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「これだけを30回繰り返してください」佐藤優が菅首相に伝えたい"あるフレーズ"

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昨年10月、国会は日本学術会議の任命拒否問題で大騒ぎになった。あの問題の本質とは一体なんだったのか。佐藤優氏と池上彰氏の対談をお届けしよう――。

※本稿は、池上彰・佐藤優『ニッポン未完の民主主義』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

参院予算委員会で答弁する菅義偉首相=2020年11搈5日、国会内参院予算委員会で答弁する菅義偉首相=2020年11月5日、国会内 - 写真=時事通信フォト

政権に「政府による学問の自由の侵害」という意図はなかったはず

【池上】菅政権発足後、いきなり日本の民主主義が正面から問われるような事態が持ち上がりました。日本学術会議の会員任命拒否問題です。2020年10月1日に行われた新会員の任命に際して、任命権者である菅首相が、学術会議の推薦した105人のうち6人を除外したんですね。2004年に、組織内部からの推薦を受けて会員に任命される制度となって以降、初めてのことでした。

「任命拒否」という事実もさることながら、菅総理が「総合的、俯瞰的に判断」などと繰り返すのみで、除外の明確な理由を語らなかったことも、批判を浴びました。

【佐藤】この問題で私が恐れるのは、神学で言う「予言の自己成就」です。初めは根拠のない思い込みでも、人々がそれを信じて行動することで、「正夢」になってしまう。例えば、「○○信用金庫が危ない」という根も葉もない噂を信じて取り付け騒ぎが起こった結果、信金が本当に潰れる、といったことが起こりえるわけです。

この場合の「噂」は、「政府による学問の自由の侵害」です。少なくとも政権の中枢には、今回の人事に関してそこまでの意図はなかったのではないか、と私は見ています。

官邸幹部が加藤陽子氏を「除外リスト」に載せるはずがない

【池上】にもかかわらず、実際に学問の自由への介入が起きてしまうかもしれない、というわけですね。でも、本当に官邸にはその意図がなかったのでしょうか?

【佐藤】6人のうちの1人、歴史学の加藤陽子氏とは、共著を出したこともあるのですが、彼女は、福田内閣時代に政府の有識者会議の委員を務めたり、上皇ご夫妻が在位中には、他の歴史家とともに、頻繁に御所に招かれたりもしていました。そんな人物を「除外リスト」に載せるような稚拙なことを、官邸幹部がするとは考えられないのです。

【池上】そもそも前例のない任命拒否自体、マウンドに上がっていきなりビーンボールを投じるようなものですからね。

【佐藤】念願の総理の座を手にして早々、やることではありません。恐らくは、中枢よりは下の官僚が「画策」したものでしょう。誤解を恐れずに言えば、「国家の安全を守るために、異質なものは容認できない」という考えを持った人たちが、その任務に忠実であるがゆえに手を付けた。今までの人生の中で、「学知」というものが役に立った経験も持たない人たちだと思います。

たぶん本当のターゲットは、日本共産党系の民主主義科学者協会法律部会の関係者である松宮孝明氏、岡田正則氏、小沢隆一氏の3人だったはず。それにカモフラージュのための3人をプラスして載せた「拒否リスト」が、人事発令前に、あろうことか『しんぶん赤旗』にすっぱ抜かれてしまった。『赤旗』のスクープ、政権からすると政党機関紙への「情報漏洩」がなければ、発令の段階で官邸が見直すことも可能だったのに、引くに引けない状況になってしまったというのが、私の見立てです。

「行政権の肥大化」が起きている

【池上】官僚機構に詳しい佐藤さんならではの分析だと思います。とはいえ、そうなると、官邸の外にいる官僚がそうした前例のない人事を上げたことになります。ずいぶん乱暴なことをしたものですね。

【佐藤】まさにそこに、今の日本の民主主義が置かれた危機の一面が覗いていると思うのです。ひとことで言うと、「行政権の肥大化」です。司法権、立法権に対して、行政権の力が相対的に高まり、その結果、一部の官僚の発言権が増しました。官僚が「俺たちがやってやろう」という自信を持つようになったわけです。そうした傾向は、政府が「迅速なコロナ対応」を求められる中で、ますます強まっています。

国会議事堂と高層ビル※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

【池上】なるほど。かつては官僚がそういう考えを持っていたとしても、実際に学術会議の人事に触るようなことはしなかった。今は、それができるんだという感じになっているというわけですね。

一般論で言えば、行政がてきぱきと物事を決めて実行するのは、大事なことです。しかし、本来議会のチェックが必要な部分をスルーして進めたりすれば、やはり三権分立の原則に反します。そのあたりも、非常 に曖昧になっている感じが否めません。

安倍政権から続く「システムによる政権運営」

【佐藤】今のような行政権の肥大化を生んだのは、さきほど池上さんも問題点を指摘した安倍長期政権にほかなりません。安倍政権の後半は、首相のリーダーシップのように見えて、政治を動かしているのは、実は「官邸の意思」でした。政策立案は側近に任せ、安倍さんが「必要だ」と思ったものにだけ、ゴーサインを出す。私は「首相機関説」と呼ぶのですが、そういう「システムによる政権運営」が定着したのです。勢い官邸官僚を頂点とする官僚機構は、強い力を獲得することになりました。

【池上】菅さんも、基本的にそのシステムを引き継いだと考えられるわけですね。

【佐藤】そうです。だから、長期政権後の交代劇にもかかわらず、熾烈(しれつ)な政争を見せつけたりすることもなく、すんなり幕を閉じました。政権の主体が政治家本人ではなく、システムであることの証左ではないでしょうか。

【池上】「顔」が入れ替わるだけで、システム自体は揺るがないから、みんな平穏でいられた。

【佐藤】ただし、その「顔」には、ちょっとした違いもありました。安倍さんは、憲法改正だとかの、ある種イデオロギッシュな「やりたいこと」が明確でした。しかし、菅さんには、それが見当たらないのです。

【池上】あえて言えば、首相になることが目的だったと言えるのかもしれません。国家観のようなものは、全く感じられない。

ただ、憲法を改正するだとか、常に右手を振り上げていた安倍さんの時代、国民はちょっと“政治疲れ”を感じていたように思うのです。何も言わない菅さんになった当初は、正直ほっとしたところもあった。それが、就任直後の高い支持率につながったのではないでしょうか。

いきなり携帯電話料金やNHK受信料の引き下げを口にしたときには、安保闘争で倒れた岸信介内閣の後を継いだ池田勇人とのアナロジーを、ちょっとだけ感じたんですよ。とりあえず政治から経済にシフトする、という。

まあ、国民所得倍増計画をぶち上げ、実際に高度経済成長を実現していった池田内閣に比べると、ずいぶんスケールの小さな話ですし、携帯もNHKも総務大臣時代に「勉強」しているから、それをベースに提起しているのは明白なのですが。

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