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在日ドイツ人監督が見た「アフター『ザ・コーヴ』」和歌山県太地町のイルカ漁の今

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中国水族館バブルが到来するもコロナ直撃

2009年に公開され、アカデミー賞を獲得した映画『The Cove』。和歌山県太地町で行われているイルカ漁を取り上げたこの作品は、その内容や手法を巡り、国内外に大きな波紋を呼んだ。

それから約12年。太地町は今なおイルカ漁を続けている。ただ昔とは異なって、世界中から動物愛護団体が抗議や監視のために押しかけるようになり、またイルカ漁の目的自体も、食肉としてのイルカではなく、生きたイルカを捕獲して輸出するビジネスのほうが主流となった。

先日YouTubeに公開された37分のドキュメンタリー『太地町のイルカ漁の今 中国水族館への輸出ビジネス』(VICE Japan)では、そんな太地町の“アフター『ザ・コーヴ』”を伝えている。

経済発展目覚ましい中国では2010年代に各地で水族館が建てられ、その呼び物として生きたイルカの需要が跳ね上がった。そのため食肉だと1頭5万円程度にしかならなかったイルカが、生体だと平均500万円に高騰。中国観光客が押し寄せて爆買いをしていた裏で、イルカもまた爆買いされていたというわけだ。


太地町にある町立博物館はその新しいビジネスに積極的に取り組む。その一方で、「博物館は社会教育施設なので」と異を唱える町議も現れる。ところがコロナ禍により水族館バブルは弾けてしまい、なおかつ海外のバイヤーも、そして抗議団体も太地町に来れなくなってしまった……と、そんなストーリーである。

このドキュメンタリーの監督を務めたのは、セバスチャン・スタイン氏と黒川康平氏。スタイン氏は日本に住んで16年になるドイツ人だ。彼は6月から全国公開されるポリティカル・カンフー・アクション映画『アフリカン・カンフー・ナチス』の監督でもある。彼自身はイルカ漁反対派でもなんでもないという。


「私はこのドキュメンタリーを撮るまで、イルカ漁や捕鯨問題についてまったく興味ありませんでした。『The Cove』も観たことありませんし、クジラ肉も食べたことあります。馬刺しみたいですよね。ドイツの友達は『え、まじで!? すげー』と言ってたけど、ちょっと引いてました」

今回のドキュメンタリー企画は、作中に登場する「生物保護団体LIA」のヤブキ レン氏からの打診で始まったものだという。ヤブキ氏は現在、『The Cove』で主演を務めたリック・オバリー氏の団体「ドルフィン・プロジェクト」の代わりにイルカ漁を監視し、情報発信を続けている。コロナで海外の活動家が入国できなくなったためだ。

「共同監督の黒川さんがヤブキさんから『今、太地町はこうなっているよ』と話をもらって、去年の11月に撮影しました。太地町は生まれて初めてだったんですけど……警察が多いですね! すぐにチェックされます。こいつは絶対に問題を起こすと思われます」

西洋人の見た目だと警戒されるのも無理はないだろう。

「私が太地町に行ったときは、西洋人は私とジェイ・アラバスターさんだけでした。アラバスターさんは中立ということになっていますが、SNSを見ると漁師さん側に立って発信しているように見えます。だからヤブキさんが『漁師さんが捕まえてはいけない動物を網で捕まえた』とFacebookに書いたら、アラバスターさんは『すぐに逃がした』、ヤブキさんは『逃がしてない』と、いつも二人はオンラインで戦っています」

反対派の日本人と外国人がネットでレスバトルをする。『The Cove』から10年以上が経って、戦いの様相も変わってきたようだ。


「警察もけっこう中立でした。昔は外国人に厳しかったみたいですけど、今はむしろ逆だと思います。こないだイルカ漁反対のデモがあったときは、デモの人ではなく、それに抗議に来た地元の人のほうが捕まっていました。多分、デモはちゃんと申請していたからなのではないでしょうか?」

それ以外は、町にはいたってのんびりとした平穏な空気が流れているという。スタイン氏自身が撮影中に抗議を受けたのは「おじいちゃんとおばさんの二人だけだった」とのことだ。

「漁師さんたちももう抗議に慣れている感じがしました。デモのときに微笑んでいたりします。昔みたいな殴り合いもないみたいですし、カメラを壊したりもなくなったようです。もう10年以上やってるからね」

現地に行ってみて初めてわかることばかりだったと語るスタイン氏。やはりメディアを通して見るだけでは、想像が膨らむばかりで何もわからないようだ。

反対するのではなく、選択肢を示すべき


さて、ここで改めて太地町で行われている生体イルカ漁の輸出ビジネスの流れを簡単に説明しよう。まず漁期になると、漁師たちはイルカを入江に追い込んで捕獲する。

その追い込まれたイルカの中から生体としてキープされる個体が、町立博物館と、そしてイルカと一緒に泳げるサービスを提供する民間施設などによって選ばれる。選ばれたイルカはいけすの中でしばらく飼育されるが、選ばれなかったイルカは食肉になる。

そして博物館は調教を施したのちに、中国を中心に中東など世界中の水族館に生体イルカを販売する、という流れである。しかしスタイン氏はこう語る。


「それでも年間1億円くらいにしかならないそうです。活動家への対策費のほうが大きいと思います。食肉にしかならなかった時代はもっと安くて、船の燃料費にしかならなかったと思います」

イルカ漁ビジネスは、想像よりもだいぶ小さいマーケットのようである。

「イルカ肉が地域の伝統文化であることは理解できます。でも完全に赤字でしょうし、食べる人も減っているので、そちらは自然になくなるでしょう。一方、水族館への輸出は伝統文化ではありません。活動家たちが反対するべきなのは後者であって、それを切り分けないで反対したのは彼らの失敗だったと思います」

今回の取材を通して、活動家たちが本当に事態を変えようとしているのか、疑問に思ったこともあったという。


「10年以上も太地で運動しているけど、何も変わっていません。その運動はイルカのため? 自分のため? ポリコレとかもそうですけど、今の時代は、自分だけいい人になりたいという人が多すぎます。みんなヒーローになりたい。何か本当に変えたいなら他のことをやると私は超思いました」

個人的には、イルカ漁はやめてほしい気持ちはあると語るスタイン氏。

「この撮影で初めて知ったのですが、イルカって家族の絆がとても強くて、1頭が捕獲されるとその家族はそこから離れようとしないし、自殺すらする個体もいることに衝撃を受けました。でも、だからといって、賛成反対どちらかにつくわけにもいかないと思います」


「イルカに関して何者でもない私は、『やるな』や『やるべき』と言える立場にありません。それに『やめろ』と言っても『お前がやめろ』となるだけです。太地の人たちは本当に普通の人。だからこそ反対ではなく、他の選択肢を示すことが大切。そうすることで太地の人たちは自分で道を見つけていって、自らイルカ漁をやめるはずです」

まさに童話『北風と太陽』を彷彿とさせる話だ。スタイン氏はこれまで日本全国、津々浦々に行ったことがあるそうだが、太地町の海は群を抜いて美しいと讃える。


「だから太地にはもっといいビジネスがあるはずです。ドキュメンタリーに登場する町議の漁野尚登さんは、水族館を引退したイルカたちが静かに暮らせる老人ホームみたいな施設を作ろうと言っています。そっちのほうが今は観光になる。町長もイルカ漁はいつまでもできるものではないとわかっているので、それにとても興味を持っています。町は変わろうとしています」

「一番大事なことは、結局お互いの理解」と語るスタイン氏。次回作のドキュメンタリーは映画として、もっと町や漁師サイドの話を取材し、「太地町の将来を作る映画にしたい」と考えている。


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