10年、ヨルダン国内では、生活水準の低下と汚職疑惑をめぐる当局への怒りが広がり、市民による大規模な暴動が発生している。その主な舞台になっているのは、ハムザ王子が地元指導者を訪れた地方及び遊牧民が活動する地域だ。

部族のメンバーであるアブドゥラ・フワイタット氏によれば、今年初め、ハムザ王子はヨルダン南部における部族の集会を訪れ、父である故フセイン前国王は部族に強い親近感を抱いており、もし存命なら、現在のヨルダンで見られるような生活条件の悪化を決して許さなかっただろうと語ったという。

集会の参加者2人によれば、ハムザ王子は、国内がうまく統治されていないという彼らの見解に共感を示したという。ロイターでは、独自にこうした証言の裏付けを得ることができなかった。

この20年間、ハムザ王子は故フセイン国王の言葉遣いや声、振る舞いや服装までも真似し、国民の支持を集めてきた。部族関係者によれば、ハムザ王子は西側諸国で教育を受けた上品な人物だが、あらゆる部族の方言を身につけることも心がけているという。

ハムザ王子の人気が高まる様子を見て、当局はいよいよ介入する時期が来たと感じた。政界有力者の1人は、「ハムザ王子の動きによって、私たちには選択の余地がなくなった」と語る。

<「レッドライン」を越えた王子>

ヨルダン軍のユーセフ・フネイティ統合参謀本部議長がアンマン市内のハムザ王子の宮殿を訪れたのは、3日の午後2時前後だった。参謀総長はハムザ王子に、不満を抱えた部族と交流したことで、越えるべきではない「レッドライン」を越えてしまったと告げた。

これに対し、ハムザ王子は怒りを込めて反論した。

「失礼だが、貴官は20年前にどこにおられたのか。私は、故父王の命により、この国の皇太子だった。アラーの慈悲が父のもとにありますように」

「私は故父王に、命ある限り国と民衆への奉仕を続けると誓ったのだ」

こうしたやり取りは、同王子がソーシャルメディアにリークした録音に残っている。この件について、軍広報担当者からは今のところコメントを得られていない。

またハムザ王子の弁護士がBBCに提供した映像の中で、同王子は「自分は軟禁状態にあり、自宅に留まり誰とも接触しないよう命じられた」と話している。

この映像の中で、ハムザ王子は英語で、「自分は外国の陰謀には関与しておらず、現体制は腐敗している」と述べている。

「(ヨルダン国民の)幸福は、現体制では二の次にされている。現体制は、この国で暮らす1000万人の人々の尊厳と未来よりも、自らの個人的な利益、金銭的利益、汚職の方が大切であると判断している」

<王族の不和再燃を危惧>

専門家の間では、貧困や失業、COVID-19による死者の増加といった国内の潜在的な問題により、王室内の不和が再燃することを危惧する声がある。

故フセイン国王に仕えた最後の侍従長であるジャワド・アル・アナニ氏はロイターの取材に対し、「王族同士の対立は解消した。だが、その契機になった問題に対処しなければならない。失業、COVID-19への対応、そして貧困だ」と語った。

「こうした問題が、国民の苛立ちを高め、各々ひいきの王族を支持しようという動きの原因になっている」

(翻訳:エァクレーレン)

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