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企画は3勝2敗でちょうどいい『アメトーーク!』名プロデューサー 加地倫三氏が明かす負けの美学

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放送作家の深田憲作です。今回は「テレビ史に残る2つの人気番組を手掛ける演出家」について書いてみたいと思います。

YouTubeで人気の「本の要約チャンネル」を“テレビマンの本でやってみるコラム”の第4弾。

これまで『水曜日のダウンタウン』を演出するTBS局員・藤井健太郎さん、『マジカル頭脳パワー‼』『エンタの神様』などを演出してきた元日本テレビ局員・五味一男さん、映画『おくりびと』の脚本や『くまモン』の生みの親として知られる放送作家・小山薫堂さんについて書かせていただきました。

今回はテレビ朝日局員の加地倫三さんの『たくらむ技術』という本です。


加地さんは『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』『テレビ千鳥』などを手掛ける演出家。この3月で52歳になられたそうです。

メディアで取材されることも多く、番組の中でもよく名前があがり、画面に映りこむことが多い方なのでみなさん1度は目にしたことがあるのではないでしょうか? ちなみに有吉弘行さんからは「おしゃれガイコツ」というあだ名をつけられています(笑)。

バラエティを手掛ける現役のテレビ局員の演出家としてはTBSの藤井健太郎さん、テレビ東京の佐久間宣行さん、そして加地倫三さんが世間的にその存在を知られているBIG3かと思います。(佐久間さんはこの3月でテレビ東京を退社されますが)

僕は加地さんの部下にあたるテレビ朝日局員と番組をやらせていただいた時に、加地さんが番組のプロデューサーとして参加。会議をご一緒したことはありますが、その時の関わり方は監修という立場でしたので演出としての加地さんの仕事ぶりは目の当たりにしたことがありません。

加地さんの部下の局員に「加地さんってどんな人? ヘンな人? 怖い人?」と聞いてみたところ「めちゃくちゃ常識人ですよ」と返ってきました。

ぶっちゃけてしまうと、今の50代以上の世代の優秀なテレビ演出家はオラオラ系の剛腕タイプが多く、後輩からは「あの人とはもう仕事はしたくない」と思われているケースが少なくないのですが、加地さんはそういうタイプの方ではないようです。

TBSの藤井健太郎さんやテレビ東京の佐久間宣行さんの評判も同じく、後輩から疎まれるような人たちではないみたいです。これは時代性なのでしょうか。

40代の放送作家の先輩は「昔のディレクターはみんな怖かったよ~」と口にします。かつて、演出家として現役バリバリの頃のテリー伊藤さんがキレて暴れた的な伝説はよく聞きますし、お笑い色の強い番組の会議では議論が白熱して喧嘩みたいになることもあったという話もよく聞きます。(誤解なきように説明しておきますと、テリー伊藤さんが後輩から疎まれていたという話は僕は聞いたことがありません)

僕が放送作家を始めた12年前はまだその世代の方々がギリギリ現役でやられていたため、いわゆる“怖い会議”というのはありました。

僕もとある番組で企画案を資料で提出した時に「この企画のどこが面白いの?言ってみろよ、なあ?」「これのどこが面白れえんだよ」と詰められたことがありました。(今でもその方のことは恨んでいませんが)

今の30代以下の世代でそんな怖い人はほとんどいないと思います。いたとしてもパワハラでどこかへ飛んでいってしまいますし(笑)。

話が逸れてしまいましたが『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』『テレビ千鳥』といったお笑い好きの視聴者への求心力が高い番組を手掛けている加地さんが、どんなマインドで番組作りをされているのか?

テレビ業界以外の方も興味深いことと思いますが、この本を読むとテレビマンでなくとも役立ちそうな仕事術の数々が綴られていました。

「運動神経悪い芸人」は元々違う名前だった


加地さんはテレビ作りについて「自分の仕事を饅頭作りの職人さんのようなものというイメージで捉えている」と書いているのですが、まさに細部へのこだわりは職人そのものでした。

『アメトーーク!』といえば「○○芸人」というくくりのテーマが印象的ですが、人気シリーズとなっている「運動神経悪い芸人」は、元々は「運動オンチ」というフレーズで進めていたのを「運動神経悪い」というフレーズの方が番組らしくて面白く感じるため、タイトルを変えたと書いてありました。

このように、視聴者にとっては変哲のないワードだと思っているものでも、こだわりを持って考えているようです。

ワードのチョイスでいえば、編集で入れるテロップへのこだわりも書かれていたのですが「運動神経悪い芸人」を例にこんな説明をされていました。

「1人の芸人さんが「あの時、俺の右足がグニャっとなっちゃったんです」と言って爆笑をとった場面があるとする。この言葉をそのまま文字にすると23文字。これはテロップとしては長くて読みづらい。それに1行では長いので2行に分けなければいけない」

この場合、加地さんがテロップを入れるなら「俺の右足がグニャ‼」と9文字で入れると。

「テロップは短い方が好ましいが、これが「グニャ‼」だけだと芸人の言葉のリズムや間の取り方がズレてしまい面白さを殺してしまう。持論としてテロップは読ませるものではなく、見せるものと思っているから、自分ならこういうテロップにする」と書いてあります。

さらにはこの「俺の右足がグニャ‼」のテロップをどんなタイミングで出すのか? その文字をどのフォントにするのか? 文字の大きさをどうするのか? 文字をどの色にするのか? など、1つ1つのテロップに意図と意味を持って演出をされているようです。

0.1秒のトークの間を考えて編集される『アメトーーク!』

視聴者の方からすればトーク番組の編集は簡単に見えるかもしれません。
「芸人のしゃべった面白い部分を繋げばいいんでしょ?」と。決してそうではないことが分かる記述をご紹介しましょう。

「あるエピソードトークで爆笑が10秒続いたとする。そのうちの3秒が大爆笑で残り7秒が余韻の笑い。ここでつい編集者(ディレクター)はこの7秒をカットして次のトークに移ってしまいがちだが、それだと視聴者が笑い終わって落ち着く前に次のトークが始まってしまう」

つまり、次のエピソードトークの大事なフリの部分をしっかりと聞くことが出来ず、トークの面白さを半減させてしまう。便宜上、10秒とざっくりな表現で説明をしていますが、実際には0.1秒の間の違いも考えながら編集をしているそうです。

さらにはエピソードトーク中のカット割りにも細かな演出がなされており「ここではこの人の顔のアップ」「次は違う人の顔のアップ」「その後にお客さんのリアクション」といった具合に目まぐるしくカットを切り替えています。

この本によると『アメトーーク!』では1回の放送でおよそ1200カット、2秒半に1回カットを変えている計算になるそうです。
(今度アメトーーク!を見る際に意識していただけるとそのスピード感が分かると思います)

僕もテレビ業界に入りたての頃は「テレビ番組の編集ってなぜそんなに時間がかかるの?」と不思議でした。編集作業を行うのはディレクターのため放送作家は編集がどれほど大変な作業かを実感として分かっていませんが、僕はあるディレクターから「放送する1分の尺を編集するのに作業は1時間くらいかかる」と言われたことがあります。「饅頭作りの職人さん」という例えも腑に落ちますね。

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