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小熊英二の「社会を変えるには」を改めて読む(2)

 現代の社会で旧来のシステムが働かなくなっていることのキーワードとして重要なのが、「ポスト工業化」と(変化の)「再帰性」ということです。

 日本では、欧米諸国よりも少し遅れて、1990年ごろ、つまり昭和が終るころまで工業化社会の恩恵が続いていました。技術開発の後進国だった日本が、官民あげての「追いつけ追い越せ」の勤勉さによって、世界最後の工業化の勝者になっていたのです。この時代には、産業労働者を背景とする社会主義政党と、その他を糾合した保守政党とが、政治の上でも安定した力関係を保っていました。

 もっとも、日本の社会党は、議会ではいつまでも3分の1の壁を破ることができず、ヨーロッパ先進国のような社民主義政党が政権につくことは一度もありませんでした。マルクス主義の影響が強くて、社民的な思想が「不純で二流の社会主義」として低く見られていたからかも知れません。(これは著者ではなく私の感想ですが。)

 ポスト工業化になると、このパワーバランスは無効になります。そして以後の変化には「再帰性」が強くなってくるのです。再帰性とは、ある変化によって対象が変化し、その変化によって主体も変ってしまう現象です。工業化なら対象は資源や生産物ですが、ポスト工業化になると人間を対象とする産業が主力になるので、変化は加速度的に拡大してしまうのです。そして「労働者」や「女性」といったカテゴリー分けも、成り立たなくなってきます。

 こういう、まとまりにくい社会を動かすにはどうしたらいいのか。人々はそれぞれの不満をつのらせながらも、ぴったり来る代弁者を見出すことがことが難しくなります。「彼ら」を攻撃したい意識は強くなっても、「われわれ」としてまとまる力や安心感を持てない状況です。

 前述したように、この本は明快な指針を与えてくれたりはしません。最終章で、いくつかの事例と、そこから汲み取るべきヒントを述べているに過ぎません。たとえば、小さなグループから始めることの大切さということがあります。大切なのは運動する仲間を増やすことであって、組織を大きくすることではありません。人が楽しいと感じるのは、自分が主体的にかかわって、言いたいことが表現できていると思うときです。それを著者は「鍋料理の楽しさ」にたとえています。

 政治を動かす方法には、選挙ばかりでなく、議員へのロビー活動、インターネット利用、街頭デモ、ミニ集会・学習会など、いろいろな方法があります。運動が先行しているなら、その時々で最適の手段を選んで行けばいいのです。

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