
【「劣化させるわけにいかぬ」】
実物の看板が展示されているのは、建物前に広がる芝生から見て右端の屋外。左端が建物の入り口だから、来館者の目につきにくい、一番遠い場所に置かれた。隣には津波の力で大きく変形した双葉町消防団の消防車も一緒に展示されている。敷地近くで見つかったという。入り口の真反対での展示のため来館者の導線からは完全に外れており、順路に従って見学しても実物展示に気付かない可能性もある。気づいたとしても、展示されている看板の前の扉は「館内に砂ぼこりが入ってしまう」と施錠されていて、直接目にするためには再び入り口まで戻り、建物沿いに端から端まで歩く必要がある。しかも、芝生と建物の間にはなぜか石が敷き詰められていて歩きにくい。実際、車いす利用者が実物を近くで見るのを断念したケースもあったという。
伝承館は昨年9月にオープンしたが、〝目玉〟となるはずの原発PR看板の実物は展示されず、昔の写真が館内に展示されていた。開館から半年経ってようやく実物展示が実現したが、果たしてこれで「展示」と言えるのか。原発事故の教訓や反省の材料として語り継ぐ意思があるのか。建物の前には広大な芝生があり、展示スペースには事欠かない。もっと来館者の目につきやすい場所での展示が出来たはずだ。だが、取材に応じた伝承館の小林孝副館長は「劣化防止」を強調した。
「敷地内で屋根のある場所があそこだけなのです。長年、屋外にあったものなので大丈夫だとは思うのですが、大切な資料なので風雨に直接さらすわけにはいきません。私たちには『資料の保存』という仕事もあります。劣化させるわけにはいかない。そこで防錆加工をした上で屋外展示をしたのです」
「室内での展示も検討しましたが、床が弱くて置けない。床下は空洞なのです。何パターン化考えて、『展示』と『保存』の妥協点という事であの場所になりました。文字は外せるので毎日、閉館後にしまっているんですよ。スタッフも大変です。それだけ気を遣っています。標語は全部で4種類あるので、例えば1、2週間ごとに順番に展示すれば劣化も4分の1で済むかなとも思っています」




撤去から6年余ぶりに公の場に姿を見せた原発PR看板。だが、展示場所は伝承館入り口から真反対の場所で、館内からの行き来も不可。「展示物を近くでご覧になりたいお客様」は「恐れ入りますが、外からお回りください」と書かれている。これが「伝承」の現実だった=福島県双葉郡双葉町中野