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  • 2021年03月30日 15:43 (配信日時 03月30日 06:00)

日本に対中圧力を要請か?バイデン大統領、北朝鮮制裁で - 樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)

 アメリカの対話呼びかけに対し北朝鮮は弾道ミサイルの発射実験で応え、朝鮮半島情勢は再び緊迫化の気配を見せ始めた。

 バイデン大統領は強く非難、この問題は、来月に予定されている日米首脳会談の主要な議題に浮上してきた。

(Gerasimov174/gettyimages)

 現在、バイデン政権の北朝鮮政策の見直しが大詰めを迎えており、そのポイントは制裁の実効性確保と、そのための同盟国との協力拡大といわれ、首脳会談でアメリカは、制裁に非協力的な中国などに対する圧力強化を日本に求めてくる可能性が指摘されている。日本は中国に強い態度をとることができるのか。アメリカとの狭間で苦しい状況に追い込まれる恐れもある。

石油禁輸など数度にわたる制裁

 北朝鮮に対しては、これまで核実験や弾道ミサイル発射が強行されるたびに日米はじめ各国がそれぞれ独自に、または国連決議に基づいて制裁を科してきた。核、ミサイル関連物資の禁輸、北朝鮮の企業、個人の国内資産凍結などきびしい内容であり、北朝鮮経済に大きな打撃になっていた。

 2017年8月と11月の制裁では、石炭、鉄鉱石などの北朝鮮からの輸入、合弁、共同企業体、北朝鮮労働者の雇用などが禁止され、石油精製品の輸出は年間50万バレルを上限とされた。

〝瀬取り〟の制裁破り横行

 しかし、制裁の実施状況を監視する国連委員会の報告によると、制裁は頻繁に無視され、2020年1-9月に400回、250万トンに上る石炭が北から中国に輸出された。

 大半が海上で荷を積み替える〝瀬取り〟という手口で、協力しているのは中露とくに中国とみられ、委員会報告は中国東部、浙江省近海に北朝鮮、中国双方の船舶が集結している写真を〝証拠〟として添えている。

 米国などが2019年6月に制裁委員会に提出した報告でも、北朝鮮は同様の手段で、前年の18年1年だけで制限の7倍にものぼる350万バレルの石油精製品を輸入した。

 中国国内には6万人もの北朝鮮出稼ぎ者がなおとどまり、本国に外貨を送金している実態も明らかになっている。

米国はこうした不法行為によって制裁の効果が失われ、輸出された石油製品などが核、ミサイル開発に転用されていることに懸念、いら立ちを強めている。米国内の強硬論者の間では中国も制裁対象に含めるべきだという議論が台頭している。

 日米首脳会談で、バイデン大統領が日本に対して、どのような具体的な要請をしてくるか明らかではない。

 制裁には瀬取りの船舶に対する拿捕、臨検などが盛り込まれているため、この実施を強く求めてくることも予想されるが、実際に日本がそうした強硬手段をとれば、中国の強い反発は必至で、日中関係は再び悪化する。

 加えて、日本のどの機関が担うのかという問題もある。海上保安庁だけでは人員、装備の面から難しい可能性もあり、不測の事態が起きた場合、対応しきれない恐れも生じる。

 菅首相はバイデン大統領にとって、就任後はじめて迎える外国首脳であり、3月のブリンケン国務長官、オースティン国防長官の初外遊先は日本であったことから、日本政府は一連の米国の対応を「日本重視」と歓迎している。

 バイデン大統領の就任直後の1月に行われた菅首相との初めての電話協議の際、大統領自ら、日米安保条約が尖閣諸島にも適用されるとの言明、日本側から歓迎された。

 それらの〝見返り〟の形で、首脳会談の場で、中国への圧力への協力を要請されるたなら、日本としては言葉を濁してあいまいな態度をとることはできない。菅首相はいまから、答えを用意しておく必要があるだろう。

米単独では対抗できず?

 1月のバイデン大統領の就任演説、2月に国務省で行った演説をみると、外交政策において、中国への強い警戒感を念頭に日韓両国など同盟国との関係を強化しようとしているのは明らかだ。

 しかし日韓両国と同様に重要な存在として欧州がある。トランプ政権時代に極度に悪化した関係の改善を急ぐことは、対ロシア政策を進めるうえでも急務だ。

 ブリンケン国務長官が日本からの帰途、アラスカで中国の楊潔篪政治局委員、王毅国務委員兼外相と会談した後、ブリュッセルに向かいNATO(北大西洋条約機構)との協議に臨んだことを考えれば明らかだろう。

 加えて猛威を振るっているコロナ問題への対応がある。経済立て直しなど内政上の重要課題が目白押しであるため、米国が北朝鮮問題だけに力を注ぐことは非現実的だ。同盟国の日本、韓国に、より重要な役割を果たしてほしいと考えるの当然だろう。

思い起こすのは、2002年、北朝鮮の核開発再開が明らかになった〝第2次核危機〟の際の6カ国協議だ。

 米国は当時、イラク攻撃を控えて北朝鮮問題へ取り組む余裕がなかった。当時のブッシュ政権は、北朝鮮との関係が良好な中国に6カ国協議の議長を委ね、その影響力による核問題の解決をはかった。

 こうした経緯を念頭に、バイデン政権は、6カ国協議における中国と同様の役割を日韓両国に期待しているのかもしれない。それだけに、日本にとっては、対応を誤り米国の失望を招いて日米同盟全体へ悪影響をもたらす事態は避けなければならない。

就任直後に警告したバイデン大統領

 2019年2月、ハノイでの米朝首脳会談が決裂に終わって以来、表面上大きな動きは見えなかった。

 しかし、北朝鮮は3月25日に短距離弾道ミサイルを日本海に向けて発射、これに先立つ21日には通常ミサイルの実験を強行した。バイデン米大統領は25日に行った就任後初の記者会見で、「あらたな挑発に対しては相応の対応をとる」と警告した。そのうえで、同盟国との協議を続けていることを明らかにした。

 北朝鮮がこの時期に、発射実験を行ったことについては、さまざまな憶測がなされているが、やはり3月に行われた米韓合同軍事演習への〝報復〟とみるのが自然だろう。

 バイデン大統領は、「相応の対応」に言及したが、具体的な内容には言及を避けた。「外交的な形式をとることもありうる」とも述べ、北の拒否にもかかわらず、対話を再開する可能性も示唆した。

 大統領の意図は、国連安全保障理事会であらたな制裁を検討する一方、外交交渉を継続したいとの方針とみられる。

 議題が「非核化」だけなら、北朝鮮は決して対話に応じてこない。米国側は、制裁緩和の条件など前向きな〝鼻薬〟を用意しながら先方の出方を忍耐強く待たなければならないだろう。

 トランプー金正恩両氏による握手が期待を高めた時期は終わった。北朝鮮の核開発問題は、地道な外交努力が必要とされる時代に戻ったようだ。

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