記事

《米中新冷戦》第1ラウンドは米国の“作戦勝ち” バイデン政権はなぜ対中強硬路線に舵を切ったか 中西輝政氏に聞く「米中新冷戦」#1 - 石井 謙一郎

2/2

バイデン政権の本質は「切り分けのアプローチ」

 人権や安保などアメリカの国益に反する局面では中国・ロシアには強硬かつ敵対的に対処し、気候変動など共通の課題では協力するというわけです。ただし、これを「表では殴り合って裏でニコニコ握手する」二面性のある態度だと単純に受け取るのは間違いです。

「切り分けのアプローチ」と私は呼んでいますが、協力できるところは協力するという体系的かつ現実的な2本立ての外交戦略が、バイデン政権の対中政策の本質なのです。

香港の「一国二制度」は完全に踏みにじられた

 そこで今後、大きな焦点となってくるのは香港の問題でしょう。米国務省の報道官は30日、中国政府が香港の選挙制度変更を最終決定したのを受け、「香港市民による政治参加と議員選出の余地を一段と狭める動きだ」として強く非難し、香港の立法会(議会)選挙の再延期に深い懸念を表明しました。

 その選挙制度の変更とは、香港の立法会選挙に立候補しようとする人物が、北京政府によって国家に忠誠を尽くしていない、と判断されれば立候補が許されず、またそれに対する異議申し立ても一切認めないとする規定のことです。

さらに立法会の定数も70から90に増やされ、同時に直接選挙枠が現行の35から20議席に減らされることになりました。これで、昨年施行された「香港国家安全維持法」と相まって、1997年の香港返還の際の国際公約でもあった、返還後も香港の民主主義を維持するといういわゆる「一国二制度」は完全に踏みにじられたことになりました。

 これに加えて、新疆ウイグル自治区での人権侵害も世界的な大問題となっています。

 こうした経緯を見ても、人権と民主主義を掲げるバイデン政権のアメリカが、中国に強硬な政策に打って出ているのはいわば当然のことでもありましょう。

10年前とはまるで変容した中国への「世界の見方」

 私はそもそも昨年の大統領選挙の前から、共和党のトランプ、民主党のバイデン、どちらの候補が当選しても、アメリカの対中政策はもうすでに歴史的に転換しているので、基本的に変わらないと指摘していました。なぜなら、現在の中国は、10年前の中国とはまるで変容してしまったからです。

 尖閣諸島に対する中国公船による侵犯行動を見ていても明らかなように、習近平指導部の非常に強硬な対外姿勢や、ウイグルや香港における人権弾圧、さらに昨年、新型コロナウイルス発生当初に情報を隠蔽してパンデミックを引き起こした責任。

こうした点を見て、この1年余りの間で、中国の振る舞いに対する見方を変え、中国に対する国際世論は大きく変わりました。「中国は経済的に豊かになれば徐々に民主主義へ移行するだろう」という予測は、実現しないことを世界が悟ったのです。

 例えば、これまで親中的だったヨーロッパ諸国、とりわけ経済的に強く中国に肩入れしていたドイツでさえも、この1年の間に中国の脅威をグローバルなものと捉え、NATO同盟も今後、中国に対しては冷戦時代のソビエトのように対処しなければいけないという認識に変わりました。

 そういう国際世論の大きな流れも加味しながら、今後バイデン政権の対中政策がさらに緊密な同盟国との協力の上に組み上げられていくことは間違いありません。オバマ時代のような「世界の警察官にはならない」という姿勢に戻ってしまえば、中国のさらなる増長を招き、世界がアメリカについて来なくなることを、バイデン大統領は十分に自覚しています。

共産党指導部から「習近平では経済がダメになる」

 過去12年のアメリカ外交を振り返ると、オバマ大統領は弱々しいアメリカファースト主義だったといえます。他方、「対中強硬」を掲げつつも、極端なアメリカ第一主義で同盟国との協力に後ろ向きだったトランプ政権は、アメリカは世界から手を引いていくべき、と考える孤立主義という点でオバマ政権と共通していたのです。

 とはいえ、他の政策領域では「アラ」が目立ったトランプ政権でしたが、対中政策を、ニクソン以来の中国に甘い関与政策から一転させ、強硬に対処する必要をアメリカ世論に受け入れさせた功績は大きかったと思います。

 2018年10月、トランプ政権のペンス副大統領が、非常に強硬な反中国演説を行ないました。まず通商問題、軍事、外交などで中国に対抗する方針を明らかにした。そして経済や科学技術など、中国が国際社会の大半を引っ張っていくだけの力がまだ及ばない領域、言い換えれば依然としてアメリカが世界の主人公として力を維持している領域で効果的に中国を締め上げれば、習近平体制は揺らいでくると述べたのです。

 つまり、経済や貿易が停滞したり、半導体などの調達が難しくなったり、ファーウェイなどの先端企業が世界市場から切り離されていけば、中国共産党の指導部や有力な支持基盤から「アメリカとこんなに対立したら、やっていけないんじゃないか」とか「習近平では経済も駄目になる」という声が出て、体制が揺らぎ始めるのではないか。そんな見通しがペンス演説以降、アメリカの対中政策に一貫してあるように思います。

バイデン大統領が担った「破壊」のあとの「建設」

 こうして、対中政策という点では、バイデン政権はある意味、トランプ政権の遺産の上に立っているといえるでしょう。中国に対する強硬さを受け継いで国内の支持を確保していることは、トランプ政権が課した制裁関税を撤廃しないことでもわかります。

共和党の自由貿易主義をトランプ前大統領が捻じ曲げ、国内の雇用を守るために保護貿易主義をとる民主党のバイデン政権が、それを受け継ぐ形でラストベルト地帯などでの政治的な支持基盤の強化に利用しているわけです。

 ニクソンからオバマまで伝統的に寛容だった対中政策を、トランプ大統領がいわば木っ端みじんに破壊しました。バイデン大統領はこのトランプ政権による「破壊」のあとの「建設」の役割を担い、新しい対中戦略を編み上げる作業を目下推進しているわけです。

(#2へつづく)

【米中新冷戦の地政学】中国指導部で習近平への懸念が出始めた今、菅首相が示すべき“強硬姿勢” 台湾、ウイグル、香港… へ続く

(石井 謙一郎/Webオリジナル(特集班))

あわせて読みたい

「ジョー・バイデン」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    70代の死亡者も1年間で1万人に1人。コロナは「国家的危機」ではない。

    青山まさゆき

    06月16日 15:40

  2. 2

    立憲民主党はPCR万能主義がいまだにコロナ対策の中心 この政党に日本を任せるな

    中村ゆきつぐ

    06月16日 08:08

  3. 3

    世帯視聴率から個人視聴率重視へ テレビ界の大変革でお笑い番組は増加したか

    松田健次

    06月16日 08:05

  4. 4

    記念撮影にも呼ばれず……G7で相手にされなかった韓国・文在寅大統領

    NEWSポストセブン

    06月16日 11:25

  5. 5

    盛り上がらない政治家のための政治

    ヒロ

    06月16日 10:47

  6. 6

    朝日新聞が月ぎめ4400円に 27年ぶりの購読料値上げは吉と出るか、凶と出るか 

    木村正人

    06月15日 18:26

  7. 7

    初の深夜国会 一部野党の先延ばし戦術が現行ルールでは合理的になってしまう問題

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月16日 08:38

  8. 8

    論破王ひろゆき「超リア充のインフルエンサーもSNS投稿しないときはカップ麺をすすってる」

    PRESIDENT Online

    06月16日 11:52

  9. 9

    成立することのない内閣不信任案 議員が多くの時間を費やすことは本当に無駄

    大串正樹

    06月16日 09:13

  10. 10

    なぜ日本のテレワークは効率が悪いのか?

    シェアーズカフェ・オンライン

    06月16日 09:21

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。