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アングル:米長期金利の上昇一服、ドルや株の騰勢も止まるか


伊賀大記

[東京 9日 ロイター] - 米国の長期金利が低下に転じている。財政政策の材料がいったん出尽くしとなったほか、過度な金融正常化の織り込みが修正されているためだ。景気回復期待がはく落したわけではないものの、米金利上昇に連動して騰勢を強めていた円金利や、ドル、株価の勢いが落ちるのか注目されている。

<米景気回復は「デフォルト」に>

米10年国債利回りは3月30日に1.776%を付けた後、足元で1.62%台まで低下。昨年末の0.912%から上昇してきたが、いったん天井を付けたとの見方も聞かれるようになってきた。

要因の1つは、米国の景気回復が、相場の大前提(デフォルト)として組み込まれてしまったことだ。株価や金利が昨年秋以降、上昇する中で、米景気回復は「当たり前」の材料となってしまった。3月の米雇用統計やISM景気指数など非常に強い経済指標が相次いでいるが、マーケットがほぼ無反応なのは、このためだ。

財政政策の材料出尽くしもある。バイデン政権の追加経済対策は1.9兆ドルと市場の想定を超える規模となったが、3月までの金利上昇の過程でそれも織り込まれた。インフラ計画はまだ議論の最中だが、増税が財源の中心になる見通しであることから、国債増発懸念も後退している。

米金融正常化の織り込みも低下している。FRB(米連邦準備理事会)の高官からハト派発言が続いていることに加え、原油価格の上昇が止まり、インフレ懸念が落ち着いてきている。FF金利先物市場が織り込む2022年末のFF金利は5日の0.31%から8日は0.26%に低下した。

「現時点では打診買いの範囲内かもしれないが、金利上昇リスクが低下したとみれば、機関投資家は買いに動きやすくなる。材料出尽くしとなり、インフレ懸念が低下する中、米長期金利はいったんピークアウトした可能性が大きい」と、野村証券のチーフ金利ストラテジスト、中島武信氏は指摘する。

<同時上昇してきたドルと株>

米株をはじめグローバル株価は昨年秋以降、米長期金利に連動して上昇してきた。金利上昇の要因が景気回復期待であったためだ。急激な金利上昇が短期的な株価の調整材料となる場面もあったが、トレンドを損ねることなく、同時上昇が続いてきた。

景気回復期待が後退したことが金利低下要因ではないとはいえ、景気回復や企業業績拡大が株式市場でも「デフォルト」として織り込まれたとすれば、新規の株高材料は見つけにくくなる。一方、早期の金利引き締め懸念が後退することは株価にプラスだ。金利低下はハイテクなどグロース株には追い風となる。

ドルも最近のドライバーが米長期金利の上昇だっただけに、金利上昇一服となればドル高の勢いは低下する可能性がある。円金利も米金利に連動して上値が重くなったとしても、米金利の方が低下スピードは通常速いため、日米金利差は縮小し、対ドルで円高圧力がかかりやすくなる。

さらに、今後は「米国一強」の構図に変化が出てくるかもしれない。米景気の回復期待が強かったのは、新型コロナワクチンの普及スピードが速かったためだ。「各国でワクチンが普及する中で、景気回復期待が米国以外で強まれば、ドル需要も相対的に減少する」と、三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏は予想する。

<米金利再上昇の見方も>

一方、米長期金利の上昇期待が消えたわけではない。「いまは短期的な調整。年後半にかけて米国の実体経済が実際に回復し、インフレ懸念が強まれば、金融正常化懸念が再び強まる」(アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏)との見方は根強い。

今後のポイントはインフレだとみられている。新型コロナの変異種拡大は警戒されるものの、ワクチン普及に伴う景気回復期待は崩れにくい。一方、インフレ懸念はいったん沈静化しているものの、実際の景気回復がこれから始まるとすれば、サービスを含めた需給の変化で再燃しやすい状況が続く。

シティグループ証券のチーフエコノミスト、村嶋帰一氏によると、ホテル代や航空運賃、衣料の3品目は需要の回復で価格が今後上昇するが、自動車や家電などはすでに価格が上昇しており、今後は横ばいで推移する見通しだ。「需給ギャップからみても、インフレ率は1.8%程度で持続的に2%を上回るのは難しい」という。

FRBは物価が2%を上回ることを一時的であれば容認する姿勢を示しており、早期の金融正常化懸念は強まらない可能性も大きい。

ただ、米長期金利は上昇が一服しているとはいえ、水準はコロナ前に戻っている。「低水準からの上昇であれば金利の影響は小さいが、経済の実力以上のレベルになってくると株式などリスク資産を圧迫するようになる」と、バンク・オブ・アメリカのチーフFX・株式ストラテジスト、山田修輔氏は指摘する。

今後、米長期金利が再上昇した場合、これまで以上にマーケットの警戒感が強まる可能性がありそうだ。

(編集:内田慎一)

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