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事故を起こした企業を英雄視する風潮の謎

「死の淵を見た男~吉田昌郎と福島第1原発の500日」門田隆将著を読んだが、ひどい本だった。おすすめできない本です。

この本に教訓があるとするなら、この一言。

たまたま福島第1原発には、本店幹部にも文句を言える、官邸や本店の意向も無視して海水注入できる、吉田昌郎という素晴らしい所長がいたおかげで、日本が最悪の事態になるのを防げたが、もしそうでなかったら、日本は今頃3分割されてました。(汚染によって人が住めなくなった東日本、北海道、西日本)

吉田所長ほか原発事故当初、原発で決死の覚悟で働いていた人たちに取材した、貴重な記録(ドキュメンタリー)であるはずなのに、読んでいてずっと違和感を覚えるのは、筆者が現場を英雄視しているからだろう。

確かに原発事故が起きて死ぬかもしれないという中、逃げるどころか危険を顧みず、自ら進んで原発の暴走を止めようとした人たちの行動はすごいと思う。

でもどうだろう?例えば、前々から世間から危険を指摘されていた車があったとして、その車が案の定、事故を起こして、多くの人にケガを負わせた。その時、事故を起こした車に乗っていた、この車のメーカーの社員たちが、ケガを負った人たちを懸命に助けました。

それは英雄視される素晴らしい行動なのだろうか?事故を起こした加害者がすべき最低限のことではないのか。ところが原発事故になると、命をかけたからといって英雄視されてしまう。

耐震偽装をしたマンションの建設会社が、そのせいで倒壊したマンションの住人の救助活動をして、それを英雄視する人はいないはずなのに、なぜこれが原発事故になると英雄視されるのかさっぱり意味不明。協力企業の社員ならともかく、事故を起こした東電社員が、事故をこれ以上、拡散しないよう務めることは、当然のことであって、英雄視される筋合いのものではないはずだ。

ところがこの本はこうした社員たちを英雄視しようという、著者のいやらしい意図が見えてしまって興ざめしてしまう。事実を淡々と書いてくれるのであれば、それは記録として重要なのかもしれないが、著者の偏った意図が文章からも構成からも、節々に見えてしまうために、かえって反感を買う結果となる。

えっ、なんでこの人たちをヒーロー扱いするわけ?事故を起こしたドライバーが、事故収束のために努力するのは当たり前の話だよね。

しかもそれとは対照的に、菅直人首相の言動に対してだけ、あまりにもバイアスがかかった批判的な記述をしている。客観的な事実を積み上げたドキュメンタリーというより、菅はひどかった、現場は偉かったという、著者の主観を押しつけられるための展開になっているため、記録としての価値は薄れ、読者にこの事実を踏まえてどう思うかという余地がなく、せっかくドキュメンタリーとして期待して買ったのに、あんたのただの評論かよという部分で、本を読んでいてイヤになってしまう。

ただこの本を読んで思うのは、現場では命をかけて戦わなければならない人がいた、これほど危険な施設を、なぜ今も危険なまま動かし続けようとしているのかということだ。結局、現場の危険を知らないお偉い人間が、目先の金儲けのために原発を推進する。それは自分たちは絶対に、このようなおぞましい危険な現場に行くことはないと、安全地帯から発言しているからではないかと思う。

今も福島原発の施設内には、その場に行って放射線を浴びたら、浴びた人間のうち半分は死んでしまう、とてつもない高い線量を記録しているところもある。しかも去年より上がっているのだ。そんな状態がまだ続いているにもかかわらず、なぜ原発を動かそうとするのか。

原発がなければ私たちの生活に著しく不便をきたすなら、危険だろうが動かすことを考えなければならないかもしれない。しかし私たちはこの2年で知ってしまった。なんだ、原発いらなくても十分生活できるじゃんと。

福島原発がなくても関東圏の電気は余裕だった今、現場の人は何のために命をかけて、働かなければならなかったのか。それで死んだら完全な犬死だ。いりもしない施設のせいで殺されるのだから。

この本はとてもおすすめできる内容ではないが、この本から読み取れる教訓、たまたま福島第1原発には、吉田昌郎という素晴らしい所長がいたおかげで、日本が最悪の事態になるのを防げたが、もしそうでなかったら、日本は今頃3分割されていた、という事実は覚えておくべきことだろう。

なお、私は菅氏は好きではないが、はるかに菅氏が書いた「東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと」の方が、我々が今後どうあるべきかを考えるヒントが多いと思う。

・「東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと」菅直人著

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