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独立国家、国家主権など

 石破 茂 です。

 解散を巡って発言が相次ぎ、様々な思惑が交錯して今週の永田町は落ち着かない雰囲気に包まれました。

 10月22日の任期満了という期限が迫る中、今月25日投開票の衆議院北海道第2区、参議院長野選挙区補欠選挙、広島選挙区再選挙、7月の東京都議会議員選挙、8月から9月にかけての東京オリンピック・パラリンピック、9月の自民党総裁任期満了という立て込んだ日程に加えて、新型コロナウイルスの状況が全く見通せない中、解散時期の選択肢の幅は極めて狭いのは誰が考えてもわかることです。

地方を中心としてコロナウイルスの感染が再拡大しつつあり、ワクチン接種が本格的に始まるであろう時期に解散・総選挙を断行することに国民の理解を得るのは困難であろうと思いますが、主権者である国民に選択をお願いすべき案件が生ずれば、これはまた別の話でしょう。

 これまで議論する時間は十分にあったにもかかわらず、議論を先送りして事態が深刻になってしまった課題は数知れません。

 海上保安庁法や自衛隊法に混在する自衛権と警察権の相違点の曖昧さ、集団的自衛権のあり方を定めるための安全保障基本法、日米安全保障体制の非対称的双務性の解消、安定的な皇位継承のあり方、選択的夫婦別姓を可能とする法制等々、主権者に問うべきテーマは数多くあり、解散・総選挙は単なる政権選択だけではなく、具体的な重要政策選択の機会として活かさなければ、あまりに勿体ないと考えております。

 今週数度開催された、自民党国防部会・国土交通部会・安全保障調査会の合同会議において、領海の保全に関する海上保安庁と自衛隊の役割と権限についての議論が交わされ、政府に対する提言という形で一応のとりまとめが行われました。

 かつて衆議院運輸委員長を務めていた平成11年に能登半島沖不審船事案が発生してから20年あまり、自衛権の行使として武力の行使が認められる「急迫不正の武力攻撃」とまでは評価されないような態様によって我が国の領域が侵害された場合(いわゆるグレーゾーン事態)に対して、いかなる機関が、いかなる権限によって、どのように対処すべきか、現状を大幅に変更することのないままに今日まで来てしまい、これまで行政機関である国務院の中に位置づけられていた中国の「海警」が人民解放軍の傘下に入るという新たな事態に直面することとなりました。

 今回の議論の中で、海上保安庁が「領海の平穏は海上保安庁が断固として守っており、これからもそれは変わらない」「海上保安庁は中国海警を船舶数・装備・技量・士気などすべての面で凌駕している」「『海上保安庁法のいかなる規定も海上保安庁またはその職員が軍隊として組織され、訓練され、または軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない』という海上保安庁法第25条の規定は我々の誇りであり、精神そのものである」として、いかなる法改正も全く不要であると熱情を込めて主張される様(さま)には大きな衝撃を受けました。

 私は海上保安庁の職員諸官の使命感や熱情、日々のたゆまぬ努力や献身を毫も疑うものではありませんし、装備や人員の強化にも全面的に賛成です。しかし、占領下の昭和23年に制定された海上保安庁法の第25条は、彼らが精神的な拠り所とする「国家主権をあくまで警察権で守る」ことを定めたものではなく、「日本に再軍備をさせない」との当時のGHQの意向を反映させたものですし、実際に領海の保全を彼らが任務としてやっているのであれば、それを法律に明記するのは法治国家として当然のことではないのでしょうか。

 今回の海上保安庁の主張には、「軍隊(自衛隊)は戦争をする組織、警察は平和を守る組織」といった根強い反軍的な考えと、文民統制に対する強い不信が垣間見られたように思われました。もしそうだとすれば、あくまで警察権の行使である自衛隊法の海上警備行動をどう考えているのか疑問に思いますし、海上保安庁で対処できなくなったらいきなり防衛出動、ということを予定しているのかという点も疑問です。

 なぜなら自衛隊法には、治安出動の規定もあるからです。どの段階においても、詳細な検討とそれに基づく実際の訓練が必要です。

 当選2回の頃、小室直樹博士と色摩力夫元駐チリ大使の共著「国民のための戦争と平和の法」(総合法令・平成5年)に接しました。湾岸戦争を契機として日本の国際「貢献」のあり方が問われ、宮澤政権が「文民警察官」として警察官をカンボジアに派遣し、2人が犠牲となられた当時のことでした。独立国家とは何か、国家主権とは何かを突き詰めて考えない国は、やがてその報いを受けることになるのであり、私はそれを何より怖れています。

 昨1日に党本部で開催された自民党政治大学院主催の「まなびと夜間塾」では、猪瀬直樹氏を講師に迎えて「昭和16年夏の敗戦 日本人はなぜ戦争をしたか」をテーマとした有意義な講演と質疑応答が展開されました。同名の著書(中公文庫)をまだお読みでない方には、ご一読をお勧めいたします。

「正確な数字が、隠蔽・改竄・破棄などされずに提供され、それを優れた者が優れた能力で分析すれば、正しい結論が得られる」「責任ある立場の者が、己の保身や自分の所属する組織の利益を公の利益に優先させれば、国は必ず誤り、無辜の民が多く犠牲となる」ということをこれほど明らかに描いた書を私は知りません。感情に流れることなく、淡々と、しかし論理明晰に描くところが猪瀬作品の素晴らしいところだと思っています。

 さる27日、鳥取市で開催された鳥取宇宙産業創出シンポジウムに参加してきましたが、これも中々に興味深いものでした。

「砂の組成や傾斜が月面に似ている鳥取砂丘は月面車の走行試験に好適である」「地球から月まで1キログラムの資材を運ぶには1億円かかるが、組成が月の砂に似ている鳥取砂丘の砂を固める技術を応用すれば、月の砂で建築資材を安く賄うことが出来る」等々、理科系に全く疎い私には驚きの連続でした。

 昼間は110℃、夜間は-170℃という過酷な環境で、隕石も放射線も紫外線も直接に降ってくる月などにはとても住めないと思っていたのですが、日本の衛星「かぐや」が発見した月にある長い洞窟を利用すれば人が住むことも可能だそうです。

 生きている間に見ることはないのでしょうが、子供の頃に読んだ「21エモン」(藤子不二雄作・少年サンデー連載)の中の、月に旅行した主人公が「ごらん、地球の出だよ」と隣の人に語りかける場面を鮮烈に覚えています。地球の直径は月の四倍ほどなので、月から見られる「月の出」ならぬ「地球の出」はさぞ圧巻なのでしょうね。久々に日常を忘れるひとときでした。

 前回、まだ書店の店頭に並んでいない本をご紹介してしまい、大変失礼致しました。その本をテーマとしたディスカッションに参加するために事前に提供されたり、取材に協力した御礼や著者の依頼によって出版元から送られてきたりする場合があります。政治家の特権でも何でもありませんので、悪しからずご承知ください。

 今週の都心は桜が既に満開を過ぎ、花吹雪が舞いました。あと何回桜が見られるのか、そのような思いを持ちながら見たことでした。

 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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