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アングル:コロナで出廷困難に、退去強いられる米「賃貸弱者」


[ワシントン 30日 トムソン・ロイター財団] - ロリ・リビングストンさんは昨年5月以来、借家の立ち退き訴訟の審理が開始されるのを待っていた。新型コロナウイルスのパンデミック(感染大流行)によりフィラデルフィアの裁判所が閉鎖されてしまったため、当初の日程は延期になっていた。

だが訴訟手続が再開されたとき、障害を抱える66歳のリビングストンさんは仰天した。裁判所から出廷命令書が届いたのは3月12日の遅い時間で、しかも金曜日だった。審理は翌週月曜日の早い時間に設定され、リモート形式で行われることになっていた。

リビングストンさんは審理の実施から数時間後、トムソン・ロイター財団に対し「1日しか猶予がなかった」と電話で語った。

裁判官と貸主はビデオ会議で審理に参加した。だがリビングストンさんのパソコンに搭載されたカメラは故障しており、携帯電話でビデオ会議に参加する方法も分からなかったので、電話で参加せざるをえなかった。

弁護士に正式に依頼する時間もなく、週末だったため、証拠提出のために使うよう指示された電子書類提出システムも停止していたと彼女は言う。

「発言権を奪われているように感じた。出廷しない方がマシだったのではないか」とリビングストンさんは振り返った。

<賃貸人の発言力は低下>

法律支援をしている関係者によれば、リビングストンさんが直面した問題は、全米各地の立ち退き訴訟の審理で生じているという。裁判所の手続きがオンライン化するなかで、審理プロセスには以前よりも時間がかかり、混乱が生じ、賃借人の発言力はさらに低下している。

カリフォルニア州のベイエリア・リーガル・エイドの専属弁護士であるヒルダ・チャン氏によれば、リモート審理への移行は、必然的に賃借人を不利な立場に追いやっているという。

チャン氏は電話でのインタビューに応じ、「貸主の側はリソースに余裕がある。馴染みの弁護士に簡単に依頼できるし、ノートパソコンもインターネットも使える。貸主にとっては当たり前のことだが、家賃の支払いに苦労する賃借人にとってはそうではない」と語った。

チャン氏によれば、彼女や同僚の弁護士たちのクライアントには携帯電話も持っていない人もいて、唯一の連絡先がソーシャルワーカーという場合も多いという。

「そういう人々が、オンラインの陪審裁判でうまく自分の主張を訴えることなどできるだろうか」とチャン氏は問いかける。

ペンシルベニア第1司法管轄区の広報担当者は、フィラデルフィアの裁判所のコンピューターシステムの一部が週末に機能停止していたことを認めた。

リビングストンさんの訴訟を担当した裁判官は、彼女に立ち退きまで30日の猶予を与えた。だが彼女は法律上の別の選択肢がないか検討している。

住宅都市開発省(HUD)の広報担当者からはコメントを得られなかった。

<米4000万人に立ち退きリスク>

パンデミック下における立ち退き要求は、地方・連邦レベルにおける錯綜した規則・禁止措置の対象になっている。

シンクタンクのアスペン・インスティチュートなど複数のグループの試算によれば、米国内では最大4000万人が立ち退きのリスクに直面しているという。

米疾病対策センター(CDC)は29日、国内の賃借人数百万人を立ち退きから守るための全国レベルでの命令を、6月30日まで延長した。

この立ち退き凍結措置は、物理的な手段による賃貸人の排除をほとんどの場合で違法としているが、立ち退きの申立てと、それに伴う司法上のプロセスを停止するものではない。

米国法曹協会のパトリシア・リー・レフォ代表はメールによるコメントで、「パンデミックによって司法制度は裁判所での審理手法を再考せざるをえなくなり、新たなテクノロジーの利用が加速した」と述べている。

司法制度をリモートで利用できるようになれば、長距離を移動して混み合った裁判所で待たされる必要がなくなり、終焉地に住む人々にとっては福音になるかもしれない、とレフォ代表は言う。

「だが、オンラインでの司法手続につきまとう意図せぬ問題については警戒する必要がある。まず、多くの人は(略)安定したインターネット接続を利用できないという現実が出発点だ」

だが、賃借人の多くは、その段階にさえ到達していない。

ニューヨーク市法律扶助協会で民法改革部門の主任弁護士を務めるジュディス・ゴルディナー氏は、「立ち退き要求の訴訟に対応していない賃借人が4万世帯もある。対応していない以上、欠席裁判となり、執行へと進むことになる」と語る。

「その多くは、この時期、裁判所へのアクセスが困難だという理由からだ」

ニューヨーク市の裁判所はリモートでの出廷が困難な人々向けの電話窓口を用意しているが、ゴルディナー氏によれば、混雑で電話がつながらないことが頻繁にあるという。

「システムが完全に破綻しており、大量の立ち退き執行につながる可能性がある」とゴルディナー氏は言う。

ニューヨーク州統一裁判システムにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

「たとえば公共WiFi回線の設置やデバイスの配布、手続きの変更など、こうした問題に対処するための計画があるようには見えない」と語るのは、ウィスコンシン州マディソンのテナント・リソース・センターで住宅問題担当共同ディレクターを務めるデブラ・プッツォ氏。

「裁判所側でも、電話が切れたり、ズームがうまく使えなかったり、ネットの接続の問題が発生したりする。時には、会話に雑音が入って混乱することもある」

プッツォ氏はメールで取材に応じ、こういった問題は特に、英語が第一言語でない人たちにとって大きな障害となると述べた。また、リモート審理に対応できないという理由のみで立ち退きが決まってしまった人数はわからないとした。

<憲法上の疑義>

法律扶助慈善団体のアークシティ・ディフェンダーズが8月にミズーリ州セントルイスで提出した訴状によれば、立ち退き訴訟をリモート審理で進めることには憲法上の疑問もあるという。

アークシティ・ディフェンダーズの専属弁護士リー・キャンプ氏によれば、退役軍人のエディー・ローガンさんは、ビデオ会議による証拠提出や審理への参加ができず、電話で審理に応じた結果、敗訴したという。

「彼は裁判官や貸主、相手側弁護士の姿を目にすることさえできなかった」とキャンプ氏は言う。

「そうした状況では、自分に不利な証拠を十分に吟味する、相手側当事者に対する反対尋問を行う、自身の態度によって信頼性を裁判所に見極めてもらうといった点で不利になる」

キャンプ氏によれば、最終的にローガンさんの事件はミズーリ州最高裁判所によって逆転勝訴となったが、そのためには複数の弁護士が1カ月にわたってローガンさんを支援しなければならなかった。「一人の個人に公正な裁判を受けてもらうために、膨大なリソースを投じたことになる」

キャンプ氏によれば、合衆国憲法では、何人も完全かつ公正な裁判を経なければ政府によって不動産を接収されないと定めている。「だが、こうしたバーチャルな法廷では、完全かつ公正で有意義な審理を行うことは不可能だ」

とはいえ、それに代わる主な方法、つまり直接顔を合わせての審理にも問題がある。

パンデミック以前、住宅関連の訴訟を行う裁判所は、混雑したカオス状態であるのが常だった、とベイエリア・リーガル・エイドのチャン氏は言う。

「家族連れ、乳幼児から歩行器頼みの高齢者、そして弁護士たちが行き交っていた」と彼女は言い、陪審裁判では、さまざまな世帯から20人もの当事者を何日も続けて法廷に集めなければならなかったと指摘する。

「いま取るべき措置として私たちが本気で考えているのは、立ち退き訴訟をいったん保留し、人が集まっても安全な状況になるまで先送りすることだ」とチャン氏は言う。

(Carey L. Biron記者、翻訳:エァクレーレン)

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