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「死にたいと思うと、安心する」チャット悩み相談に寄せられる10代の逃げ場のない孤独

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親からのプレッシャー、DV、友人関係の悩み……。コロナ禍の外出自粛により、家庭にいる時間が増え、周囲との付き合いが疎遠になったことで、「望まない孤独」を感じる子供が増えている。自らが救われた経験をもとに慶大生が開設した「チャット相談」に集まる悩みとは。そして、子供の悩みに寄り添う傾聴の仕方とは――。

※本稿は『プレジデントファミリー2021年春号』の記事の一部を再編集したものです。

親の思い込みが子供をさらに苦しめる

「生きる意味がわからない」
「消えたい」
「死にたい」

同級生らが昨秋から就職内定を決める中、大空は卒業後に就職せず、NPO事業へ専念すると決心した。
慶應義塾大学3年生の大空幸星さん(撮影=黒坂明美)

翌日から学校や会社が始まる日曜の夜は10代、20代からのそんな悩み相談が多い。NPO法人「あなたのいばしょ」理事長で、慶應義塾大学3年生の大空幸星(こうき)(22)はそう話す。

2020年3月、大空はチャット相談サイト「あなたのいばしょ」を、友人と2人で開設。チャットとは、ネットで交わす文字での会話のことだ。

長引くコロナ禍で増えている相談中、10代から寄せられるものは親とのトラブルと、勉強やいじめ関連、友人関係の悩みが多い。

苦境にある子供をさらに追いつめがちなのが、多くの親が陥りやすい「子供のことは自分がいちばんよくわかっている」という誤解、と大空は指摘する。そのせいで問題の発見が遅れる危険性があるのだ。

「たとえば、いじめ問題に悩んでいる子は親には絶対言いません。子供なりのプライドもあれば、親を心配させたくないという優しさもあるためです。また、親の『自分の子供は優等生だから大丈夫』という楽観論も的外れ。優等生は優秀な成績を維持しなくてはいけない、というプレッシャーを感じています。だから成績が少しでも落ちると、不安になりやすい。むしろ優等生ほど、平均的な同級生以上に狭くて、崩れやすい場所にいることを、親はもっと認識しておくべきでしょうね」(大空)

コロナ禍による外出自粛によって、親から暴力や虐待を受けている子もいる。コロナ禍の長期化で、10代や20代の子を持つ親世代も、時短営業や雇用不安にさらされているためだ。子供たちは学校やアルバイト先、カラオケやネットカフェにも行けない場合がある。結果、悩む彼ら彼女らは自宅以外の逃げ場を失い、精神的にかなり追いつめられているという。

「子供に過干渉ぎみの受験ママや、パパからのプレッシャーに苦しんでいる子たちも多いですね。また、生真面目な子ほど、親からの期待に応えられず、成果が出せないことに人一倍責任を感じ、『親にも先生にも申し訳ない。自分が情けないから死にたい』と漏らす子もいます」

慶大生の彼がかつて自傷行為に及んだ理由

大空自身、小学生時代に両親が離婚してから、さまざまな悩みを抱えて一人で苦しんできた。

「離婚後は父親との生活になじめず、中学進学後は、再婚した母親の下で暮らしたりしましたが、留守がちな母親とは口論が絶えませんでした。結果、自傷行為を繰り返し、『死にたい』と思うほど精神的に追い込まれたこともあります」

大空を救ってくれたのは、当時通っていた私立高校の担任教師。大空が自殺をほのめかすメールを深夜に送ると、翌朝心配して自宅に駆けつけてくれて、大空は心底救われた気がしたという。当時の自分の状態を、彼は「望まない孤独」と呼ぶ。

「当時の自分みたいな人が、コロナ禍で増えているという現実が、僕には耐えられない。それは怒りにも近い感情で、若者に限らず、『望まない孤独』に苦しめられている人たちを、一日でも早くなくしたいんです」

大空が始めたチャット相談は、24時間365日対応で、年齢や性別は不問。誰でも無料、匿名でも利用可。同サイトの相談フォームに悩みの内容を記入して待つと、相談員と1回40分を目安にチャットできる。

20年3月から同年末までに、悩みを寄せた相談者数は約2万8000人。相談依頼に相談員が回答できた返答率は約6割。一般的な悩みの電話相談よりも断然高い。チャットに着目した大空の狙いは的確だった。

「普段からスマホやパソコンでのチャットになじみがある一方で、電話は心理的なハードルが高いと感じる若者世代にこそ、気軽に相談してほしかったんです」

20年10月時点では約400人だったボランティア相談員は、21年1月上旬時点で研修生も含め約900人に増員。10代、20代からの相談比率が高いが、全体を見ると未就学児から70代まで、裾野は広い。

相談員のチャットは傾聴が基本。途中で口をはさまず、相手の話を全部聞くことが前提だ。傾聴には、受容・共感・肯定・承認の4要件がある。相談員の意見を押し付けたり、アドバイスしたりすることは禁止。

さまざまな悩みに相談員たちはどう向き合い、どんなチャットを重ねて、相談者を支えているのか。3人の母親相談員に話を聞いてみた。

「死にたい。遺書はもう書きました」とくに10代に多い希死念慮

「死にたい。遺書はもう書きました。楽になりたいです」

中学1年生の男子からの書き込みを見て、ボランティア相談員の高山奈々子(41)は、ためらわずに対応することに決めた。まず「今日は来て下さって、ありがとうございます」とキーボードに打ち込む。相手も初めてで不安だろうから、丁寧に寄り添う気持ちを伝えるためだ。

『プレジデントファミリー2021年春号』
『プレジデントファミリー2021年春号』

「『死にたい』と書いてくる10代には、自分からは話したがらない子もいます。ですから慎重に、基本的な情報収集から始めます。まずは体調や睡眠状況、学校や家庭生活について順番に聞いていきます」(高山)

学校生活について尋ねていると、彼からこんな返事がきた。

「学校では、友達と話していると楽しいんですが、そのほかは空元気を出して頑張っている感じです」

率直な気持ちを聞けたので、高山は「友達と話すのは楽しいけど、それ以外は自然体ではいられないんですね?」と、相手の言葉を反復しながらも、彼の「空元気」を、「自然体ではいられない」と言い換えてみせた。傾聴での「受容」だ。彼の言葉をオウム返しにせず、あえて言い換えるのは、話をきちんと聞いていると伝えるためだ。

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