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3回目の結末を迎えた『エヴァンゲリオン』 今だからこそ描かれた「描きたいもの」と「描かなくてはならないもの」 - 藤津 亮太

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 3月8日、『新劇場版』シリーズ完結編である『シン・エヴァンゲリオン劇場版』がついに全国公開された。コロナ禍の影響での延期を乗り越え、平日、しかも月曜日という公開日にも関わらず、初日興収8億円を記録。その後も公開21日間で興行収入60億を突破し、早くも前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年公開)の最終興収約53億円を超えるシリーズ最高記録となっている。

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シン・エヴァンゲリオン公式HPより

 テレビシリーズ、その劇場版に続き3回目の結末を迎えた『エヴァンゲリオン』。本作について、アニメ評論家の藤津亮太氏が語った(本文では劇中の内容に触れています。ご注意ください)。

◆◆◆

 映画監督の黒沢清は、「世間が思ういわゆる“映画”」について、「『見せる』スペクタクルと『感銘させる』人間ドラマ」の融合である、と結論づけている(『映画はおそろしい』所収の「人間なんかこわくない」)。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以下『シン・エヴァ』)を見てまず思い出したのは、黒沢が記したこの「『見せる』スペクタクルと『感銘させる』人間ドラマ」という2つの要素で考える視点だった。

『エヴァンゲリオン』シリーズの2本柱と「人類補完計画」

 というのも、私見を記すなら、『エヴァンゲリオン』シリーズは、「スケールの大きなビジュアル」と「個人のアイデンティティをめぐる内的葛藤」という両極端な要素を2本柱として出来上がっている作品と受け止めているからだ。

 庵野秀明総監督は黒沢ほど“映画”というものに縛られていない演出家ではあるが、この『エヴァンゲリオン』シリーズの2本柱は、黒沢の指摘する「『見せる』スペクタクルと『感銘させる』人間ドラマ」と、偶然にもしっかり対応している。そして、このスペクタクルとドラマを絶妙にリンクさせる仕掛けとして、物語を牽引してきた「人類補完計画」が大きな役割を果たしている……。このような視点で、『エヴァンゲリオン』シリーズを見ると、観客として様々な発見があるように思う。

 黒沢の文章はその「見せるスペクタクル」を取り上げて、こんなふうに続く。

「が、スペクタクルには基本的に金が掛かり、テレビジョンの出現以降、急速に困難の度合いを増す。だからこれに替わっていろいろなウリが試された。例えばセンス。確かに、時として抜群のセンスはどんなスペクタクルよりも『見せる』ことがある」

 アニメもスペクタクルを描くにはそれなりのリソースが必要となる。おいそれとできるものではない。その点、1995年に始まった『新世紀エヴァンゲリオン』は、テレビシリーズという予算的制約の中で、スペクタクルを正面から描くシーンはなるべく絞り、むしろ「抜群のセンス」で見せていくことに注力した作品だったといえるだろう。

 それがいちばんわかりやすく示されたのがタイポグラフィーで見せる演出だったし、それ以外にもかっこよく決まったレイアウトの止め絵や、それらをシャープな印象で見せる編集などが、「抜群のセンス」で『エヴァ』を支えていた。

 よく知られている通り『エヴァ』は各話の平均作画枚数3500枚という予算的縛りの中で制作されていた。そういった外的要因を考慮に入れた上で第六話「決戦、第3新東京市」での使徒との戦闘は、止め絵を多く使うことのできる内容として設計されており、そこでは「スペクタクル」が「抜群のセンス」により、それとはわからない形でローカロリーな手法で表現されていたのである。

『新劇場版』シリーズで起こった大きな変化

 2007年から始まった『新劇場版』シリーズを見たとき、この「抜群のセンス」で見せるスタイルは大きく変わった印象を受けた。

 それでもまだ、第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、第2作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』はTVシリーズのリビルドという側面も大きく、「見せるスペクタクル」に力が入っても「劇場版らしいスケールアップ」という印象がまず先に立つ程度のものだった。

これが第3作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』になり、『:破』のラストで起きたカタストロフから14年後の世界が舞台となった瞬間から、見たことのない新たなビジュアルが「見せるスペクタクル」として「抜群のセンス」のもとに展開されることになった。『シン・エヴァ』では、それがさらに徹底されている。

 例えば、冒頭のパリ上空で展開されるのは、上空からワイヤーで“操演”されている無人戦艦とエヴァ8号機による空中戦だ。“操演”による空中戦という(一部の)観客の映像の記憶を呼び起こす要素はあるものの、記憶のそれとはまったく異なる、新たなアクション映像がそこには作り上げられている。

 ここでは「抜群のセンス」が「見せるスペクタクル」の代替品となってはいない。センスとスペクタクルが完全に融合することで、新しくかつ圧倒的なビジュアルイメージが提示されているのである。しかも『シン・エヴァ』のスペクタクルの中心にあるのは、“蕩尽”としかいいようのない大破壊で、画面を埋め尽くす大量の事物が、片っ端から爆発四散していくタイプのものだ。そこにはフィクションにしか許されない官能性の追求がある。

 こうした映像が実現できたのは、3DCG技術の深化と習熟によって支えられている部分も大きいだろう。だが、それよりもさらに重要なのは、この「センス」と「スペクタクル」の融合は、『エヴァンゲリオン』シリーズが、「よりおもしろい」「よりかっこいい」映像を目指す意思(意思とは、ドイツ語で「ヴィレ」である)の産物であることの証になっているという点だと思う(『シン・エヴァ』はヴァーチャルカメラによる実写感覚、あるいは特撮感覚をアニメに導入することが試みられているそうで、今後メイキングなどで詳細が明らかになることを待ちたい)。

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