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管理という仕事をスケールアウトするために

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あなたは、新しく開いた塾の先生だ。以前はIT業界で働いていたのだが、思うところあって脱サラし、小中校生を相手に勉強を教える、私塾を開いた。あなたは子ども好きで面倒見が良く、また以前からいろんな形で地域活動にも関わり顔が知られていたので、幸いそれなりに生徒も集まってきた。あなた一人ですべての科目を教えるのは大変なので、知り合いの大学生2人もアルバイトで雇い、手伝ってもらっている。

最初の受験シーズンも終え、成果はまずまずだった。あなたは胸をなで下ろし、新規募集に力を入れよう、と思う。前の職場では途中でエンジニアから営業職に転換され、不本意な思いもしたのだが、その時の経験は、塾生の募集にも多少役立っている。人生、どこで何が役に立つか、分からぬものだ。新学期に向け、新たな入塾希望者も増えてきた。そしてあなたは次第に、子ども達の顔と名前が覚えきれなくなるのを感じる。

そろそろ、塾の生徒たちの管理の仕組みが必要になってきたようだ。では、塾生の管理とは、いったいどういう仕事なのか? あなたは昔取った杵柄で、「管理という業務の要件」を分析してみることにした。

最初に考えるべきは、あなたの「管理対象」である塾生が、誰と誰か、である。つまり塾生の名簿(リスト)が必要なのだ。それに加えて、本日、塾に来ているのは誰と誰か、も把握しないといけない。以前、ある親から、「塾に行く」といって家を出たまま帰らないのですが、という問合せがあったのだ。それ以来、あなたは入口近くに生徒の名札を下げ、来たら表側にし、帰るとき裏返す、という柔道場方式をとりいれている。

もちろん、当然ながら生徒たちの本来かえる場所(つまり自宅住所)はどこか、連絡先と連絡方法も、リストに記載しなければ。家の固定電話だけでなく、携帯も必要だ。あなたは現在、スマホの簡単な住所録アプリにグループを作って登録しているだけだが、近頃では親御さんともLINEでの連絡が増えてきている。どうしたものか。

次に把握すべきは、子ども達の状態だ。それには健康状態なども含まれるが、何よりも、毎回塾に通ってきているかどうかが大事だ。気持ちが向かってきているか、塾から離れていないか。義務教育の学校と違って、塾は結局、子どもの気持ちと意欲に依存している。

そして最大限に重要なのは、もちろん、それぞれの子どもの能力・態度・成績だ。塾は学校と違い、学期ごとに成績簿をつける訳ではない。むしろもっと細やかに、各人の能力や得意・不得意を見ていく必要がある。それにしても、能力・態度・成績とは、まるで会社における業績評定と同じ評価軸ではないか。むろん成績は科目別に細分化されているわけだが、人の「評価」って、どこでもよく似た形になるのだと、(中間管理職だったあなたは、年度末の査定業務を思い出しながら)思う。

次なる課題は、塾全体としての人数はどうか、である。現状の人数の把握も必要だが、むしろ管理者としてのあなたの主要な関心は、生徒の増加数はどうか、という時間軸の変化である。増加数とはすなわち、入塾・卒業・途中退塾から得られる純増のことだ。学校なら転入出というのも考えるところだが。

塾生の管理ということなら、ここまでかな、とあなたは思う。幸い人数が増えた。おかげで、自分の頭の中だけでは追い切れなくなってきた。そこでリストを作る必要が出てきた。とはいえ、リストも今の人数程度だったら、自分のPCでExcelの表を作れば十分そうだ。管理という業務の要件定義、なんて、習慣でつい身構えたが、データベースとか台帳とかいうほどのレベルじゃない・・

いや、待てよ。あなたは考える。そもそも、管理対象の単なるリストと、『台帳』とは何が違うのだろうか? ほんとに、PCの中のExcelファイルのままでいいのだろうか。

それではまずそうだ、と今のあなたは思う。なぜなら、他のアルバイトの教師もいるし、経理事務を手伝ってくれている配偶者もいるからだ。この人たちも、必要に応じて、塾生のリストを参照したり、あるいは追記更新したりできる必要がある。個人事業主のあなたが、風邪をひいて3日寝込んだら、塾のすべての業務がストップするようでは、まずいだろう。

リストと台帳の違いなど、今まで考えたこともなかった。業務系システムの中でRDBで定義されたマスタを、台帳と呼ぶのだと、漠然と理解していた。だが、そうではなかったのだ。台帳とは、管理責任者である自分以外も含めて、複数の人間が共有し、必要に応じてアップデートできるリストであり、しかも、一次情報の源であって、情報の真偽はそこを基準に判断するようなリストのことを指している

いいかえると、管理という仕事を複数の人間に拡大し、一部の機能を移転可能にするために、台帳というツールが必要なのだった。

あなたは前職の時代に、客先の製品倉庫で見た、紙の在庫台帳を思い出す。古くさいが、あの仕組みはちゃんと機能していた。あれは、販売管理システム構築のプロジェクトだったっけ。販売物流の側は、ちゃんと業務をシステム化できた。だが営業部門側は業務がグチャグチャで、各人が勝手に案件情報を抱え込んでおり、システム化は難航した。おまけに、苦労して開発して納めたのに、ろくに使われぬままだった。IT化の前に、台帳の仕組みがあるかどうかが、実は管理という仕事のカギなのだ。

管理対象が少数なら(数個とか数人なら)、すべてを頭の中で追うことができる。だが、対象の数が増えて数十の単位になったら、リスト化が必要になる。対象が百を超えたら、おそらく『台帳』化して複数人が使えるようにするべきだ。そして千個を越したら、もうITを使わなければ不正確非効率でやっていられない。

逆に言うと、管理の仕組みを検討するにあたっては、最初から、「現在の規模をスケールアウトできるようにするには、どうすべきか」を考えておく必要があるようだ。だとすると、現在、想定しておくべき事態は、何だろうか。たとえば、生徒の数が数百人に達したら、何が起きるか。

あたりまえだが、今のように、自分一人とアルバイト2名では回らなくなる。講師を増やして、組織化していく必要があるだろう。そんなことを今から心配してどうするのか、と配偶者は笑うかも知れない。だが、その時はどうすべきか。今度は、部下である講師も管理していかねばならない。講師の台帳が必要になるのだ。

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