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【独自】外国人留学生は「金づる」なのか:日本語学校の横暴を拒否した青年の苛酷な1年 - 出井康博

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劣悪な住環境でクラスター発生

 進学の夢を再び断たれた12月、クオン君のビザは在留期限を迎えた。依然として帰国困難状態であったため、入管当局は再度、6カ月の延長を認めてくれた。しかし、さらなる困難が彼を襲う。周囲の留学生の間で、新型コロナのクラスター発生が相次いだのだ。

 アジア新興国出身の留学生の多くは、夜勤のアルバイトに就いている。典型的な仕事が、コンビニやスーパーで売られる弁当や惣菜の製造工場などでの肉体労働だ。夜勤は人手不足が著しく、工場での単純作業であれば、日本語能力の乏しい留学生でもこなせる。

 そうした工場はたいてい駅から離れた郊外にあり、職場までは人材派遣会社の送迎バスで向かう。そんなバスの車中などで、クラスターが起きたのだ。

 留学生たちの住環境も、感染拡大に追い打ちをかける。日本語学校の留学生寮では、1部屋に数人が詰め込まれるケースが多い。民間のアパートで暮らす留学生も節約のため、複数で共同生活している。だからバイト先でクラスターが発生すると、留学生の間で「家庭内感染」が広がりやすい。

 クオン君がアパートをシェアしているベトナム人留学生のアルバイト先でもクラスターが発生した。工場は操業を停止し、留学生は収入源を断たれた。この留学生は専門学校生だが、母国からの仕送りはない。学費を支払う手段がなくなったわけである。

 クオン君の働く食品関連の工場でも、同僚の留学生数人が感染した。クラスターとは認定されず工場は稼働し続けたが、勤務時間を削られ、収入は大幅に減った。

 そんななか、ベトナムの家族から心配な知らせが届く。母親に癌が再発したのだ。

 クオン君が日本へ留学したのは、ベトナムよりはずっと豊かなこの国で働き、家族の生活を楽にしたかったからだ。とりわけ、農家で重労働を続けてきた母を助けたいとの思いは強い。

 しかし、来日から2年半が経つというのに、その目的は叶っていない。希望した進学は実現せず、母国への仕送りどころか、自分の生活で精いっぱいだ。しかも、いつ新型コロナに感染するか知れない。

「何のために、日本にいるのか……」

 母のもとに飛んで行きたいが、ベトナムへ帰ることもできない。クオン君は日本への留学を後悔した。

 そんな彼に吉報がもたらされたのは、今年1月20 日のことだった。大阪の専門学校に不合格になった後、願書を出していた栃木県内の専門学校に合格したのである。

 当日、筆者のもとにもクオン君からSNSで、短いメッセージが立て続けに届いた。

〈合格しました〉

〈〇〇専門学校に入れました〉

〈よかったあああああ〉

 最後のひとことに実感がこもっている。クオン君の入学を認めた専門学校は、彼が直面する苦境に同情し、出席率の低さに目をつむったようだ。とはいえ、これで問題はすべて解決したのだろうか。

公表されず葬られる「調査結果」

 セントメリーで起きた問題に関し、入管庁がクオン君らに聞き取り調査を実施してから9カ月が経つ。しかし、調査結果は何ら公表されていない。そこで筆者は入管庁に確認するため、以下の質問を送ってみた。

1)昨年7月、東京出入国在留管理局宇都宮出張所において、セントメリー日本語学院の複数の卒業生に対し、証明書の発行拒否問題に関しての聞き取り調査が実施された。卒業生たちへの調査と並行し、セントメリーへの調査も実施したのか。

2)入管庁は「日本語教育機関の告示基準解釈指針」において、日本語学校が告示抹消の対象となる「人権侵害行為」として「進学や就職のために必要な書類を発行しないなど生徒の進路選択を妨害する行為」を挙げている。セントメリーで起きた問題は、まさにこの「人権侵害行為」に相当するが、何らかの処分はなされたのか。

3)処分がなされていない場合、その理由は何なのか。

4)私のもとには、セントメリー以外の教育機関でも、入管庁が「人権侵害行為」と定義する事案の情報が複数届いている。これらが報告された場合、入管庁は調査を実施するのか。専門学校の所轄は都道府県、大学は文部科学省であるため、日本語教育機関以外で起きた問題に関しては対応しないのか。

 質問に対し、入管庁在留管理支援部在留管理課留学審査第2係の担当者から、こんな回答があった。

〈お問い合わせいただいた質問事項につきまして、個別の事案に関する内容については、回答を差し控えさせていただきますが、一般論として、教育機関等に対し調査が必要と認められた場合、事案に応じて文部科学省や都道府県とも連携しながら,地方出入国在留管理局において、必要な調査等を実施し、事実関係を確認した上で指導等の適切な対応を行うことになります。〉

 どうやら入管庁には、処分などする気はなさそうだ。被害に遭った留学生たちへの聞き取り調査を実施したのも、単に政界関係者の顔を立てるためだったのだろう。

 入管庁は日本語学校を監督すべき立場にある。しかし実際には、両者は「身内」同然だ。入管庁は文科省とともに、安倍政権から菅政権へと引き継がれた「留学生30万人計画」の推進役を果たしてきた。そして、同計画で急増した留学生の受け皿となったのが日本語学校だ。こうして表裏一体の関係にあるため、学校が法令に違反しようと処分に二の足を踏む。留学生への人権侵害問題よりも、業界の利益が優先しているわけだ。

 本連載で繰り返し指摘しているように、30万人計画には深い闇がある。留学生を底辺労働に利用するため、留学ビザ発給に十分な経済力を有さない外国人までも「留学生」として受け入れてきた。そんな国策に便乗し、バブルを謳歌している日本語学校業界には、とても「教育機関」とは呼べない実態の学校が少なくない。

 セントメリーで起きた問題にしても、氷山のごく一角に過ぎないことは筆者の取材経験から断言できる。事実、これまで私は、日本語学校や専門学校における留学生への人権侵害の事例をいくつも取材してきた。そして現在も、悲鳴にも似た訴えが届き続けている。

「留学生30万人計画」の犠牲者が次々と

 セントメリーに処分が下されていれば、日本語学校による留学生への「人権侵害」が認定された初のケースとなっていた。一罰百戒の意味は大きかったはずだが、入管庁は30万人計画という「パンドラの箱」を開けたくないのだ。しかし、「箱」は静かに開き始めている。

 今年3月、スリランカ人女性が収容先の名古屋出入国在留管理局で死亡した事件が波紋を広げている。体調を崩していた女性に面会した支援者が、生命の危険があるとして即時入院を求めていたのに、入管当局が収容を続けたと指摘されてのことだ。問題は国会でも野党議員が取り上げ、上川陽子法相が答弁に立っている。

 女性は2017年、千葉県内の日本語学校に留学生として入学した後、学費が払えず退学させられた。その結果、在留資格を失い、不法残留となった。そして昨年8月から入管に収容されていた。

 新聞では、女性は「母国からの仕送りが途絶えて」(2021年4月7日『東京新聞』電子版)学費が払えなくなった、と書かれている。しかし、本当に仕送りがあったどうかは確かめられておらず、女性には当初から留学ビザ取得に十分な経済力がなかった可能性がある。30万人計画に沿い、留学生の数を無理やり増やすため、入管庁がビザ発給を認めた1人だったのかもしれないのだ。だとすれば、単なる収容問題に留まらず、同計画と入管庁が招いたより根深い悲劇と言える。

 長引くコロナ禍の影響で、困窮する留学生が増えている。いくら入管庁が覆い隠そうとも、今後も様々な悲劇が生まれ、露わになっていくことだろう。

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