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特集
11日に思い描く
東日本大震災から10年。3月11日が過ぎると、災害について考える機会は意外と少ないでしょう。どれだけ時間が過ぎても、東北にも熊本にも、忘れてはいけないことがたくさんあります。被災地の復興や防災についてわずかでもいいから思い描いてみる。毎月11日はそんな一日にしてみませんか。

観光先の海で強い揺れを感じたら… 押し寄せる津波から大切な命を守れますか? 鎌倉で考えた防災

  • 2021年04月11日 08:04
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2011年3月11日に発生した東日本大震災。東北を中心に強い揺れが襲い、津波は沿岸部の街並みを大きく変えてしまった。特に岩手、宮城、福島の3県は、今も復興の途上にある。

10年が過ぎた今、仮に自分が暮らす街で強い揺れを感じ、直後に津波の到来が予測されたら――。自分や大切な人の命を守るため、適切な行動を取ることができると、自信を持って言い切れるだろうか。

いかに津波から逃げ切るか。あの日を振り返りながら、何らかの機会で足を運ぶ人も多い鎌倉を舞台に考えた。

海沿いを走る江ノ島電鉄。海と線路の間には国道134号がある(神奈川県鎌倉市)

「8分」が命を守るキーワード

土日には、波打ち際を散歩したり沿岸部の国道をドライブしたりする観光客でにぎわう鎌倉市由比ガ浜地区。この街では、「8分」が命を守る一つのキーワードになっている。

強い地震が発生し津波の襲来が見込まれた場合に、由比ガ浜に津波が押し寄せるまでの時間だ。鎌倉市が防災計画の中にも盛り込んでいる。

観光客が集まる海水浴場や、海岸沿いを走り渋滞の絶えない国道134号、そして134号と並行して走る江ノ島電鉄(通称・江ノ電)。神奈川県随一の観光地として知られる鎌倉市は、多くの人気スポットが海沿いに位置する。

東日本大震災以降、鎌倉市は津波被害を防ぐ対策を模索してきた。しかし、避難場所となりうる高い建物が景観保持のため少ないことや、市外からの観光客にどう防災を周知するかなど、観光地特有の課題も横たわる。

海抜を伝える標識が至るところにある(神奈川県鎌倉市)

観光客と地元住民の命をどう守るのか 鎌倉市の対策と課題

鎌倉市は、神奈川県が2015年3月に発表した「津波浸水想定図」をもとに、浸水区域や避難所の場所などを示した「鎌倉市津波ハザードマップ」を公開している。

マップは
❶最大津波高が想定される「相模トラフ沿いの海溝型地震(西側モデル)」=最大津波高14.5m、鎌倉海岸・七里ガ浜区間
❷最大津波到達時間が最も短いと想定される「元禄関東地震タイプと国府津-松田断層帯地震の連動地震」=最大津波到達時間8分、鎌倉海岸・由比ガ浜区間

の二つを重ね合わせた災害を想定して作成されている。

七里ガ浜、由比ガ浜には観光客の訪れる海が広がり、江ノ電の駅も便利な人気スポットだ。鎌倉市での海水浴客数は、新型コロナウイルス感染拡大前の18年で約70万人、翌19年には約35万人。関東でも有数の夏の行楽地である。

3月中旬でもにぎわう由比ガ浜の海水浴場(神奈川県鎌倉市)

地元住民だけではなく、万一の際には観光客の身をどう守るのか。一帯の大きな課題となっている。

鎌倉市は東日本大震災前には2年に1回、震災後は年2回にペースを増やし、津波を想定した避難訓練を続けてきた。

内容は、住民や学生らが自宅や学校から最寄りの避難所まで実際に歩く避難訓練と、海の家のスタッフやライフセーバーが避難・誘導の手順を確かめる訓練だ。

一帯では他にも、災害への備えとして、鎌倉市が住民らの要望を受けて電柱に設置した海抜を示す標識や、市と江ノ電が連携して設けた避難場所の方向や距離を伝えるシートが至るところで見られる。

海の近くで暮らし続ける住民の津波に対する警戒心は強い。そんな住民らが行政と連携しながら、市外から訪れた多くの海水浴客や観光客の安全をいかに守るか。観光地・鎌倉特有の状況と言えよう。

交通渋滞する道路 どう避難する?

由比ガ浜と七里ガ浜の両区間を通る国道134号。太平洋に沿って走り、車窓からの風景は多くの人を惹きつけている。ただ、土日を中心に起きる深刻な交通渋滞は、防災を考える上で大きな支障となっている。

市の担当者は「データは取っていないものの、由比ガ浜〜腰越区間はシーズンを問わず混んでいる。体感だがコロナ禍以前は、道路が空いているのは夜中だけという状況だった」と語る。

日頃から渋滞が激しい国道134号をドライブ中、もし強い揺れを感じたらどう対応すべきなのだろうか。

交通渋滞の多い国道134号。安全面の問題から避難訓練を実施することができない(神奈川県鎌倉市) ※画像の一部を加工しています

東日本大震災で目立った車での避難 渋滞で津波に襲われるケースも

ここで、時計の針を10年前まで戻す。

東北では、地震の発生直後、多くの人が家族や職場の同僚、友人らと車に乗り合わせて、高台へ避難した。同じように車での避難を考える人は多く、各地で渋滞が発生し、津波に巻き込まれて命を落とすケースもあったという。

一方、体の不自由な人の場合や、高台までの距離が遠いケースなどは車を使った避難が有効ともされている。どういったケースならば車で逃げるべきかを知っておき、状況によっては車を捨て徒歩で逃げる判断も必要となってくる。

鎌倉市の場合はどうか。

災害時のリスクの一方、国道134号では防災意識を高める避難訓練が実施できていないのが現状だ。慢性的な交通量が多いため安全面の確保が難しいことに加え、幹線道路としての役割も大きいことなどが原因だ。

市総合防災課の末次健治課長は取材に対し「実際の災害下ではパニックが起こる可能性はある」と懸念を示す。

その上で「134号では誰かが避難誘導するということはない。津波警報のサイレンが聞こえたり、津波発生情報を受け取ったりした時点で車を止めて、すぐに高台へ避難する必要があることを周知していくしかない」と話した。「鎌倉に限らず、海や沿岸部に観光に来られる方は、防災知識を持っていただくことが絶対に必要」と呼びかける。

景観保持で建物には高さ制限も 避難のネックに

万が一の際には命を守ってくれるであろう避難場所にも歴史観光都市・鎌倉の場合は特有の課題が残る。

観光の玄関口のJR鎌倉駅、一駅北にあるJR北鎌倉駅周辺を中心に、景観の保持を目指す鎌倉市の条例により、建造物の高さ15m(由比ガ浜・材木座地区など一部地域では10m)までの制限が設けられている。

条例の影響で、いわゆる「津波避難ビル」が沿岸部に少ないことが大きなネックになっている。多くが「3階建以上」「鉄筋」の条件に当てはまらないためで、末次課長は「市内にある避難ビルは30箇所。行政として避難スペースを少しでも確保するべく今後も取り組んでいかなければならない」と話す。

沿岸部を走る江ノ電の対策

万一の津波への対応が求められている江ノ島電鉄(神奈川県鎌倉市)

「東日本大震災から今年で10年。絶対に風化させてはいけないと防災訓練を続けています」

鎌倉市から藤沢市まで約10km、沿岸部などに計15駅を有する江ノ電も震災以降、防災を強化してきた。

同社の伊澤明総務課長は「南海トラフ地震など大きな地震が発生するという想定は常に持っている」と話す。

東日本大震災で津波被害を経験した三陸鉄道(岩手県宮古市)

東北では三陸鉄道が被災 避難ハンドブックで乗客に防災をPR

江ノ電には忘れてはいけない記憶がある。同様に沿岸部を走る鉄道が10年前、津波で被災した事実だ。

一部JR山田線(当時)の路線を挟んで、久慈駅(岩手県久慈市)ー盛駅(同県大船渡市)間107.6キロを走っていた三陸鉄道は、津波と地震の両方で大きな被害を受けた。

島越駅は高架橋ごと津波で流出し、陸前赤崎駅はホームが陥没。各地で線路も流された他、多くの橋や車両などに被害があり、運行再開まで3年を要した。

そうした東北での津波被害を目の当たりにして、江ノ電が鎌倉・藤沢両市と連携して作成したのが、黄色が目を引く小さな冊子だ。

タイトルは「江ノ電 災害時避難ハンドブック」。市外から訪れた観光客も駅で手にすることができ、各駅からの避難方法や経路、防災情報を盛り込んでいる。

江ノ島電鉄の各駅に設けられている「江ノ電 災害時避難ハンドブック」(神奈川県鎌倉市)

土地勘のない江ノ電沿線で被災したら… 自ら判断が必要なケースも

東日本大震災と関東大震災にちなんで、防災訓練は3月11日と9月1日の年2回行っている。駅員が最寄りの避難場所まで足を運び、乗客を避難誘導する手順をチェックする。

江ノ電は土日の混雑時などは、4両編成の小さな列車に300人近くが乗車する。伊澤課長は混乱下で大人数を避難場所まで誘導する難しさを口にする。

「駅に停車した列車から避難誘導するスタッフは先頭・中間・最後尾の最低3人が必要だと想定されるが、電車が駅と駅の間で止まった場合は運転手と車掌の2人しかいない。発生時間などによって駅員の人数など状況が変わるので、お客様にマップを見ながら各自で避難していただく事態も想定される」

駅と駅の間で列車が停車した際に、イラストと矢印で避難場所まで誘導する表示板を線路脇の電柱に設置するなど、同社は災害への備えを進める。

もし、土地勘のない江ノ電沿線で被災したら。江ノ電や行政に頼り切りになるのではなく、命を守る行動を自ら判断することが必要となる場面も起こり得る。

海岸そばの現地を歩く 津波到達までに避難完了できるか

鎌倉市と江ノ電への取材後の3月中旬、鎌倉市を訪ねてみた。観光中に津波が発生したとの想定のもと、一帯を歩いてみた。

降り立ったのは江ノ電・鎌倉高校前駅。人気マンガ『スラムダンク』でも描かれたことで知られ、青々とした相模湾が目の前に広がる。江ノ電の車両のすぐそばを国道134号が走り、観光客の姿も多くみられた。

海のすぐ近くに立地する鎌倉高校前駅(神奈川県鎌倉市)

鎌倉市の津波ハザードマップで確認すると海から駅までの距離はわずか20m、海抜は10.3m。最大津波高は14.5mで、最大津波到達時間は10分となっている。

江ノ電の伊澤課長の説明を思い返した。

「鎌倉高校前駅は海に非常に近いものの、高台も近く、冷静に移動していただければ津波の到達までに避難場所まで逃げることができる」

鎌倉市が作っている津波ハザードマップ

歩いて検証してみる。

江ノ電の災害時避難ハンドブックを手にしながら、避難所に指定されている鎌倉高校(海抜32.1m)を目指した。駅を出ると、すぐに坂道が現れる。坂は極めて緩く、海を背にして歩くこと4分。目的地に無事にたどり着くことができた。距離は250mほどだ。

津波の到来まで6分の余裕すらあった。しっかりと地図を確かめながら進めば、慌てることもなさそうだ。

道を間違えるアクシデントも 混乱下でのスムーズな避難に疑問

一方、避難所までの道を確認するために何度か立ち止まり地図(ハンドブック)を広げたケースもあった。

由比ガ浜地区にある和田塚駅(海からの距離570m、海抜10.7m)から、避難先の「御成中学校」(海抜31.4m)までの道のり約750m。駅から出たところに避難所までの方向を示す路面シートが目に入ったが、高台がどちらかは目視ではわからなかった。

和田塚駅から避難所に指定されている御成中学まで向かう途中にある交差点。避難ハンドブックでは赤矢印の方向が「第1避難経路」とされていたが、間違えて青矢印の方向に進んでしまった

避難ハンドブックの矢印に従って避難場所を目指したものの、四叉路の交差点で進行方向を間違え、その後、何度か地図を開くために足を止めた。

信号待ちも含めるが、避難所に着くまでに12分かかってしまった。

避難所への経路案内は、最初に目にした路面シートと、途中の電柱に貼られた表示板の2箇所だけで、土地勘のない観光客が地震の混乱下でスムーズに避難するのは難しいのではないかと感じた。

最後に訪れたのは、津波到達時間8分と想定されている由比ガ浜の材木座エリアだ。由比ガ浜海水浴場から鶴岡八幡宮に向かって伸びる若宮大路。鎌倉のまちづくりの中心となるこの目抜き通りの東側に材木座エリアは位置する。

鎌倉警察署など避難指定ビルが複数箇所ある若宮大路の東側、滑川(写真下)を挟んだ場所に位置する材木座エリア。避難に使用できる鉄筋3階建以上のビルは少ない

市総合防災課の末次課長が「避難指定ビルが少ない」と指摘する材木座エリアは、確かに歩いてみると低い建物ばかりだ。街路が狭い箇所も多く、建物の倒壊などが起きた場合は移動が困難になるのではないかと感じた。

歩きながら周りを見渡しても高台や高い建物は見当たらなかった。

実は市内の主要道路の若宮大路には鎌倉警察署や消防署など津波避難指定ビルが複数建っている。そのことを知っているだけでも、材木座海水浴場から同方向に向かって避難所まで逃げることができるだろう。

しかし、地震が起き、津波が押し寄せる危険を知らせるサイレンが鳴っている…という緊張状態ではどうだろうか。自分がそうした局面にあると想像すると、どこを目指して避難すればいいのかわからなくなるかもしれない。そんな不安がよぎった。

沿岸部の町ではいつ津波に見舞われても不思議ではない(神奈川県鎌倉市)

旅行や観光中の被災はあり得る 日頃の想定が不可欠

防災目線で観光地・鎌倉を歩き、災害下を想定した避難行動をシミュレーションしてみたが、避難場所の確認で難しさを感じる場面も多かった。避難スペースの増加や、避難情報の周知など行政に期待される側面も多いが、最も大事なのは「実際に災害が起きたときにどう自分が行動するべきか」を具体的に日頃から想定することだと痛感した。

自宅や職場などで被災したケースの想定はもちろん、旅行先や観光中に災害に直面し、緊急の避難が必要とされた場合、どう行動し、どこに逃げればいいのか。東日本大震災の教訓を活かし、大きな災害は起こり得るものだと考えながら、防災の備えを行ってほしい。

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