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  • 2021年03月29日 15:10 (配信日時 03月29日 06:24)

バイデン大統領が最も恐れる“内なる敵”ジョー・マンチン - 斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)

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去る1月20日就任以来、順調な滑り出しを見せたかに見えたバイデン大統領。だが、身内のはずの民主党上院議員が一人立ちはだかり、政策運営に支障を来すなど、その存在に頭を痛めている。

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今、ワシントンで最も恐れられる政治家―それは間違いなく、民主党保守派のベテラン、ジョー・マンチンJoe Manchin3世上院議員(73)だ。

炭鉱業を主産業とする保守体質の濃厚なウェストバージニアで生まれ、育ち、ウェストバージニア大学卒業後、地元政界入り、その後は州務長官(2001-2005)、州知事(2005-2010)をへて2010年連邦上院議員に初当選以来、今期3期目を務める。州知事時代には、人望も厚く全米州知事会会長をつとめたこともある実力者として知られた。本人は自らの政治的立場を「穏健保守liberal conservative」と位置付け「進歩派progressives」と距離を置くが、上院では「最も保守的民主党議員」との呼び声高い。

実際、過去の上院本会議での行動歴を見ると、トランプ共和党政権が打ち出した「オバマケア」廃止法案には反対したものの、「銃砲規制」「妊娠中絶」など民主党が推進する多くのリベラルな政策には異議を唱えてきた。一昨年、セックス・スキャンダルで話題となった保守派のブレット・キャバノー連邦最高裁判事任命の承認審議では、民主党議員全員が承認に反対する中で、一人だけ支持票を投じた。

ウェストバージニアは2020年大統領選では、トランプ氏が70%超の得票でバイデン氏押さえ勝利するという全米有数の保守体質を濃くした州だけに、マンチン議員のこうした政治スタンスは、以前からある程度予想されたことだった。

50対50の「1議員」として一躍脚光を浴び始めた

しかし、昨年大統領選と同時に行われた上院選の結果、民主党が4議席増やし共和党と同数の50人となり、法案審議で両党同数の場合でも、ハリス副大統領が1票を投じることで過半数可決のめどは立ったものの、逆に議員のうち1人でも造反すればいかなる法案も成立が困難になるという、バイデン政権にとって“綱渡り”の状況が現出した。

そのまさに「1議員」として一躍脚光を浴び始めたのが、マンチン議員にほかならない。

とくに同議員の動向が決定的ともいえるインパクトを及ぼしたのが、バイデン大統領が最優先に掲げてきた1兆9000億ドル(約206兆円)規模の大がかりなコロナ関連追加経済対策「米国救済計画法」法案の行方だった。同法案をめぐっては去る5日の午前から丸1日以上、野党共和党議員から次々に提出された修正案の夜通しマラソン審議を経て、ようやく6日午前、50対49で上院を通過した。もし、マンチン議員が反対票を投じていた場合、法案成立はピンチに立たされ、今後の政局運営にも暗雲を投げかけるところだった。

バイデン政権にとって、大規模な「米国救済計画法」はコロナ禍で沈滞した経済を早期に立て直すと同時に、この春にかけて展開する大掛かりなインフラ整備および製造業再建関連法案成立に向けた最優先課題と位置付けていただけに、待望の「第一ラウンドの大勝利」(シューマー民主党上院院内総務)となった。

逆に言えば、もし、マンチン議員が反対票を投じていた場合、国民生活に大きな影響を与える1兆9000億ドルという空前規模の大事業がとん挫していた可能性があった。

反対票を投じる姿勢をちらつかせた

しかし、審議の過程で一時、同法案に盛り込まれた「週400ドル」の失業保険支給額、および「今年10月4日まで」とした支給期間について、マンチン議員が「高額過ぎる。支払期間も長すぎる。原案のままでは失業者の就労意欲を減退させる」との理由で反対票を投じる姿勢をちらつかせたことから、ホワイトハウスをあわてさせ、同議員との“取引”成立まで9時間近くも採決が引き延ばされる事態となった。

結果的にホワイトハウス側が支給額「週300ドル」、支払い期間も「9月6日まで」との妥協案を示し、マンチン議員も承諾したことから、なんとか法案可決にこぎつけた。その後、下院本会議でも可決され、大統領署名をへて法案は成立した。

与野党が50対50で勢力が拮抗する難関の上院で法案を通過させることができたことについて、バイデン大統領は、その直後、声明を読み上げ「私は45日前大統領就任時、コロナで困窮した国民に援助の手を差し伸べることを約束した。本日、議会はその約束に向けたジャイアント・ステップを踏み出した」と成果を自賛した。しかし、大統領が上院採決に際し、マンチン議員と直接取引したかどうかについては、報道官は言及を避けたが、その後、大統領が直接、マンチン議員に電話を入れ、説得したことが判明した。

これより先、去る2日、連邦政府の予算を一手に取り仕切るホワイトハウス管理予算局長(OMD)に任命されていたニーラ・タンデン女史が、上院承認審議で多数支持が得られなくなったとして「任命辞退」を正式表明した。その背景には、マンチン議員の反対があった。マンチン議員はタンデン女史の「OMD起用」が取りざたされた当初から、「共和党議員たちに対しかねてから過激な批判を繰り返していた」として「承認拒否」を示唆、これに対し、バイデン大統領は「任命は撤回せず、守り抜く」と強気の姿勢をとり続けたため、その後の成り行きが注目されていた。結局、最後までマンチン議員は反対姿勢を崩さず、ホワイトハウスとしては、野党共和党の他の穏健派議員の切り崩しを図ったものの、支持を得られず、最後は任命撤回のやむなきに至った。

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