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「南シナ海行動宣言」ガイドライン合意の評価と今後の展望 - 関山健

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3.ガイドラインの評価と今後の展望



今般、中国とASEANの間で合意されたのは、2002年の「南シナ海行動宣言」に関するガイドラインである。先に指摘したとおり、この「南シナ海行動宣言」はあくまで宣言に過ぎず、法的拘束力を持つ行動規範の合意こそ南シナ海問題を巡る最大の焦点なのであるが、今般合意されたガイドラインも問題の平和的解決について関係国を法的に拘束するものでない鄽。

中国は、2002年の南シナ海行動計画の採択以来、表面的にはASEAN諸国との協調姿勢を採りつつ、その実態は自国による実効支配の既成事実化と海洋権益の保全を進めてきた。

2009年来再び南シナ海での活動を活発化させてきた中国は、2010年10月29日のASEAN関連首脳会議の場で温家宝首相が南シナ海を「友好と協力の海」と呼び、対話による問題解決を定めた南シナ海行動宣言の「履行に真剣に取り組む」と表明したⅤが、実際には今年に入ってからも、中国の艦船がベトナム探査船のケーブルを切断するなど、ベトナムやフィリピンの船舶活動を妨害する事件が続発している。

そもそも中国の南シナ海に対する立場と政策は、この海域の実効支配を固めた1990年代中頃以来それほど大きく変わっていない。その立場は、1995年に当時の銭其琛外交部長がASEAN外相に語った以下の諸点に表れている(平松2002:155-156)。

(1) 中国は南沙諸島とその周辺海域で争われるべき主権問題を有していない

(2) 中国は、平和的な話し合いを通じて、関連する係争点を解決する。

(3) 「擱置争議、共同開発」の方針は、南沙諸島で係争を処理する現実的な方法である。

(4) 中国は係争を有する国家との二国間協議を望んでおり、多国間協議は不適切である。

(5) 中国は南シナ海の航行の安全と自由通航を重視しており、何らの問題も生じないと信

じている。

(6) 米国は南沙諸島との根本的に関係がなく、介入する何らの理由もない。

すなわち、南シナ海の実効支配を確立している中国にとしては、関係各国に軍事行動を慎むよう促しつつ、共同開発によって実利を上げて、自国の実効支配を既成事実化していこうというのである。また、周辺国や第三国に対しては、南シナ海の航行の安全と自由通航を認める以上不都合はないはずであり、アメリカには介入の口実を与えないという考えである。

実際、「南シナ海行動宣言」は、こうした中国の立場に沿った内容である。今般合意されたガイドラインも、結局は上述の構図に何らの変更も迫るものではなく、中国の権益確保に向けた現状維持を追認したに過ぎないと評価しえよう。

実に身勝手な考え方に聞こえるが、これが現実に過去15年にわたって南シナ海ではまかり通ってきたのであり、今後も基本的な構図に変わりはないと思われる。

そして、本稿で考察してきた南シナ海での出来事は、半周遅れで東シナ海でも再現されようとしているように見える。中国にとっての各種の海洋権益確保という点から見れば南シナ海と東シナ海の問題は類似点が極めて多く、したがって南シナ海の過去を知ることは東シナ海における日本にとっては望ましくない未来を見ることだと言えよう。

尖閣諸島と周辺海域の実効支配を守り、日本にとっての海洋権益を確保するため、我々が南シナ海から学ぶことは多い。


【参考文献】

飯田将史(2002)「南シナ海問題における中国の新動向」、『防衛研究所紀要』第10巻第1号pp.143-159。

国家海洋局海洋発展戦略研究所(2009)『中国海洋発展報告(2009)』海軍出版社。

平松茂雄(2002)『中国の戦略的海洋進出』勁草書房。

鄯 「南シナ海緊張 ベトナム漁船拿捕、中国の船員拘束続く」朝日新聞2010年10月9日朝刊。

鄱 中国外交部HP、"Set aside dispute and pursue joint development"、http://www.fmprc.gov.cn/eng/ziliao/3602/3604/t18023.htm、2010年12月3日閲覧。

鄴 「宇宙・海洋・地底に新たな資源を求める」人民網2010年1月4日。

鄽 「緊張緩和は不透明 ASEAN・中国 南シナ海指針に合意」東京新聞2011年7月21日朝刊。

Ⅴ 「中国、ASEANには配慮 対話で解決、強調 南シナ問題」朝日新聞2010年10月30日朝刊。

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