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  • ロイター
  • 2021年03月30日 11:36 (配信日時 03月30日 14:37)

焦点:コロナで溢れるマネー、「低成長バブル」で際立つ日本の二極化


中川泉 杉山健太郎

[東京 30日 ロイター] - 新型コロナウイルス渦中に各国が競うように供給した「緩和マネー」が、株や暗号資産(仮想通貨)などの高騰を通じ、世界的に富裕層の懐を膨らませている。日本では1億円以上の別荘が短期間で完売し、高級ブランド時計が市場から姿を消す異常な事象が起きている。日本中が沸いた1980年代のバブル景気と異なり、低成長時代に溢れるマネーは通貨価値の下落と資産の膨張を同時に引き起こし、「持てる者」と「持たざる者」の格差を一層際立たせている。

<ロレックスが中古市場で新品の3倍>

東京都内で会社を経営する41歳のTDさん(インターネット上のハンドルネーム。本名は本人の申し出で掲載せず)は昨年8月、資産1億円の一部でアルトコイン(ビットコインを除く暗号資産の総称)を購入した。その後に相場が大きく上昇、コインを貸し出すことで得られる「金利収入」が転がり込むなどし、TDさんが投資した3000万円は5億円まで膨らんだ。

仮想通貨ビットコインの名称が一般的な認知を得て、2017年に最初の暗号資産バブルが起きてから約4年。「仮想通貨市場は再びバブルが来ている」と、TDさんは言う。ビットコインの価格はこの半年間で8倍に跳ね上がった。

背景にあるのが、コロナの感染拡大で落ち込む景気や下支えしようと、各国が次々と打ち出した財政支援と一段の金融緩和だ。米国では今後給付される分を含め、3回にわたって1人あたり最大3000ドルを超える給付金を実施。日本では10万円の定額給付金以外に、売上が減った個人事業主に休業支援金や無利子無担保融資など財政資金が供給されてきた。

09年のリーマン危機以降に供給されてきた「緩和マネー」がコロナの経済対策でささらに増え、カネの価値が一段と下落。そのヘッジとして、暗号資産や現物資産に資金が流れ込んでいる。

「コロナ禍による家計や企業支援策として各国政府がかつてない規模でマネー給付を実施したことから、法定通貨の価値が下落している」と、オークション事業などを手掛けるShinwa Wise Holdingsの倉田陽一郎社長は言う。「資産を防衛するため、マネーを実物資産へシフトさせている」と指摘。オークションでは美術品をはじめ、希少性の高いブランドウイスキーなどにも人気が出てきているという。

象徴的なのが、高級腕時計のロレックス。人気モデルは新品が手に入らず、転売目的が多い中古市場で定価の2ー3倍に当たる300万ー400万円で取引されている。日本ロレックスによると、世界中で人気モデルの引き合いが強く、商品の提供が需要に追い付かないという。

高級別荘地として知られる長野県の旧軽井沢地区では、昨年秋に東急リゾートが売り出した「億ション」が半年ほどで完売した。建物はもちろん、モデルルームさえまだ存在しなかったが、広さ90ー185平方メートル、1億─2.5億円程度の物件は抽選になるほどの人気を集めた。

実体経済からかい離し、株や不動産、その他の現物資産が膨張する光景は、30年前に日本が経験したバブル景気と重なる。当時は円高不況を乗り切るための金融緩和マネーが投資や投機に回り、日経平均株価は4万円に迫った。今回も株価はそのとき以来となる3万円台に乗せ、当時の水準を回復しつつある。

<富裕層は濡れてに粟で格差拡大>

しかし、30年前のバブル期と今とでは大きく異なる点がある。1986年から91年の実質成長率は年5%を超え、日本中が好景気に沸いた。一方、戦後2番目に長い景気拡大を記録した2012年から18年の成長率は年1%強。コロナが直撃した20年は4.8%のマイナス成長となった。低成長の中で資産価格だけが膨らみ、限られた「持てる者」だけが恩恵を受けている。

「89年ごろのバブルは日本経済がまだ成長していた。今は人口が減少している中でお札だけ増えている。過剰流動性相場だ」と、前出の倉田社長は話す。

日銀の資金循環統計を見ると、昨年12月末の家計の金融資産残高は1948兆円と過去最高を大きく更新。野村総合研究所によると、資産1億円以上の富裕層の純金融資産(金融資産から負債を差し引いたもの)は19年に333兆円と全体の2割を占め、17年から11%増加した。一方、全体の8割を占める3000万円未満は17年より世帯数が増える一方で、純金融資産は減少した。リーマン危機後から続く過剰流動性で、コロナ前から格差は拡大していた。

同総研コンサルティング事業本部の宮本弘之・パートナーは、コロナ禍にさらされた20年は富裕層の金融資産が一段と増えていると指摘する。その上で、「過去のバブル期には国民の多くが同じような方向を向いていたが、今はそうではない。差が開いている。明暗はバブルの最中にあってもすでに生じている」と話す。 コロナの感染拡大で休業や失業を余儀なくされた業界の従事者たちを中心に、多くの人にとって資産バブルは縁遠い話だ。東京足立区では、生活資金の相談件数が昨年末に前年比で3割増にのぼり、同区のハローワークでは失業給付申請件数が今年1月に3割増えた。日本最大のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」によると、個人向けの無償提供件数はコロナ前の2倍以上に増加した。

日銀内からも、金融緩和の長期化が所得の再分配に何らかの影響を及ぼすことは排除できないとの声が聞かれる。一方で、金融緩和がなければ景気がより悪化していた可能性があるとして、プラスマイナス差し引きで考えないと公平な評価にならないとの反論の声もある。

コロナの経済対策として財政支援を進めてきた財務省の関係者は、「コロナ禍でふたを空けてみたら格差が拡大しているのではないか、持てるものと持たざるもの差が広がっているのではないか、それは日本だけでなく世界的のもの、という指摘はある」と話す。「その中で困った人に手を差し伸べる、ということをやっている。給付金にしてもある程度そういう趣旨はあると思う」と語る。

アルトコインで元手が16倍に増えた冒頭のTDさんは最近、デジタル資産の一種である「NFT(非代替性トークン)」を購入した。TDさんは、ITへの関心と知識次第で、これからも資産格差が広がる時代になると話す。

第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミストは、世界の中央銀行が供給するマネーによる資産効果や景気刺激は今後も過剰気味に継続するとみる。「それをうまく利用できる人達は濡れ手で粟(あわ)、利用できない人々は副作用だけを被ることになる」と語る。

*中見出しの改行を修正ました。

(中川泉 杉山健太郎 編集:久保信博)

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