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  • 2021年04月01日 09:29 (配信日時 04月01日 06:02)

マンハッタンで白昼、アジア人を足蹴り、米社会に衝撃与えたヘイトクライム - 佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

コロナ禍に終息の兆しが見えず、世界各地でアジア系住民人に対するヘイトクライムが急増している中、ニューヨークのマンハッタンの中心部で3月29日、フィリピン系米市民が黒人の男に酷い暴行を受ける事件が発生した。現場前のビルの中には警備員らがいたが、全く助けようとしなかったばかりか、入り口のドアを閉める始末。その冷たい対応に米社会に衝撃が広がっている。

(Wachiwit/gettyimages)

相次ぐアジア人への暴力

ニューヨーク警察が公表した動画や発表内容などによると、事件が起きたのはタイムズスクエア近くの西43丁目の歩道だ。歩いていた女性(65)の腹部を前から来た大柄な黒人の男がいきなり蹴った。女性が歩道に倒れると、今度はその頭部を思い切り3度蹴った。男は暴行中、「くそったれ、ここはお前がいるところではない」などと差別的な発言を繰り返した。

男はそのまま歩いて立ち去り、女性は病院に運ばれ、入院した。米社会がショックを受けたのは暴行自体もさることながら、現場の前の豪華なマンションの入り口ホールにいた3人の男たちが暴行を止めようとしたり、女性を助けようとするなどの行動を一切起こさなかったことだ。そればかりか、女性が倒れて苦しんでいるのを尻目に、マンション入り口のドアを閉め、知らぬふりを決め込んだことだ。関わりを避けたと見られている。

3人のうち2人はマンションビルの警備員で、ドアを閉めたのも警備員の1人だった。女性は数十年前にフィリピンから来た移民だという。警察は動画を公開し、逃げた男の行方を追っている。ニューヨーク市警のアジア人ヘイトクライム(憎悪犯罪)対策チームは警備員らが暴行を止めようとせず、入り口ドアを閉めたことを厳しく批判した。

事件の後、ニューヨークのブラシオ市長は「恥ずべき暴挙」と、クオモ・ニューヨーク州知事も「恐ろしく野蛮な行為」と非難。バイデン大統領は、「アジア系米国人に対する高まる暴力を看過することはできない。こうした行動は米国的ではなく、止められなければならない」とツイートした。マンションビルの警備会社はドアを閉めた警備員らを停職処分にする措置を取った。

ニューヨークでは最近、アジア系住民に対する憎悪犯罪が相次いでいた。例えば、地下鉄の駅でアジア系の女性が背負っていたバックパックに火を付けられる事件も発生。また地下鉄車内でアジア系の男性が殴られ、唾を吐きかけられる事件も起きており、邦人も含めアジア系住民の間に懸念が高まっていた。警察はアジア系の居住地域に覆面捜査員を配置するなど対応を取っているが、沈静化する気配はない。

ニューヨークでは8倍に急増

ニューヨーク・タイムズがカリフォルニア州立大学の憎悪犯罪調査などの結果として報じたところによると、全米の16の大都市では2020年、前年と比べてアジア系住民に対するヘイトクライムが約2.5倍に増えた。特にニューヨークでは、8倍以上の28件に急増した。今年はすでに30件を上回っており、さらに増える見通し。

全米でアジア系住民に対する憎悪犯罪が増えている理由について、民主党や識者の多くはトランプ前大統領が再三、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んで中国非難の道具に使ったことを挙げている。人々はウイルスの感染や、行動制限、失職などに対する不満のはけ口を「中国ウイルス」というレッテルに求めたとも指摘されている。

欧米の人々には中国人も 日本人も区別がつかない。結果としてアジア人全体への差別や憎悪犯罪につながっている可能性が取り沙汰されている。バイデン大統領は16日に南部ジョージア州アトランタの銃撃事件でアジア系女性6人が犠牲になった後、ハリス副大統領とともに現地入りし、「沈黙することは共犯」などとしてアジア系への人種差別や偏見の高まりに危機感を表明してきた。

大統領はマンハッタンでのフィリピン系女性に対する暴力事件の後、暴力被害の申告を容易にして事案を幅広く把握し、連邦捜査局(FBI)を通じて全米の警察官の憎悪犯罪に対する意識を高めることなどを柱とする新たな取り組みを発表した。また司法省も向こう1カ月かけ、アジア系住民に対する暴力をどう抑止していくか、具体策を検討することになった。

だが、こうした憎悪犯罪を撲滅することは極めて難しい。アジア系に対する嫌がらせや暴力行為が「黒人の命も大切だ」という差別撤廃運動を掲げる黒人からの事案も多いことがその難しさを物語っている。しかも、米国だけではなく、欧州や中東などでもアジア系に対する差別や偏見が広がっている。フランス政府はアジア系住民への差別や憎悪がかつてなく強まっていると警告しているが、「アジア人狩り」などという物騒な言葉がネット上などで飛び交っており、現地の邦人らにとっては警戒と我慢の日々が続く。

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