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アマゾンがシアトル本社以外の拠点に巨額投資をする本当の意味

世界各国で“オフィスの形態”に異変が

新型コロナウイルスの感染が発生したことを境に、世界各国で“新しいオフィスの形態”を目指す企業が増えている。その背景には、複数の要因がある。まず、感染対策のために、オフィスに人が集まって仕事をすることは難しくなった。また、在宅勤務をはじめテレワークが増えた結果、多くの企業でオフィスの余剰感が出た。

2019年6月、ラスベガスのAmazonフルフィルメントセンター※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

その中でも、テレワークの実施によって個人の実力が確認されたことは見逃せない。ある企業経営者は、「感染対策としてテレワークを導入した結果、誰が事業運営に欠かせないかがはっきりした。個人の能力の向上に加え、実力ある人材の活躍を支えるオフィスの形態を急いで整えなければならない」と危機感を口にしていた。

逆に言えば、テレワークによって、自分に合った働き方(生き方)に気づいた人は多いだろう。海外では、テレワークとオフィス勤務のよりよい結合を目指して、分散型のオフィス形態(従来の本社オフィスなどに加えて、比較的小型のオフィスを複数設けること)を拡充し、より良い就業環境を整備して人材確保を目指す企業が増えている。そうした環境の変化がわが国企業に与える影響は軽視できない。

「都心のオフィス→郊外の自宅」はもう古い

コロナ禍の中で、世界全体でオフィスの形態が、集約型から分散型へと加速度的にシフトしている。

コロナ禍が発生する以前、国内外の企業の多くが集約型のオフィス形態を重視した。企業は、都心やまちの中心地に建てられたビルにオフィスを構えた。毎朝、人々はオフィスに出社(通勤)してデスクに座って業務を行う。すぐ横や前のデスクには、同僚が座って業務に取り組んでいる。チーム内の業務連絡や打ち合わせを行う場合は、会議室に全員で移動する。勤務時間が終わるとまちの中心にあるオフィスから、郊外の自宅に帰る。

まさに、オフィスはビジネス、働く場所の中心だった。どこに、どのような規模のオフィス(あるいはビル)を構えるかは、企業の社会的なイメージに影響を与え、人材の獲得や事業運営にも影響を与える要素だった。

面積を縮小したり、本社機能を移す企業も

しかし、コロナ禍の中でそうした常識は崩れ、オフィスの形態は大きく変化している。感染対策としてテレワークを導入する企業が増えた結果、自宅、あるいは外出先で業務を行うことは当たり前になった。つまり、集約的に運用されてきたオフィスの機能は、郊外の自宅など複数の場所に分散し始めている。

その影響は大きい。企業にとって、従来の規模のオフィスを維持する必要性は低下した。それが、わが国企業がオフィス面積を縮小したり、本社ビルを売却したりする要因の一つだ。また、オフィス運営コストの削減などのために、地方に本社機能を移す企業もある。テレワークによって個人は通勤から解放され、より有意義に自己の能力の向上と発揮を目指しやすくなっている。そうした利点を生かすために在宅勤務を標準の勤務体系として扱う企業も出始めた。

モダンなオフィス※写真はイメージです - 写真=iStock.com/runna10

その一方で、新しい事業戦略の立案などには、ビデオ会議よりも直接会って議論を交わすことが欠かせない。テレワークとオフィスでの活動、両方の利点を生かすために多くの企業が新しいオフィスの形態を目指して試行錯誤を重ねている。

分散を進めるアマゾンのオフィス運営戦略

その中で注目したいのが、米IT先端企業のオフィス運営戦略だ。その一つの例として、アマゾン・ドット・コムのオフィス運営を考えたい。同社は2020年8月、ニューヨークやダラスなど6都市へのオフィス拡大に14億ドルを投じると発表した。アマゾン以外にも、ワークプレイスの分散を重視するIT先端企業は多い。

新型コロナウイルスの感染の発生と拡大は、世界経済のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速させた。アマゾンは、クラウドサービスやネット通販のプラットフォーマーとして需要を獲得している。その一方で、ITプラットフォームの利用者の増加に伴って、ハッキングをはじめとするサイバー攻撃(犯罪)の増加が世界的な問題になっている。

そうした問題にアマゾンはIT専門家の採用を増やし、デジタル技術の活用と人海戦術の両面から対応しようとしている。それに加えて、ユーザーの満足感の向上や新事業の創出のために、同社はより多くのウェブ・デザイナーやデータ・サイエンティストなどの専門家を必要としている。

人材確保のためには欠かせない

他方で、コロナ禍が世界の社会と経済に与えた影響に目を向けると、テレワークが増えた結果、生活コストの高い都市部から、郊外、あるいは地方に移住する人が増えている。それは、米国の住宅価格を上昇させる一因だ。企業が拠点を置いてきた大都市圏から、それ以外の地域に、放射状に人が移動し始めている。その状況下、アマゾンが優秀な人材を獲得し、彼らの発想の結合を目指すために、本社のある場所とは別の場所にオフィスを設けることの重要性は増している。

デジタル技術の活用は世界経済のDXを加速させ、テレワークの急速な浸透を支えた。それによって、働く場所=オフィスは分散し、人々はより自分の価値観に合った生き方を目指しやすくなった。IT技術の活用によって成長を遂げたアマゾンにとって、都市から自然豊かな地方へといった人々の生き方の変化に合わせて分散型のオフィス運営を重視することは、専門性の高い人材を確保し、さらなる成長を目指す上で自然な発想といえる。

もう以前のオフィス形態には戻れない

今後、感染が収束すれば、ある程度、オフィスでの勤務は増えるだろう。ただし、オフィスの形態や需要がコロナ禍以前の状態に戻るとは考えづらい。

3月23日に国土交通省が発表した2021年1月1日時点の公示地価を見ると、東京、名古屋、大阪の三大都市圏の地価が下落した。他方で、静岡県や千葉県では住宅地の地価が上昇した地域がある。それが示唆することは、DXが都市から地方へといった経済環境の変化(一極集中から分散への流れ)を加速させることだ。それに伴い、自宅、外出先、シェアオフィスというように、働く場所は分散される。企業の事業運営にとって、個人が与える影響の度合いも一段と大きくなるだろう。

わが国では、テレワークの導入に合わせて年功序列の賃金体系を見直し、成果に基づいた人事評価(ジョブ型の雇用制度)への本格移行に取り組む企業が増えている。それは、企業の成長にとって、個の力が与える影響が増すとの見方を反映した取り組みだ。

「毎日出社」の発想は企業経営にマイナスになる

わが国企業に求められることは、変化を恐れず、新しい取り組みを進めて、個々人が専門的な能力の向上とその発揮を目指しやすい環境を整えることだ。そのために、テレワーク体制の強化や分散型のオフィス運営の推進だけでなく、語学、法律、経済・経営、あるいはプログラミングなど専門知識の教授体制(研修体制や社内大学の運営)を強化することの重要性も高まっている。

それによって、個々人が業務を通して自分のやりたいことを見つけ、その実現に熱中できる環境を整備することが、企業の成長を支えるだろう。

反対に、企業のトップが、「毎日、社員はオフィスに出社して、チームでデスクを並べて仕事をするのが当たり前だ」、という発想から脱却できないと、企業が実力ある人材を確保することは難しくなる恐れがある。長い目線で考えると、そうした企業が環境の変化に対応することは一段と難しくなるかもしれない。アマゾンなどが分散型のオフィス運営を強化することによって人材の獲得を進め、さらなる成長を目指していることは、わが国企業にとってひとごとではない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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