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バイデン政権下で激化する米中対立と日本の果たすべき役割 - 三尾 幸吉郎

米中両国は3月18~19日、バイデン米政権がスタートを切って初となる外交トップによる直接会談を開催した。世界が注目する中で開かれたこの会談は、冒頭から双方が相手の発言に反論を繰り広げる異例の展開となり、トランプ政権時代に悪化した米中関係は、バイデン政権になったからといって改善することは無く、むしろ深刻化する恐れすらあるというメッセージを、世界に向けて発信することとなった。

トランプ政権時代の米中対立は、経済面(貿易不均衡、知財保護、技術移転の強要、産業補助金など)と安全保障面(サイバー攻撃、ファーウェイ問題など)に重点がおかれていた。世界第1位の経済大国である米国と、その地位を脅かし始めた中国による1対1の対立という対立構造だった。

米国第一主義を掲げるトランプ政権は欧州とも経済面では対立することが多く、同盟国・友好国を巻き込んで中国を封じ込めるような行動は比較的少なかった。これを受けて中国も、米国だけを敵視することとなり、欧州や日本など米国以外の先進国に対しては関係改善に注力し、ロシアやイランなど反米勢力と協調して対抗するような姿勢は慎んでいた。

したがって、世界が米国を盟主とする陣営と中国を盟主とする陣営に分断される恐れは殆んどなかった。

一方、バイデン政権は、自由や人権といった普遍的価値を共有する国々と協調して、中国に行動変容を迫ることになりそうだ。ブリンケン米国務長官は前述の外交トップ会談で、中国の行動に対する深い懸念として、トランプ政権時代にも問題となっていた「同盟国への経済的な強制行為」や「米国へのサイバー攻撃」など経済・安全保障面の問題を挙げただけでなく、トランプ政権時代には論争を避けてきた1「新彊ウイグル自治区、香港、台湾」の問題を取り上げ、これらは「単なる内政問題ではない」と主張した。

それに対して中国の外交トップである楊潔篪共産党政治局員は前述の外交トップ会談で、「中国は自国の内政に米国が干渉することに断固として反対する」と述べるとともに、米国が直面する人権問題は根深いとして「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」運動に言及し、両国が抱えるさまざまな問題は「自身でうまく管理することが重要だ」と主張することとなった。

その後も人権を巡る米中論争は激しさを増しており、3月下旬には双方が人権に関する報告書を公表している。中国国務院新聞弁公室は3月24日に「2020年米国人権侵害報告2」を発表し、(1)感染症制御不能で悲劇生む、(2)米国流民主主義が秩序失い政治混乱招く、(3)人種差別でマイノリティーの境遇悪化、(4)社会の持続的混乱が国民の安全脅かす、(5)貧富の格差拡大で社会の不公平激化、(6)国際ルールを踏みにじり人道災害招く、以上6つの問題を挙げて非難した。そして、中国はロシアやイランなどとともに内政不干渉の基本原則を掲げる「国連憲章を守る友好グループ 」の発足に動き出すなど、反米勢力を結集して対抗する姿勢を見せ始めた。

一方、米国務省も3月30日に「2020年世界各国の人権状況に関する報告書」3を発表し、「中国では、政府当局がイスラム教徒が多数を占めるウイグル人をジェノサイド(大量虐殺)したほか、ウイグル人や他の宗教・少数民族に対する拘禁、拷問、強制断種、迫害などの人道に対する罪を犯した」と非難した。そして、新彊ウイグル自治区の人権侵害に対しては、欧州連合(EU)、英国、カナダも米国に同調し、対中制裁(国に対してではなく関与した個人・団体に対する制裁を含む)を発動し、米国は自由や人権といった普遍的価値を共有する国々と協調し、中国に行動変容を迫り始めている。

なお、米国には人権侵害を外交手段として使う悪い癖があり、「人権問題は中国とのあいだでは重要な問題だが、サウジアラビアとのあいだでは問題にされない4」 と指摘されるようにダブルスタンダードに陥る面がある。他方、米国が中国の人権問題に目くじらを立てる背景には、中国が報道の自由が厳しく制限しているため、米国としては中国における人権侵害の証拠を集めようとしてもそれが叶わず、証拠不十分のままやむなく“推定有罪“と判断している面があることも忘れてはならない。

以上のように、米国を盟主とする陣営と中国を盟主とする陣営に世界が分断される“米中新冷戦“の恐れは現実味を帯びてきているが、日本は今どう行動すべきなのだろうか。もし“米中新冷戦“に陥ることになれば、米国とは普遍的価値を共有し安全保障面でも同盟関係にある日本にとって、「中国を盟主とする陣営に属する」という選択はなく、「米国を盟主とする陣営に属する」という選択をすることになるだろう。

しかし、そうなれば中国との信頼関係は崩れ去り、中国経済と緊密に結び付く日本経済は大打撃を受けることになる。したがって、日本としては“米中新冷戦“になったらどうするかを考える前に、そうならないよう全力をあげて“橋渡し役“を果たすべきだろう。

しかも、その重責を担える国は、世界第3位の経済大国であり、米中両国の良い点・悪い点を知り尽くした日本以外には見当たらない。現在は親密な関係にある日米両国だが、過去に日本は米国による“ジャパン・バッシング“に打ちのめされた苦い経験5を持つ。また、現在は領土問題でもめることの多い日中両国だが、歴史を振り返れば長らく一衣帯水の関係にあり、中国が改革開放(1978年~)を始めた際にも日本は率先してこれに協力したという実績を持つ。日本の外交に世界各国が期待している。

1 新彊ウイグル自治区におけるウイグル族への弾圧を「ジェノサイド(大量虐殺)」と認定したのは、トランプ政権時代のポンペオ国務長官が退任間際の2021年1月19日のことであるため、トランプ前政権は問題を認識しつつも中国との論争はあえて避けたと言えるだろう。
2 国务院新闻办公室网站、2021-03-24、「2020年美国侵犯人权报告」より抜粋
3 BUREAU OF DEMOCRACY, HUMAN RIGHTS, AND LABOR、MARCH 30, 2021「2020 Country Reports on Human Rights Practices」より抜粋
4 サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳(1998年)、『文明の衝突』集英社より
5 日本の急速な経済大国化を背景に,1985年頃からアメリカを中心に高まった日本非難。1988年にはスーパー 301条の積極的発動を含む新通商政策を掲げた。1985年5月には対日非難決議が上下両院で可決された。1987年には東芝機械ココム違反事件によって不公正な日本という見方が定着し,ジャパン・バッシングはピークに達した(ブリタニカ国際大百科事典より抜粋)

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