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過体重を悪とする社会の視線。私たちは「肥満恐怖症」!? 身体は本来何がよいのかを知っている

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昨今、「ヘルシー」「スリム」はますます奨励され、「過体重」「肥満」は改善すべきものとみられることが多い。しかし、こうした社会が押しつける価値観によって、偏見や差別に苦しんでいる人々がいる。理想の身体を追求しすぎることの弊害について、カナダのストリートペーパー『L'Itinéraire』がレポート。

俳優のカティア・レヴェック
自分の太った身体を使い社会のステレオタイプに抗う

 今日、カナダ・ケベック州人口のうち半数が「過体重」、18パーセントが「肥満」だと言われる。その多くが根深い差別と直面する日常を強いられているとすれば、これは大変な数字だ。

「学校で文章を読み上げていた時、『太った』という言葉が目に入りました。汗が吹き出し、心臓がどくどくと鳴りました。口に出せば、周りの生徒たちから『お前のことだ』と思われてしまう、と思って」。俳優やモデルとして活動するカティア・レヴェック(写真、前列右から2番目)はこう述べる。彼女は子どもの頃から肥満と見なされてきた。

今回『L'Itineraire』編集部は、「さまざまな体型の人が身体を気にしすぎている現代社会」を伝える写真作品を、モントリオールの写真家ジュリー・アータチョに依頼した。撮影後、彼女は「人種や年齢にかかわらず、人々が食べものや体型に悩まされる姿を表現した」と話した。 Photo by Julie Artacho

 私たちが撮影所を訪れた時、彼女はこの記事の撮影のためにポーズを決める準備をしていた。彼女はごく自然に肌をさらして歩き回り、そのくつろいだ様は、まるでバスルームで見せる姿のようだった。彼女の周囲には、いくつもの驚きの視線があった。太った女性が恐れることなく自分の身体をさらすことに、私たちは慣れていないのだ。

 過体重を悪とする社会の視線に長い間直面してきたレヴェックは「子どもの頃は、自分の身体が受け入れられませんでした」と語る。その後、時間はかかったが、今では「アートが自分を表現する手段になったのです。自分のような身体がテレビや映画に映し出されることがないのなら『自分が出ればいいのだ』と考えられるようになりました」。レヴェックは、ステレオタイプとは異なる身体が市民権を得ること、そして観客にとって「なぜ私たちはこういう身体をすぐに醜いものと結びつけてしまうのか」と考えるきっかけになることを望んでいる。

 レヴェックの仕事は、間違いなく必要とされている。なぜなら現状、公的な場における太った人々のイメージは、負の烙印(スティグマ)を強化しているからだ。「大きい人」のためのブログ「Dix Octobre」の執筆者、コラムニストであるガブリエル・コラールはこう嘆く。「たとえば、フィクションの作品に出てくる太った登場人物というと、とても声の大きな黒人女性であったり、性生活と縁がない主人公の友人であったり、ディズニー作品の悪役であったり、子ども向け映画のいじめっ子であったりするわけです。痩せることを目指す人物の話でないかぎり、物語の主人公になることはありません」

プラスサイズの人のためのブログ「Dix Octobre」で執筆するガブリエル・コラール Photo: Ulrick Wer

肥満恐怖症、逃す就職機会
医療の場面では安易な誤診も

 こうした「肥満恐怖症(ファット・フォビア)」と呼ばれる現象は、さまざまな形で見られる。からかいであったり、横目で向けられる“太りすぎ”という視線であったり、親しい友人や家族、あるいは見知らぬ他人からの減量へのプレッシャーであったり――これが、多くの過体重の人々が共有する苦難である。「太っていることに対する恥がどれほどまでに深いものなのか、人は理解していません」と栄養士のリサ・ラトレッジは嘆く。「あらゆる場面で、悪意なく発せられる差別的言動が見られます。着るもので判断され、人前で何を食べるかで評価され、あるいは、もし普通の人と同じように海に行くことを決めたなら、そのことで咎められるわけです」

Svetlana Zritneva/ iStockphoto

 のろま、まぬけ、ぐうたら、大食らい……過体重の人に向けられる非難の言葉は数限りない。「太っているのは、くだらない愉しみに溺れているからだろう、とみなされるのです」。コラールは溜息をつく。

 肥満恐怖症は社会のさまざまな側面で影響を与えている。たとえば米国とフランスでは、過体重の人はそのことにより就職機会を逃す傾向にあるという調査結果が出ている。また、医療の場面でも問題が生じている。過体重の人が病院に行くと、体重を理由に身体的・心理的苦痛を誤って評価されることも多いのだ。コラールは、この種の誤診を被った人々の声を自身のブログで集めている。その中の一つ、12歳の少女が強烈な足の痛みにより何度か医者を受診した時のこと。そのたびに彼女は、運動をして体重を減らすことを勧められた。しかし、セカンドオピニオンを求めて別の医者にかかったところ、坐骨神経の近くにがん性の腫瘍が見つかったのだという。

 コラールには、日々交わされる決まり文句の中でも、とりわけ許せないものがあるという。「私が一番許せない偏見は、太っているのは自分の選択の結果だとする考えです。それから、あなたは減量すべきだと伝えさえすれば、それでその人は減量する気になるだろうという考えです」。体重は減らそうとして減らせるものではないのだ。

太った身体は必ずしも病気でない
人の体重を決める要因は食事や運動以外のもの

 ラトレッジも、そうした言葉は過酷な現実をあざ笑うようなものだと見ている。体型というのは当人が望んで決められるものではない。「人の体重を決める要因の多くは、食事や運動以外のものです」と彼女は説明する。「各人の病歴、ストレスや経済状況、あるいは居住地についても考慮に入れなければなりません。徒歩で歩き回れる場所に住む人りではないわけですから」

 さらに彼女によると、過体重の人にダイエットを続けなさいと伝えるのは、かえって逆効果になりかねない。「調査によると、肥満をスティグマ化することは、心理的にも身体的にも否定的な影響をもたらします。肥満を気にしている人が、自分の身体や自分の動く姿が人から笑われるのを避けようとして、ストレスからかえってたくさん食べたり、人目を避けるために運動を減らすのは、十分ありうることです」

UnitoneVector/ iStockphoto

「なぜ、太っていることがそれ自体で悪いことだという前提が働くのでしょうか?」。コラールは問う。彼女に言わせれば、太った人であれば減量を必要とするに違いないと考えることも、やめる必要がある。「私たちは過体重であることと病気とを、結びつけすぎなのです。ですが、太った身体が必ずしも病んだ身体だというわけではありません。太っていることは、単にそういう状態だというだけでしょう!」

 ラトレッジもこれに賛同する。「私は普段から、身体の大きさはその人のライフスタイルや健康について示しているわけではないと、説明しています。私たちは『こういう体型の人は、こういう問題があるからに違いない』と考えてしまいますが、それは常に正しいわけではありません」

「肥満恐怖症」の語源は「太った人(ファット)」への「恐怖(フォビア)」という意味だ。世界保健機関(WHO)が「肥満の蔓延」を掲げ、私たちの身体がかつてないほどのプレッシャーへとさらされている現状において、過体重であることへの集団的恐怖が今後進展していくことは目に見えている。「太っているか、そうでないか。現在あらゆる人が、この二項対立に囚われた肥満恐怖症にかかっていますし、その被害者なのです」とコラールは自身のブログで述べている。

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