記事

韓国の根深い反日感情と日韓経済連携協定の行方(関山健 研究員)

韓国の李明博大統領が9月中にも国賓として日本を訪問することになりそうだ。もとは今年3月に予定されていた同大統領の国賓来日だが、日韓が領有権を争う竹島(韓国名:独島)を巡って日韓の対立が春先に先鋭化したため今秋へ延期されていたものである。

李明博大統領の国賓来日が実現すれば、折しも日本で8月末に新しい首相が誕生した直後の日韓首脳会談となる。そこでは未来志向の協力関係が多岐にわたって協議されるものと思われるが、交渉再開に目途がたたない日韓経済連携協定(EPA)の扱いも必ず話題に上ることだろう。

本稿では、昨今の日韓国民感情を踏まえつつ、日韓EPA交渉の行き詰まりとその打開策を考えてみたい。

薄まる反日感情?



2011年8月15日。この日、日本では66回目の終戦記念日であり、NHKはじめ各種のメディアで終戦特集が組まれ、「今年も終戦記念日が来たな」との思いを強くした。

一方、戦前日本が植民地支配していた韓国では、8月15日は日本支配からの独立を記念する日であり、「光復節」と呼ばれる。

日本の終戦記念日前後における特集や記念行事の数々から想像するに、韓国の「光復節」もさぞ日本の植民地支配に批判的な報道や記念行事などが至るところで見られるのかと思いきや、テレビ番組でも街頭でも日本の植民地支配をテーマにしたプログラムやイベントを見つけることすら難しい。

むしろ8月15日は日本の出国ラッシュの最中であり、韓国でも明洞(ミョンドン)などの繁華街には無数の日本人観光客が溢れ、流暢な日本語を操る店員を相手に韓国での観光を楽しんでいた。

こうした光景を見るに、もはや韓国では反日感情は問題とならないのではないかとすら感じさせる。

実際、日韓の間の国民感情は、文化交流を通じて近年急速に改善してきている。特に日本側では2003年の「冬のソナタ」放映をきかっけに韓国ブームとなり、今ではすっかり日本に定着した韓国ポップカルチャーの影響で対韓感情が大きく改善した。

内閣府の調査によれば、1990年代の日本では、韓国に対して親近感を感じる人の割合は概ね40%程度にとどまり、1996年には35.8%まで落ち込んでいたものの、2000年代に入ると韓国に親しみを感じる人の割合が50%を越えるようになり、2009年には60%を越えるようになった(内閣府『外交に関する世論調査』平成22年10月調査)。

韓国側でも、1998年の日本文化解禁以来特に若者を中心に日本への関心と親近感は高まっており、例えば筆者が今夏授業を受け持ったソウルの大学で韓国人学生に好きな国を尋ねたところ、その過半数が日本を挙げ、理由として日本のドラマ、アニメ、ファッションなどの魅力を詳しく説明してくれた。

引き続き敏感な対日関係



このように日常的には穏やかな日韓関係ではあるが、韓国において日本との関係は今なお政治的に敏感な問題であり続けていることを忘れてはならない。

つい8月1日にも、自民党の新藤義孝衆院議員、稲田朋美衆院議員、佐藤正久参院議員が竹島の北西に位置する鬱陵島(ウルルンド)視察のためにソウル近郊の金浦空港へ降り立ったものの、韓国当局に入国を拒否されたばかりである。

3議員は鬱陵島の独島博物館などを視察する予定だったというが、韓国では彼らの視察計画が表面化するや抗議デモが起きていた。筆者も8月1日当日の金浦空港に居合わせたが、数百名の抗議者が集り、日の丸を引きちぎったり、警官ともみ合いになったりと物々しい雰囲気であった。

韓国当局は、こうした国内世論の強い反発を受けて、日本の国会議員の入国拒否という異例な措置を採ったのである。

そもそも竹島を巡っては、今年3月に竹島の領有権表現が強化された中学校社会科教科書が日本の検定を通過したことを受け、当初は今春に予定されていた李明博大統領の国賓来日も今秋への延期を余儀なくされていた(asahi.com2011年2月17日)。

こうした韓国における日韓関係の敏感さは、時に経済問題にも影を落とす。その最たる例の一つが、いっこうに妥結を見ない日韓EPA交渉であろう。

日韓EPA交渉頓挫の背景



日韓EPAは、1998年に民間レベルでの共同研究が始まり、2003年12月からは政府間の交渉も開始されて、2004年11月までに6回にわたる交渉会合が開催された。しかし、第6回交渉会合を最後に交渉は行き詰まり、それ以降7年間も交渉は中断されている(外務省HP)。

この間も、日韓政府は交渉再開に向けた検討と環境醸成のために外務審議官級の実務協議や局長級の事前協議を重ねてはいるものの、交渉再開の目途は全く立っていない。

交渉頓挫の背景として、日本のEPA交渉は農業分野の保護が大きな論点となる傾向が強く、それは日韓EPA交渉においても例外ではない。しかし、日韓EPAの場合には、工業分野にも利害の一致を見出しにくい事情がある。

工業製品について、日本では関税がほとんどゼロであるが、韓国では平均8%程度の関税を維持している。つまり韓国は、EPAのない現状でも多くの工業製品を日本にほとんど関税の影響を受けることなく輸出できる一方、日本からの輸入に対して国内企業を保護している状態にある。

ここでもし日韓がEPAを締結して相互に関税撤廃を行うことになれば、韓国としては工業製品の対日輸出で得るものは大きくない一方、逆に日本は工業製品の対韓輸出で関税撤廃の恩恵を受けることができる。

そもそも韓国を代表する自動車産業や電子機器産業は、中核部品を日本から輸入し、それを組み立てて輸出するという産業構造となっているため、現状ですら日韓貿易は韓国の恒常的な対日赤字となっている。しかも直近2010年の対日貿易赤字は、361.2億ドルと前年の276.6億ドルから大幅に増加し,過去最高を記録したところである(韓国側統計)。

ここでもし日韓EPAを締結すれば、日本からの部品輸入のさらなる増加につながるため、韓国国内の競争力の低い部品産業が衰退しかねず、対日貿易赤字の拡大にもつながるであろうことを韓国側は懸念しているのである。

交渉再開を阻む日韓関係の難しさ



ただし、日韓EPAの締結で得をするのは、当然ながら日本側ばかりではない。中国の自動車産業や電子機器産業が低価格を武器にして急速に国際競争力を高めている中、韓国の自動車産業や電子機器産業にとっては、EPAによって日本から関税なく部品を輸入できるようになれば、価格面で国際競争力の向上につながるというものだ。

しかし、韓国における対日関係の政治的な難しさが、日韓EPA交渉の再開と早期妥結への道を阻む。

日韓EPA交渉が頓挫して以来なかなか交渉再開の目途が立たない理由の一つとして、「韓国からすれば、ただでさえ日本とのEPA締結は失うものが多い反面得るものが見出しにくい。政治的に難しい日本との関係において、メリットを見出しにくいEPAの妥結を拙速に進めるのは、政治的なリスクが大きい」ことが挙げられる(在韓日本外交筋)。
日本との関係は政治的に敏感である以上、支持率が3割を切っている李明博大統領には、日韓関係で更なる面倒を抱え込む余力は乏しいのかもしれない。

民間研究者の間ですら、「安易に日本との関係強化を提言しようものなら、すぐにメディアや学会で吊るし上げにされてしまう危険がある」という(日本留学経験のある韓国大学教授)。

こうした背景から韓国内では、2011年7月にEUとのFTAが暫定発効し、アメリカとのFTA発効にも目途が立ちつつある今、今度は中国とのFTA締結を望む声が高まっており、日本との交渉再開はますますモメンタムを失いつつあるという(前出の在韓日本外交筋)。

期待は首脳の政治的決意



日韓EPA交渉は2004年の中断以降も、首脳会談や外相会談などの度に早期締結の重要性を両国で確認し合い、事務レベルの協議を重ねてきてはいる。

しかし、政治的に敏感な日韓関係において真に小異を捨てて大同につき、本格的な交渉の再開と妥結へと歩を進めるためには、首脳レベルでの強いリーダーシップが不可欠である。

そもそも自由貿易交渉のようなメリットとデメリットの入り混じる国際交渉には政治的リーダーシップが必要であるが、特に日韓EPAについては、その必要性を強く感じさせる。7年間にも及ぶ交渉中断という事実が、真の強い政治的リーダーシップの欠如とその必要性を証明していよう。

今秋に延期された李明博大統領の訪日は、9月中で調整されていると聞く。折しも、日本で8月末に新しい首相が誕生した直後の日韓首脳会談である。国賓来日となれば、それに見合った何らかの合意も必要となろう。両国首脳が強い決意をもって合意できれば、日韓EPAの交渉再開はできないことではない。

逆に、もしこの首脳会談でEPA交渉再開の強い政治的リーダーシップが両首脳によって発揮されなければ、このまま日韓EPAは完全にお蔵入りしてしまいかねない。特に来年は韓国で大統領選挙が行われる年であり、日韓EPAのような政治的に敏感な問題には触れにくい年となろう。ぜひ今秋の李明博大統領国賓来日の機会に、日韓両国首脳の政治的決意を期待したい。

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。