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「東大王=うんちく王」となる日本の大学教育は根本的に間違っている

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リーダーに必要な「教養」はどうやって身につければいいのか。経営共創基盤(IGPI)の冨山和彦さんは「教養とは、鍛練を重ねて習得するもので、うんちくとは違う。しかし日本の大学教育は、単なる知識の詰め込みになっていて、『東大王』も『うんちく王』と思われている。これはおかしい」という——。

※本稿は、冨山和彦『リーダーの「挫折力」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

東京大学

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

リーダーなら火中の栗を拾え

激動の時代のリーダーに求められるのが、「いかに悪いことを伝えるか」という能力である。

これが美しい未来なら、語るのはたやすい。例えば政治家なら、「美しい日本」「最小不幸社会」などというのは簡単で、誰にでもいえる言葉である。だが、残念ながら、現在のような有事の時代には、痛みを伴う改革が不可欠。つまり、誰かに「申し訳ないが、あなた方には犠牲になってもらいます」といわなければならない。そこがリーダーとして、最も問われるところである。

例えば国家財政の問題でいえば、今の調子で社会保障給付を増やしていけば、国家財政がもつわけがないことは、国民もバカではないから十分わかっている。生産年齢人口が猛烈な勢いで減少する国で、成り行きの経済成長によって社会保障給付を負担するなど絵空事だ。財政出動したところで一時的なもので、10年、20年という長期的な成長にはならない。

そこで政治家が調子のよい話だけをしても、誰もついていかない。逆に、真実をいわない為政者として、疑いの目を向けられるだけである。

実際のところ、有権者に「財政再建のために消費税を増税すべきか」とたずねると、6割ぐらいは「増税すべき」と回答する。国民は社会システムの変革のために、受け入れるものは受け入れるという姿勢を持っているのだ。

きれいごとばかりでは信用されない

会社も同じである。会社を潰さない。リストラも事業売却もしない。成長もする。福利厚生も行う。そんなきれいごとばかり並べる社長は、不信感を持たれるだけである。机上の計算で成り立っても実際にありえないことは、日々の現実を体感している社員にはすぐにわかる。「そんなおいしい話あるわけない」と思い、社員の心はリーダーから離れていく。

社員にしても、リーダーに比べれば多少楽観視しているとはいえ、おおよそのところはわかっている。「どう考えても、自分はこの会社で給料ぶん働いていない」「会社の今の業績で、給料が払い続けられるだろうか」などと思っている。にもかかわらずリーダーが真実を伏せ、美しい話しかしないのでは社員はリーダーを信じない。

改革のために人の心をつかもうと思ったなら、きれいごとばかりでは通用しない。いまだ多くのリーダーは、きれいごとをいっていれば社員は安心すると思っているが、社員はそうではない。このギャップにリーダーは気づかなければならない。

自己保身で問題を先送り

このことは、個人と個人の関係でも同じだ。悪い情報、耳の痛いことを、本当に大事な局面で伝えてくれる友こそが、本当の友である。一緒に仕事をしていて信ずるべきはそういう仲間である。

結局、悪い話を伝えられない真の理由は、相手への思いやりでも気遣いでもない。伝えたときの反発、混乱、それに対応することの面倒くささ、そして何よりもそのせいで自分の立場がただちに危なくなることへの恐怖である。要は当座の自己保身が、悪いニュースを伝えない本当の理由なのだ。

しかし、そうやってごまかしていてもしょせんは問題の先送りに過ぎない。結局、将来、より大きな悲劇に、社員も、友人も、そしてあなた自身も見舞われることになる。私自身、そうやって身を滅ぼすリーダーやサラリーマンを何人も見てきた。

ノートパソコンの画面を見る中年ビジネスマン

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

ここはテクニックうんぬんではなく、いうべきことは、手遅れになる前に正直に伝えてしまうということに尽きる。もちろん反論されたり、抵抗されたりすることはあるだろう。

だがそれを乗り越えないことには、どんな改革も前には進まないし、本当の信頼関係や友情も築き上げることはできない。

反対に、リーダーにとって本当に大事な“悪いニュース”は、いつも遅れて、しかも小さめな話としてしか、下から上がってこないことも肝に銘ずるべきだ。部下にとってみれば、自分に不利な情報、自己保身にマイナスな情報を、自分を評価する立場にある上司に上げたくないのは、当たり前である。

長期不況は、真実から目を背け続けた結果

リーダーたるもの、「教養」を身につけよということをよくいわれる。巷には『1冊でわかる教養』といった書籍もあふれている。では、そもそも教養とは何なのか。

教養とは「リベラルアーツ」の和訳である。そう、「アーツ」、つまり「技術」「技能」なのだ。知っているだけではなく、使えなくては意味がない。教養とは単なる「うんちく知識」とは違う。

例えば、シェイクスピアは読むべき古典だが、単に作品名とあらすじを知っているだけでは意味がない。シェイクスピアの作品には、今にも通じる普遍的な人間の葛藤が描かれており、また、当時の時代背景を前提とした価値観の衝突が描かれている。これは現在でもそこかしこで起きていることである。今、目の前で起きていることに対し「これはシェイクスピアのあの作品におけるイングランド王の状況と同じだ」と認識し、それを自らの的確な対応に結びつけられるか。それが重要なのだ。

あるいはマックス・ウェーバーを読むにあたって、そこに何が書かれているかを知ることも、実はあまり重要ではない。むしろ、卓越した洞察に到達した彼の思考体系を知ることこそが重要だ。一例を挙げれば、ウェーバーの思考体系の特徴の一つは、価値選択の問題と事実認識の問題を峻別すべきだということにある。人はある事実を見るにあたって、自分の中の価値判断のメガネを通してそれを見てしまいがちだ。簡単にいえば、自分の都合のいいように物事を解釈する。そんな価値判断のメガネを外し、社会で起こっている事実をありのままに見ることが重要であり、それが科学だということが、ウェーバーの思考体系を貫く軸となっている。

もちろん、本当の意味で人間が完全に価値と事実を峻別できるかどうかは議論の分かれるところだが、この考え方は経営者としてのものの見方、考え方においても十分に有効性を発揮する。日本の「失われた30年」も、時代が変わってしまったという事実を見ようとせず、都合のいいように事実を解釈したからこそ起こったことともいえる。

自分の言葉として使いこなしてこそ「教養」

このように見てくると、シェイクスピアにしてもマックス・ウェーバーにしても、自らの思考や判断において使いこなせる実践技法にまで習得していなくてはならない。まさに言語能力として肉体化されていないと意味がないのだ。

その意味では、自己言語化レベルまで読み込むなら、コミックの『キングダム』や『鬼滅の刃』でも構わない。大事なことは「アーツ」、技法として身体化できているか否かであり、ディテールの知識ではない。

かの福沢諭吉が『学問のすゝめ』で日本人が学ぶべしとしている「教養科目」も、簿記会計、数学、英語など、まさにいろいろな領域で使われる言語的な科目ばかりである。

コーヒーカップと本

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/elenaleonova

最初に言葉ありき。人間は言語でものを考える。プログラミング言語もまさに言語であり、コンピュータを動かす言語体系を一つでもいいから習得しておくことは、これからの時代の言語能力≒考える能力を高めることにつながる。

ちなみに経営者を目指すなら簿記会計を習得しておくことは必須である。会計業務がAI化、自動化されても、簿記会計の基本構造を言語レベルで叩き込んでおかないと、出てきた会計数値、決算数字をもとに経営について考えることができないからだ。もっとプリミティヴには、粉飾決算やプログラミングのバグによる間違った決算に気づくことも不可能である。

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