
菅内閣に厳しい風が吹いている。新型コロナウイルスの感染防止対策で後れをとっている感が強いのに加え、総務省の接待問題で強い批判を受けている。緊急事態宣言は解除されたが、再びコロナの感染者が大幅に増加することになれば、政権に黄色信号が灯ることになる。現在の状況をどう見ているのか。田原総一朗さんに聞いた。【田野幸伸 亀松太郎】
なぜ東北新社は総務省の官僚を接待したのか
総務省の接待問題が菅政権に暗い影を落としている。
発端となったのは、衛星放送事業を手がける東北新社が総務省の官僚たちを頻繁に接待していたことが明るみになったことだ。東北新社には菅首相の長男がいて、長男を中心にした接待会食に、総務省の幹部が何度も出席していた。
総務省の幹部が民間企業から接待を受けること自体が問題だが、重要なのは、東北新社は何のために接待をしたのかということだ。同社は「顔つなぎのため」と説明しているが、本当なのか。
ちょうど接待会食と同じ時期に、東北新社が外資規制の20パーセントを上回っていた。これは違法で、本来ならば、衛星放送事業の認定が取り消しになるべきだった。
東北新社は「認定取り消し」を阻止するために、許認可権限をもつ総務省の幹部たちを接待していたのではないかという疑いがある。
東北新社は「20%を上回っていたのは、2017年の時点でわかっていて、そのことを総務省に報告した」と主張している。一方、総務省は「聞いていない」と主張していて、食い違いが起きている。どちらが本当なのかという問題もある。
東北新社に菅首相の長男がいたとは言え、総務省の官僚たちが接待を断ることができなかったのは、なぜなのか。その説明が十分にされているとは言い難い。
なぜ歴代の総務大臣は「NTTとの会食」を断れなかったのか

総務省をめぐっては、NTTとの会食の問題も浮上した。そこには、総務省の官僚だけでなく、当時の総務大臣も出席していたことが判明した。野田聖子元大臣や高市早苗元大臣、そして、現在の武田良太大臣もNTTとの会食に出ていた。これはいったいなんなのか。
それぞれの政治家たちは、自分でお金を払っていて、接待ではなかったと主張している。別に法律違反ではないし、NTTのために便宜をはかったこともないと言っているが、どう考えたらいいのか。
注目すべきは、歴代の総務大臣がなぜNTTとの会食に出席していたのか。断ることはできなかったのか、ということだ。
本来ならば、自民党の国会議員の中から、この問題を追及する動きがあっていいのだが、誰も問題にしようとしない。日本の政界はいまひとつ緊張感がない。たるんでいると批判されても仕方がない。
総務省の放送行政あるいは通信行政をめぐる「接待問題」は、まだ続きそうな雲行きである。調査が進めば、もっといろいろな問題が出てくるだろう。
コロナの「第4波」が来たら東京五輪の開催は危うい

総務省の接待問題は、菅政権に打撃を与えているが、致命傷にまではなっていない。むしろ、大きなダメージを与える可能性があるのは、コロナ対策の失敗だ。
緊急事態宣言は首都圏でもついに解除された。これから年度の切り替わりで人が多く動く時期だ。下手をすると、感染者が再び大きく増える恐れがある。
菅首相は緊急事態宣言の解除に際しての記者会見で、新たなコロナ対策を表明したが、強いインパクトはなかった。都心部での人出は増えており、リバウンドの可能性がかなりあるのではないかと見られている。
もし感染者が急増して「第4波」に見舞われることになれば、菅政権はいよいよ危険水域に突入する可能性が高い。
なぜなら、第4波の到来を招けば、この夏に予定している東京オリンピック・パラリンピックの開催が危うくなるからだ。
政府はIOCの強い意向を受けて、東京五輪をなんとか開催したいと考えている。だが、コロナの第4波が来てしまったら、開催は困難になる。そうなれば、おそらく菅内閣は持続できないだろう。
そのような事態を防ぐために、菅首相は有効な対策を打てるのか。これから正念場を迎えることになる。