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焦点:サウジ、海外企業の拠点誘致で「アメとムチ」


[ドバイ 29日 ロイター] - 米ハイテク企業CSGは今年、中東地域本社をアラブ首長国連邦(UAE)のドバイからサウジアラビアの首都リヤドに移した。外国企業誘致の取り組みを本格化させたサウジが早々に成果を上げた形だ。その本社移転はCSGにとって驚くほど簡単だった。わずか2カ月で新たなオフィスが始動したのだから。

他にも複数の外国企業が、今年に入って中東地域の統括拠点をリヤドに置くことに合意した。隣国の活気あふれる商業ハブ、ドバイから遠隔で事業を監督する道を選ばなかったのだ。

サウジは2月、政府案件の受注を望む企業に2024年以降、サウジに拠点を置くよう義務付ける「最後通告」を出し、企業の間で経営戦略の見直しが起きている。

ただ、サウジはこうした「ムチ」を振るう一方、投資家誘致のために全面的な経済・社会改革という「アメ」も与え始めている。サウジを生活しやすく働きやすい場所にするとともに、長らく投資を阻んできた煩雑な手続きを減らすのが目的だ。

CSGの欧州・中東・アフリカ部門の責任者、ジェームズ・カービー氏は「サウジ政府がこうした政策を重視していること、実際の行動を伴っていることに非常に勇気づけられる」と言う。「他の企業も当社に続くだろう」

ドバイ空港は、少なくとも新型コロナウイルス流行前の時点で乗降客数が世界最大級に達しており、しゃれたホテルやレストランも備わっている。中東地域のビジネスセンターの地位が揺らぐことはないかもしれない。

しかしサウジはドバイに追いつこうと積極果敢に手を打っている。2月初旬のサウジアラビア国営通信(SPA)の報道によると、海外企業24社がリヤドに中東統括拠点を置く取り決めに調印した。

この中には米飲料のペプシコ、米石油サービス大手シュルンベルジェ、コンサルティング会社デロイト、監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)、カナダのファストフード大手ティム・ホートンズ、米建設・エンジニアリングのベクテル、ドイツの自動車部品大手ロバート・ボッシュ、米医療機器のボストン・サイエンティフィックなどが含まれている。

ロイターの取材に対して、ベクテルはサウジでの地域拠点設置を認めた。PwCはリヤドにコンサルティング事務所があると回答。デロイトは「戦略的パートナー」としてサウジの目標達成を支援する準備ができていると説明。ボッシュはサウジでの事業機会を模索しているとした。SPAが報じた他の企業からは回答がなかった。

<大きな進展>

サウジは実質的な政治指導者であるムハンマド皇太子が進める経済改革の下、世界銀行のビジネス環境ランキングで2019年以降、順位が30ランク上がって62位となった。もっとも16位のUAEとは開きがある。

サウジのファリハ投資相は電子メールで「われわれは近年、重要な改革で大きな進展を成し遂げた。幅広いセクターで100%の外資保有を認めるなど、多くの改革を行った」と述べた。

外国の投資家が認可を得るのに必要な書類は12種類から2種類に減り、取得に掛かる時間も3日から3時間に短縮された。

リヤド市王立委員会は国内メディアの取材に、2030年までに外国企業500社を誘致する計画だと明らかにした。

この目標達成を支えるため、サウジは一連の誘致策を示した。政府系ファンドは、中東湾岸のライバル社と戦える新たな航空会社の立ち上げを目指す。新たなホテルの建設も計画されている。リヤドでは地下鉄が建設中。イスラム教の戒律が厳しいサウジだが、映画館が解禁されるなど社会的な制限も一部が緩和された。

ただ、ライバルであるドバイとの差はまだ大きい。企業幹部によると、職能の高い駐在員やその家族を呼び込むには、何よりインターナショナルスクールを増やす必要があるという。

コンサルティング会社アルカン・パートナーズの共同創設者、アリ・アルサリム氏は「ドバイは一日にして成ったわけではなく、かなりゆっくりと前進してきた。サウジは前代未聞のペースで目標を達成しようとしているが、『急がば回れ』ではないか」と述べた。

<人権問題への懸念>

投資家は他の懸念も持っている。サウジは人権問題を巡り西側諸国から批判を受けている。2018年にはサウジ人記者ジャマル・カショギ氏がトルコのサウジ領事館内で当局者らに殺害され、17年にはサウジの元閣僚や企業幹部が汚職容疑で数週間から数カ月にわたり拘束される事件があった。

豊富な石油資源の上に富を築いてきたサウジは、世界的に化石燃料への依存を減らす動きが広がる中で、投資家誘致や産業多角化への圧力が高まっている。

しかしライス大ベーカー研究所のジム・クレーン主任研究員は、サウジが出した拠点設置の最後通告は、同国の目標達成を助けるよりむしろ妨げるのではないかと指摘。「少し切羽詰まった感じや、専制的な感じを与える」と言う。「こうしたこともあって、企業や経営幹部は進む前にちょっと立ち止まるだろう」

1990年代に近隣のバーレーンから中東地域の拠点としての地位を奪ったドバイは、既にタイトル防衛の用意ができていることを表明済みだ。当局は5年間で航空と船舶のルートを50%増やし、今後20年間で観光業とホテルの収容能力を2倍以上に増やす計画を打ち出している。

ただ、企業誘致合戦がリヤドとドバイの二者択一になるとは限らない。例えばCSGは地域統括拠点をリヤドに移してもドバイ事務所を閉鎖する計画はない。

企業のサウジ事務所設置を支援しているアストロラブズのダニエル・ベートマン氏は「個人的には、企業がドバイの事務所を畳み、サウジに移転してしまうとは思わない。中東地域で二面攻撃作戦を採り、UAEとサウジの両方で強い存在感を示すことになるだろう」と話した。

(Saeed Azhar記者、Davide Barbuscia記者、Hadeel Al Sayegh記者)

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