放送作家のおおたけです。
昨年末から芸能界がバタバタしてきました。吉本興業からキングコングの西野亮廣さん、オリエンタルラジオの2人が退所。3月には、俳優の佐藤健さん、神木隆之介さん、ロックバンド・ONE OK ROCKが大手芸能事務所アミューズからの独立を発表しました。

報道によれば、3組はアミューズを3月末で退社。4月1日付で、ONE OK ROCKは海外での活動を中心に据えるべく「株式会社10969」を設立。佐藤健さんと神木隆之介さんはアミューズも出資する「株式会社Co-LaVo」を新しく立ち上げます。
素行が悪いといったトラブルで、事務所と揉めたことにより独立せざるを得ないタレントもいる中、この3組に関してはそのような噂を耳にしたことがありません。事務所との関係が良好の中での退社となるようです。
オリラジ藤森が語る!テレビより儲かるYouTube

佐藤健さん、神木隆之介さんでいえばYouTubeの存在が大きいことは容易に推測できます。このコラムを書いている3月30日時点で、それぞれのチャンネル登録者数は、佐藤健さんの公式YouTubeチャンネル【佐藤健/Satoh Takeru】は200万人。神木隆之介Officialリュウチューブは37.4万人。
事務所を頼って仕事を得なくてもYouTubeによるGoogleの広告収入があります。YouTubeの収益については、オリエンタルラジオ藤森慎吾さんが手越祐也さんのYouTubeチャンネル『手越祐也チャンネル』内で、YouTubeの収益がテレビの出演料を超えたことを明かしていました。
当時の藤森さんといえば、『火曜サプライズ』『爆報!THE フライデー』『王様のブランチ』などゴールデン帯も含めて、テレビのレギュラー番組を何本も担当していました。そうしたテレビの出演料よりもYouTubeの収益が多かったわけです。
もちろん佐藤健さん、神木隆之介さんはテレビよりもスクリーンをメインに活躍する俳優。所属も吉本興業ではないため出演料も違うでしょう。そう考えると独立は、「YouTubeの収益が大きくなった」という単純なものではなさそうです。
タレント主導で働けるYouTubeの魅力
YouTubeの台頭で事務所の意向を気にせず、好きな仕事で基盤となる収入を稼げるようになったことがタレントの働き方に変化をもたらしたのではないでしょうか。
みなさんも会社で、「気乗りはしないけど給料のためだから…」と思いながら働いた経験はありませんか? お金のために働くよりは、好きなことがお金になるのが理想的ですよね。
奇しくもYouTubeのキャッチコピーは「好きなことで、生きていく」でしたが、佐藤健さん、神木隆之介さんも事務所の意向を気にせず、好きなことで生きていく道を選択したのではないでしょうか。
実際、報道で発表された2人のコメントは「俳優としての活動はもちろん、新たなチャレンジをしながら、更なる飛躍を目指して活動して参ります」というものでした。
以前は私も放送作家を抱えた芸能事務所に所属していました。比較にはなりませんがテレビ局から事務所に「クイズを作れる作家を10人集めて欲しい」とオファーが入ることがあります。事務所はテレビ局との関係から断るわけにはいきません。
所属する放送作家に声をかけるわけですが、クイズ作成が苦手な私の本音は断りたい。ただ「みんなから断られちゃってさ〜、頼むよ〜」などと言われるとマネージメントの手前、断れません。不要な優しさでオファーを受け入れた結果「あー、苦手な仕事をしてしまった…」と頭を抱えた経験が何度もあります。
タレントと放送作家は同じではありませんが、「テレビ局→芸能事務所→タレント」という芸能人のこれまでの仕事の流れが、YouTubeの登場で「タレント→YouTube」と、完全にタレント主導の働き方に変わる可能性があります。もちろんYouTubeで稼げるという前提のもとですが…。
事務所内で自立をしていたONE OK ROCK

続いて、ONE OK ROCKです。アミューズは「ONE OK ROCKはかねてよりチャレンジを続けてきた海外での活動に重心をかけ、その動きを加速させていくために、ONE OK ROCK自身の事務所を設立し、より大きなステージに挑んでいく」と発表しています。
アミューズ時代から世界で活動していたONE OK ROCK。私が2017年に担当していたラジオ番組に出演してもらった時、印象深いことがありました。
それは出演の判断をメンバー本人がするというもの。「当たり前じゃないですか」と思うかもしれませんが、通常、仕事のオファーはマネージャーの判断か、タレントとマネージャーが相談して決めるケースが多いです。
大御所タレントならまだしも、当時20代のONE OK ROCKがラジオ出演の判断さえも自ら行っていたことから、アミューズ内での発言力の大きさがよくわかります。
ただ、芸能事務所にいながら、仕事の差配を自ら行えるのであれば「アミューズ所属のままでいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、大手事務所と個人事務所ではスピード感に圧倒的な差があります。
放送作家として芸能界でスピード感を感じることの1つがゲストブッキングです。通常は芸能事務所のマネージャーを通して行いますが、大手だとこれがなかなか決まらない。大手芸能事務所は1人のマネージャーが複数のタレントを担当することは珍しくないため、忙しくて仕事が回っていないのか、仮のスケジュールが入っているのか、理由はいくつか考えられます。
すぐに断ってくれれば次のブッキングはできますが「ちょっと待ってください」とキープ状態だとどうすることもできません。
一方、個人事務所だとサクッと決まる…と言い切りたいところですが意外とそうでもないのが本音です。ただ体感として大手よりはスピード感を持って出演の判断が下される印象はあります。
粛清の噂の多くは放送局の忖度だった

芸能人の独立について書いてきましたが、「独立」といえば、元事務所からの圧力により地上波に出演できなくなる、いわゆる「粛清」という話をよく耳にします。
結論からいうと、放送作家として仕事をしていて、芸能事務所からの圧力を感じたことはほぼないです。ただし、放送局の忖度を感じることは珍しくありません。放送局からすれば芸能事務所は番組作りに欠かせないタレントを抱える、いわばお得意様。お互いがwin-winの関係で仕事をすることが好ましいことは明らかです。
あなたの友人カップルが揉めて破局したとします。後日、カップルの彼氏と食事をすることになったとして、彼女を呼ぶことはありませんよね。そこは空気を読んで忖度します。
芸能界でも、円満退社でなかったタレントAを番組に起用すると、Aが元々所属していた事務所のタレントを同じ番組には出演させにくいですよね。こうした忖度を深読みした記者が「粛清」という荒々しい見出しにしているのでしょう。
大物タレントの「共演NG」もテレビ局の忖度

似たケースで「共演NG」もあります。大御所の芸人同士は仲が悪いため、共演しないよう指示を出しているという噂。例えば、ダウンタウンととんねるず。2014年に放送された『笑っていいとも!グランドフィナーレ感謝の超特大号』内で、2組の共演がありました。
お笑いファンにとって伝説的な放送でしたが、とんねるずの石橋貴明さんは2018年3月に放送された『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン』にゲスト出演した際、ダウンタウンとの共演に関して「別に俺らはダウンタウンとどうのこうのあるわけじゃない」と発言しています。
おぎやはぎも今年2月18日に放送された『おぎやはぎのメガネびいき』内で、この件について話しています。
おぎやはぎ曰く、本人たちは一切NGを出しておらず、テレビ局が勝手に気を遣って2組を合わせないようにしていただけと話し、とんねるずとダウンタウン双方に不仲説の真相を尋ねたところどちらも「嫌いじゃない」と話していたとか。テレビ局の忖度であることがわかります。
タレントの独立ラッシュが続くことが予想されますが、今後もこの流れは止まらないでしょう。その先にあるのは、既存の芸能事務所の崩壊なのか。それとも新たな何かが生まれるのか。イチ視聴者として、時代の節目にいることを楽しみたいと思います。
おおたけまさよし
なんでも調べる放送作家
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