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"最後の行方不明者"探す両親。報道陣を面罵する家主…熊本地震5年、地元紙記者の葛藤と覚悟

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最大震度7の激震と、集落を飲み込む洪水と。
大災害を5年間で2度も取材した記者が、熊本にはいる。

「こんな時にマスコミは」と世に問われるまでもなく、彼は思う。なぜ、自分たちは様々な反応をおして、取材を続けるのか―。

被災した人々と向き合う中で、見えてきたものとは?

提供:熊本日日新聞社

5年前の自分を見ているようだった。

2020年7月。
熊本日日新聞の堀江利雅記者は、後輩記者から相談を受けていた。

「けんもほろろで…無理もないです」

数日前、熊本で大規模な洪水が起きた。
堀江記者とともに被災地取材に駆り出されたその記者は、犠牲者の遺族にコメントを求め「今は報道の人と話したくない」と拒絶されたという。

「堀江さんは、熊本地震の時も取材されていたんですよね?こういう時、どうすればいいんですか?」

率直な問い。率直に返した。

「ないよ。そういうのは。まったく、ない」

熊本地震から5年。
あの大規模な災害について、ずっと取材を続けてきた。その中でわかったことが、堀江記者にはひとつある。

「大事な方を亡くされたような取材対象から、うまいこと言葉を引き出そうというのが、たぶん違うんだと思うよ」
 

地元紙記者の「ライフワーク」


堀江記者は32歳。
熊本日日新聞に入社し、この春で10年になる。

現在は地域報道本部社会担当に配属されている。
わかりやすく言えば、事件や事故、災害などの社会問題を扱う部署だ。

「そんなに大所帯でもないので、なんでも取材していますよ」
取材に応じてくれたのは、水俣病の患者団体取材に向かう道すがらだった。

提供:熊本日日新聞社

世にあまたある、声なき声を拾う。
そんな記者の使命を日々果たしながら、ライフワークとしている取材もある。

「熊本地震の被災者の皆さんとは連絡を取り続けています。細々と、ではありますが」

2016年、堀江記者は阿蘇山の南にある高森支局に所属していた。
4月16日。熊本地震の本震は最大震度7の激しい揺れで、南阿蘇村など管轄内にも大きな被害をもたらした。

まだ20代。
大規模な災害取材の経験はなかった。当てもないままに現場に向かったのを思い出す。

「本当に未熟でしたけど、それこそ被災地の皆さんにいろいろ教わりながら、必死に取材して記事を書きました。僕にとっては、今でも特別な現場です」
 

"覚悟"待たず、動き出す取材現場


被害状況を確認するためにも、まずは南阿蘇村の役場に向かった。
そこで堀江記者は、ある夫婦と出会った。

捜索についての情報を捜しに来ているようだ。
身内が行方知れずになってしまったのだろうか。

声をかけていいものか、迷った。
被災者に対し、根掘り葉掘りと取材する覚悟が、まだ固まっていなかった。

土砂崩れに巻き込まれ曲がった南阿蘇鉄道の線路=2016年4月26日 12時30分ごろ、南阿蘇村立野(提供:熊本日日新聞社)

最終的には、数社の記者合同で声をかけることになった。

聞けば、大学生の次男と連絡が取れないという。
「記事にすれば広く知られて、手掛かりとなる情報が集まってくるかも」と持ち掛けた。

夫妻は怪訝そうな顔になった。
顔を見合わせ、しばらく考え込んでいた。
 

捜し続ける両親。書き続ける記者


「最終的に、おふたりは話をしてくれました」

堀江記者は振り返る。

夫妻の名は、大和卓也さんと忍さん。
阿蘇大橋付近の崩落に乗用車ごと巻き込まれ、行方不明になっていた大和晃さんの両親だった。

やがて2人は、さらに多くの報道陣から取材を受けることになる。
晃さんが見つからなかったからだ。熊本地震で最後の行方不明者。そう呼ばれることになった。

梅雨の時期が迫り、捜索は打ち切られた。
崩落地点には川が流れている。水量が増えれば、捜索隊に危険が及ぶ。仕方のない判断だった。

立野側の大規模な土砂崩れで、橋桁が崩れ落ちた阿蘇大橋=2016年4月16日午前10時10分ごろ、南阿蘇村河陽(提供:熊本日日新聞社)

夫妻は「自力で捜し続ける」と言った。
誰もが思った。「深い谷底をどうやって捜すのか」。現実味はなかった。

各社の報道は次第に「見つかることのない息子を捜し続ける両親」という論調になった。
報じられる機会自体も減っていった。だがそれでも堀江記者は夫妻を取材し続けた。

「記事にすれば情報が集まり、発見につながる」
その言葉を信じてもらったからには、書き続けるしかなかった。

7月には記事の総本数が30を超えた。
 

「あんたら報道の人間は…」


他が去っても、追い続ける。

期せずして、堀江記者は独自のスタンスをとることになった。
だが、初めて取材をする相手には「多くの報道陣のひとり」としか見えない。

地震直後。
堀江記者は南阿蘇村にある東海大農学部を訪れていた。

熊本市街から離れた立地のため、学生たちはみなキャンパス周辺に下宿していた。
その数、800人。付近が「学生村」と呼ばれるゆえんだった。

そこを、震度6強の地震が襲った。
70棟ほどあったアパートの大半が倒壊。学生3人が犠牲になった。

行方不明者の捜索で、がれきを取り除く自衛隊員ら=2016年4月17日午後0時40分ごろ、南阿蘇村河陽(提供:熊本日日新聞社)

付近を訪れると、あるアパートの前で、家主と報道陣の間で口論が起きていた。
放送局のクルーが、断りもなく倒壊現場に踏み入って、撮影を始めたことが発端だった。

「尊い命が失われた現場に、土足で踏み入るのか!」

たまたま通りかかった堀江記者にも、火の粉は降りかかった。
「お前もか!」。家主は村の有力者で、もともと知り合いだった。違うと主張したが、聞く耳を持ってもらえなかった。

その後、付近を取材するたびに、家主に見とがめられた。
声を荒らげ、糾弾してくる。

「あんたら報道の人間は被災地に土足で踏み込んで、救助や支援など被災者のためになることは何もせずに去って行くんだ」

きつい言葉だった。聞き流すことはできない。「そんなつもりはない」と説明を重ねた。
だがいっこうに分かってもらえなかった。
 

被災地取材、"場数"は生きるのか?


起きた災害に対して、総力を挙げて取材する。
それは報道機関の使命ではある。そこは理解しつつも、堀江記者は自分なりの考えをするようになった。

「報道陣都合が過ぎるのかも、と思うようになりました。『自分が現場を訪れている間に取材を完結させる』とか『取れ高があるから取材する』というのは、ちょっと違うんじゃないかと」

自分が今伝えなければ、とカメラクルーは思ったかもしれない。
だが、家族同然の下宿生を失った家主からすれば、当然「弔いも済まぬうちに土足で荒らすな」と感じるだろう。

大規模な捜索が終われば、大和晃さんが見つかる可能性は非常に低くなる。
報道陣からすれば、取材の取れ高は期待できなくなる。だがその前後で、大和さん夫妻が大事な家族を捜し続けることに変わりはない。

何より、ほとんどの被災者にとって、大規模災害に直面するというのは初めての出来事なのだ。
いろいろな災害現場を扱い続ける報道陣とは、そのあたりでもギャップは生じる。

余震が続く中、ホテルから外に出て、座り込む人たち=2016年4月14日午後10時18分ごろ、熊本市東区(提供:熊本日日新聞社)

地震から5年後。
洪水被害の現場で取材した堀江記者は、そのことをあらためて痛感した。

「話を聞き出せない」とこぼす後輩記者と同じだった。
時に拒まれ、非難もされる。本当に今、話を聞くべきなのか。葛藤しながら、被災地を回る。

「熊本地震の経験があるから、うまく取材できるなんていうことは、まったくないです。むしろ『経験が生きる』なんていう考えを持っている方が危うい」

「被災者の方にとっては初めてのことで、人生を変えてしまう重大なこと。それを慣れた感じで扱う、なんてことはできないし、絶対にしてはいけないんです」
 

急峻な谷を降りる「助っ人」


後輩記者は「心が折れそう」と言った。

堀江記者は「続けるしかないよ」と伝えた。

心が折れそうになるのは、自分も同じだ。
それでも「取材し続けろ」と言うのは、なぜなのか。

「それはやっぱり、大和さんのことがあったからだと思います」

行政による大規模捜索が終わり、報道のピークが過ぎてしまった後も、堀江記者は記事を書き続けていた。
何か当てがあるわけではなかった。信じて話してくれたことに応えるには、それしかないと思った。

堀江記者が当時使っていた取材ノート

地元紙が30本も記事を書き続ければ、世の中から反応も出てくる。
「自力で捜す」という大和夫妻のもとには「自分も手伝う」という一般市民が集まり出した。

崩落現場へは、急峻な谷を降りていくしかない。一般人には難しいと思われていた。
「自分たちがやる」。そう申し出てくれたのは、山登りのプロたちだった。

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