- 2021年04月09日 15:22
【独自】外国人留学生は「金づる」なのか:日本語学校の横暴を拒否した青年の苛酷な1年 - 出井康博
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卒業証明書がもらえない――系列校への内部進学を選ばなかったベトナム人留学生のカオ・タイン・クオン君に、日本語学校は嫌がらせを続けた。法務省の定めた基準に明白に違反する「人権侵害行為」を放置していた入管庁は、ようやく重い腰を上げたものの……。
4月初め、1人のベトナム人留学生が栃木県内の専門学校に入学した。2018年7月に来日し、昨年3月に同県内の日本語学校「セントメリー日本語学院」を卒業したカオ・タイン・クオン君(26歳)だ。
1年前の今ごろ、クオン君は行き場を失い、途方に暮れていた。セントメリー卒業後に希望していた進学は叶わなかった。彼の学力や日本語能力のせいではない。セントメリーが、専門学校や大学の受験に必要な日本語学校の「出席証明書」や「成績証明書」、「卒業見込み証明書」の発行を拒んだからである。
セントメリーはクオン君らに対し、自らの系列校である専門学校「セントメリー外語専門学校」への進学を強要しようとしていた。証明書を発行しなかったのも、同専門学校へ内部進学させ、学費を稼ごうとしてのことだ。
正当な理由もなく、学校が証明書を発行しないなど、日本人の学生相手には起こり得ない。だが、セントメリーでは実際に起き、留学生たちの人生が大きく狂ってしまった。
クオン君の同級生には、仕方なく内部進学に応じた留学生も多かった。そうしなければ、母国へ帰国する道しかないのである。「内部進学」か「帰国」という理不尽な二者選択を強いられ、クオン君はベトナムへの帰国を決めた。セントメリーの言いなりになって、横暴を許したくなかった。
そこに起きたのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。クオン君の留学ビザは、昨年4月24日で在留期限を迎えることになっていた。その前に日本を離れるためには、新型コロナの影響で高騰していた航空券を購入する必要があった。普段なら往復5万円程度から入手できる航空券は片道20万円以上にはね上がり、しかも実際に運行されるかどうか知れない。貧しい留学生には、簡単に買えるものではない。それでもセントメリー、そして入管当局も、彼に航空券の購入を促した。
クオン君から相談を受け、筆者は取材で法務省出入国在留管理庁(入管庁)に見解を求めた。すると直後、入管当局は慌てたように、3カ月の在留延長をクオン君に認めた。
その後、新型コロナの感染がさらに拡大すると、政府は5月、母国へ帰国困難となった外国人に在留を認める方針を打ち出した。クオン君も日本に留まり、1年遅れで念願の進学を果たせた。
「進学できたことはうれしいです。でも、僕たちの人権を侵害したセントメリーは、何も処分を受けていません。あんなにひどいことをしたのに、なぜ罰せられないのか、僕には納得できません」
筆者は昨年1月から、セントメリーによる留学生への内部進学強要問題を取材してきた。まず5月、3回にわたって本連載で問題を告発(2020年5月19日『「コロナ禍」の陰で「日本語学校」悪質極まる「人権侵害」の闇を追う(上)』)し、8月には続報も寄稿(2020年8月7日『悪質極まる「人権侵害」の「日本語学校」に「入管庁」はどう対応したか』)した。
そのどちらの回でも、実名と顔を公表してくれたのがクオン君だ。実名を明かせば、セントメリーから睨まれ、証明書の発行等で再び嫌がらせを受ける可能性もあった。それでも「僕のような思いをする留学生が、二度と出ないようにしてもらいたい」との思いから、敢えて危険を冒してくれた。
その思いに、日本語学校を所轄する入管庁はどう応えたのか。クオン君が歩んだ苦しい1年間を振り返りつつ、再度、入管庁の対応の是非をここで問うてみたい。
発行された「出席証明書」がおかしい
8月の続報記事に書いたように、入管庁は7月、クオン君を含め数人のセントメリー卒業生に対し、内部進学強要に関する聞き取り調査を実施した。ただし、同庁が自発的に動いたわけではない。筆者が政界関係者を通じ、同庁幹部へ拙稿を渡してもらいやっと実現した。
そもそも入管庁は、当初から対応を怠っていた。セントメリーに内部進学を強要された留学生たちは2019年11月、約20人が最寄りの東京出入国在留管理局宇都宮出張所に助けを求めている。このとき当局はセントメリーに対し、証明書を発行するよう強く指導すべきだった。
法務省は日本語学校が守るべきルールとして、「日本語教育機関の告示基準」を定めている。基準に違反すれば、同省に「告示」を抹消され、留学生の受け入れが認められなくなる。その解釈指針には、告示抹消となる留学生への「人権侵害行為」として、パスポートや在留カードの取り上げと並び、以下の具体例がはっきり書かれている。
〈進学や就職のために必要な書類を発行しないなど生徒の進路選択を妨害する行為〉
まさにセントメリーで起きたことである。にもかかわらず、当局は何もしようとしなかった。結果、多くの留学生が、希望の進学や就職の道を閉ざされた。
一方、聞き取り調査が実施された頃から、クオン君の心境に変化が生じていた。コロナ禍が収束する見通しはなく、いつベトナムに帰国できるか知れない。そこで彼は、いったんは諦めた進学に再びチャレンジすることにした。
希望の進学先として考えたのが、ベトナム人の友人も通う大阪の専門学校だった。本来、専門学校や大学の進学には、日本語能力試験「N2」以上の語学力が求められる。しかし、クオン君はN2どころか、その下のN3にも合格していない。そんな留学生でも、学費さえ払えば入学できる専門学校や大学は少なくない。
入管庁の調査も影響してか、今度ばかりはセントメリーも証明書は発行した。だが、「出席証明書」を見てクオン君は驚いた。セントメリー当時の出席率が、8割以下と記されていたのだという。
日本語能力を問わず留学生を受け入れる専門学校や大学であっても、日本語学校時の「出席率」と「卒業」は重視する。日本語学校を「卒業」していなければ、学費を支払えていなかった疑いがある。そして「出席率」の低い留学生は、学校から失踪し、学費を取りはぐれてしまうかもしれない。つまり、出席率や卒業の有無を通じ、学費の支払い能力を確かめたいのである。
出席率は、一般的に「8割」が合否の基準とされる。クオン君の出席率は基準を満たしておらず、志望の専門学校を不合格になってしまった。
「僕は絶対、8割以上の授業に出席していました。それなのに出席証明書には、8割以下と書かれていたんです」
クオン君はそう話す。セントメリーが出席率を低く改ざんしたと言いたいのだ。
勉強よりも出稼ぎが目的で、連日徹夜のアルバイトを続けているような留学生でも、たいていは8割以上の授業には出席する。出席率が8割を切れば進学できず、日本での出稼ぎも続けられなくなると知っているからだ。
クオン君は出席率を記録しておらず、本当に8割以上の授業に出ていたかどうかは証明できない。しかし日本語学校がその気になれば、改ざんは簡単にできてしまうのも事実である。



