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- 2011年02月24日 22:00
中東で始まった2011年激動へのうねり ―エジプト政変後のアラブ諸国の政治、治安状況を中心に―( [特別投稿]益田哲夫氏/東京財団研究員)
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混乱が続く中東諸国の現状の概況は、エジプトで今のところ革命がもたらしたものは“第2エジプト共和国”ではなく、従来のエジプト共和国の新バージョンとも呼ぶべき体制だ。つまり軍が直接国を支配してはいないものの、最高権力は握っているのだ。軍はムバラク前大統領の息子ガマル氏が率いるビジネス・エリートと知識層とよばれる勢力に押され、ここ数年は日の当たらない場所に追いやられていた。
今回の革命でガマル氏と治安部隊は権力の座から転げ落ちた。現在エジプトは転換期に当たり、軍が権力の座を自ら下り、自由で民主主義的な勢力に国のかじ取りを全面的に任せたとき、初めて第2エジプト共和国が誕生するのだ。現在権力の座に連なっている軍幹部たちはそろって政治的にも経済的にも保守派といわれる人物ばかりだ。
今後のエジプトのたどる方向は、米オバマ政権がどこまで軍部を説得して権力を民主的勢力に委譲するかにかかっている。軍の一般兵士たちが、軍幹部の意図する方向に素直に動くかどうかも重要な要素だ。
軍が経済的に大きな発言力を持っている事実も見落としてはならない。ガマル氏は経済界と手を携えて経済の自由化と国営企業の民営化を積極的に進めてきたが、こうした動きは新政権が発足するまでは一時中断されることになろう。新体制が確立するまでどれぐらい移行期間が続くのか、新体制がどのようなかたちになるのかは今のところ知る由もなく、それがはっきりするまでエジプトは不安定な情勢が続くことになる。
湾岸諸国のサウジアラビアでは、高齢の国王治世下でサウジは新たなこれまで経験したことのない不安な事態を迎えている。宗教を重視する保守的立場の勢力はこのままの王政が続いて欲しいところだが、その保証はない。
既に主要石油生産地域ではシーア派国民の一部に不穏な動きが出ているとの情報もあり、現体制が実際に危機に見舞われているわけではないが、不安を感じていることは確かだ。また、人口の大半をシーア派が占めるバーレーンを除くと、湾岸協力会議(GCC)諸国では安定した政情が続いている。
イエメンの情勢は極めて流動的とはいえ、エジプトと違って現大統領に対する部族や軍部の支持は今のところ高い。従って、体制がひっくり返る可能性はそれほど高くはない。
ヨルダンの不安定要素はかなり多い。現体制の大きな支持基盤であるベドウィン系アラブ人の間の政権批判がこれまでになく高まっているからだ。しかし人口の多数を占めるパレスチナ人と彼らの間の軋轢が高まっているだけに、国王としてはその地位が脅かされているとの感覚はない。また隣国シリアがムスリム同胞団の勢力拡大を強力な圧力をかけて抑えていることも、同国の安定化につながっているようだ。
チュニジア、エジプト政変の近隣諸国に対する影響がどのようなものになるのかの見通しは難しいが、エジプト政変の実際の影響度がわかるまでにはいましばらく時間がかかりそうだが、それでもひとつだけはっきりしていることは、イラン、シリア、ヒズボラ、ハマスといったいわゆる“反米”“反イスラエル”枢軸を形成する勢力が、カタールなどの肩入れもあってにわかに活気づいてきたことだ。
現在エジプトで主導権を握っている軍部はムバラク前政権の最大の支持基盤であり、戦略目標も一致している。つまり米国と親密な関係を保つ一方で、イランの中東における覇権拡大にも反対するという明確な外交路線である。
合同軍事演習を展開するサウジアラビアを支持したり、レバノンやパレスチナの親米勢力に肩入れしたりするといったことはまさにこの路線に沿った動きだった。しかし民主的政権へ移行するまでのこれから数か月間は、軍部がエジプトを指導していかなくてはならないが、この間、中東におけるエジプトのかつての威勢は地に落ちたままという状態は、これまで権勢を誇ってきた軍部としては、相当厳しい試練の時をとならざるを得まい。
これは親米、保守的スンニ派勢力にとっては、かつてヒズボラ、シリア、イラン勢力にレバノンを奪取された際に味わったと同じ屈辱感を思い出すことになるからだ。いまやイランに対等に対峙できるアラブの大国はサウジしかなくなった。
これを好機とばかりにかねて中東での発言力拡大を狙ってきたトルコやカタールが、例えばパレスチナ問題に積極的に介入するなど、エジプトの不在を利用して、地域での影響力拡大に拍車をかけ始めるかもしれない。特にパレスチナ問題では、これまでエジプトがファタハ(パレスチナ解放機構=PLO=の最大組織)とパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの間の仲介役を果たしてきた唯一の国だった。
エジプト政変は別の意味でも中東諸国に影響をもたらすだろう。今回の政変で米国は中東における30年来の親米政権をある意味で見限ったと受け止められている。米国はムバラクに引導を渡しただけでなく、デモが拡大すると見るや、ムバラク引退の時期を早めるよう、デモ隊にさらに強硬な姿勢を取るよう仕向けたという。
中東の指導者や国民はこれを見て、米国の支援を受けることが必ずしも母国の安定の保証にはならないことを悟ったのだ。それどころか親米路線を取るとかえって政治生命を脅かされることがあることも思い知らされた。なぜなら米国は米国の言うことを聞く勢力は支援するが、そうでない勢力は敵視するからだ。例えば米国に大きく依存しているエジプト軍を米国は強力に支援したが、これが例えばイラン軍やシリア軍だったらこうはゆかないだろう。
エジプトの次に政変があり得る国として米国は、サウジを考えているのではないか。少なくともサウジの王族はそう思い始めているようだ。たしかに米国はエジプトに対して持っていたほどの影響力はサウジに対しては持っていない。そのためサウジは米国以外の大国であるロシア、中国、インドなどといった諸国との関係強化に動くかもしれない。サウジが兵器の調達先を米国から他の国に代える可能性も考えられる。過度に兵器面で米国に依存していると、補給品や部品の調達などで、米政権の介入を招くことになるからだ。
今回の革命でガマル氏と治安部隊は権力の座から転げ落ちた。現在エジプトは転換期に当たり、軍が権力の座を自ら下り、自由で民主主義的な勢力に国のかじ取りを全面的に任せたとき、初めて第2エジプト共和国が誕生するのだ。現在権力の座に連なっている軍幹部たちはそろって政治的にも経済的にも保守派といわれる人物ばかりだ。
今後のエジプトのたどる方向は、米オバマ政権がどこまで軍部を説得して権力を民主的勢力に委譲するかにかかっている。軍の一般兵士たちが、軍幹部の意図する方向に素直に動くかどうかも重要な要素だ。
軍が経済的に大きな発言力を持っている事実も見落としてはならない。ガマル氏は経済界と手を携えて経済の自由化と国営企業の民営化を積極的に進めてきたが、こうした動きは新政権が発足するまでは一時中断されることになろう。新体制が確立するまでどれぐらい移行期間が続くのか、新体制がどのようなかたちになるのかは今のところ知る由もなく、それがはっきりするまでエジプトは不安定な情勢が続くことになる。
湾岸諸国のサウジアラビアでは、高齢の国王治世下でサウジは新たなこれまで経験したことのない不安な事態を迎えている。宗教を重視する保守的立場の勢力はこのままの王政が続いて欲しいところだが、その保証はない。
既に主要石油生産地域ではシーア派国民の一部に不穏な動きが出ているとの情報もあり、現体制が実際に危機に見舞われているわけではないが、不安を感じていることは確かだ。また、人口の大半をシーア派が占めるバーレーンを除くと、湾岸協力会議(GCC)諸国では安定した政情が続いている。
イエメンの情勢は極めて流動的とはいえ、エジプトと違って現大統領に対する部族や軍部の支持は今のところ高い。従って、体制がひっくり返る可能性はそれほど高くはない。
ヨルダンの不安定要素はかなり多い。現体制の大きな支持基盤であるベドウィン系アラブ人の間の政権批判がこれまでになく高まっているからだ。しかし人口の多数を占めるパレスチナ人と彼らの間の軋轢が高まっているだけに、国王としてはその地位が脅かされているとの感覚はない。また隣国シリアがムスリム同胞団の勢力拡大を強力な圧力をかけて抑えていることも、同国の安定化につながっているようだ。
チュニジア、エジプト政変の近隣諸国に対する影響がどのようなものになるのかの見通しは難しいが、エジプト政変の実際の影響度がわかるまでにはいましばらく時間がかかりそうだが、それでもひとつだけはっきりしていることは、イラン、シリア、ヒズボラ、ハマスといったいわゆる“反米”“反イスラエル”枢軸を形成する勢力が、カタールなどの肩入れもあってにわかに活気づいてきたことだ。
現在エジプトで主導権を握っている軍部はムバラク前政権の最大の支持基盤であり、戦略目標も一致している。つまり米国と親密な関係を保つ一方で、イランの中東における覇権拡大にも反対するという明確な外交路線である。
合同軍事演習を展開するサウジアラビアを支持したり、レバノンやパレスチナの親米勢力に肩入れしたりするといったことはまさにこの路線に沿った動きだった。しかし民主的政権へ移行するまでのこれから数か月間は、軍部がエジプトを指導していかなくてはならないが、この間、中東におけるエジプトのかつての威勢は地に落ちたままという状態は、これまで権勢を誇ってきた軍部としては、相当厳しい試練の時をとならざるを得まい。
これは親米、保守的スンニ派勢力にとっては、かつてヒズボラ、シリア、イラン勢力にレバノンを奪取された際に味わったと同じ屈辱感を思い出すことになるからだ。いまやイランに対等に対峙できるアラブの大国はサウジしかなくなった。
これを好機とばかりにかねて中東での発言力拡大を狙ってきたトルコやカタールが、例えばパレスチナ問題に積極的に介入するなど、エジプトの不在を利用して、地域での影響力拡大に拍車をかけ始めるかもしれない。特にパレスチナ問題では、これまでエジプトがファタハ(パレスチナ解放機構=PLO=の最大組織)とパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの間の仲介役を果たしてきた唯一の国だった。
エジプト政変は別の意味でも中東諸国に影響をもたらすだろう。今回の政変で米国は中東における30年来の親米政権をある意味で見限ったと受け止められている。米国はムバラクに引導を渡しただけでなく、デモが拡大すると見るや、ムバラク引退の時期を早めるよう、デモ隊にさらに強硬な姿勢を取るよう仕向けたという。
中東の指導者や国民はこれを見て、米国の支援を受けることが必ずしも母国の安定の保証にはならないことを悟ったのだ。それどころか親米路線を取るとかえって政治生命を脅かされることがあることも思い知らされた。なぜなら米国は米国の言うことを聞く勢力は支援するが、そうでない勢力は敵視するからだ。例えば米国に大きく依存しているエジプト軍を米国は強力に支援したが、これが例えばイラン軍やシリア軍だったらこうはゆかないだろう。
エジプトの次に政変があり得る国として米国は、サウジを考えているのではないか。少なくともサウジの王族はそう思い始めているようだ。たしかに米国はエジプトに対して持っていたほどの影響力はサウジに対しては持っていない。そのためサウジは米国以外の大国であるロシア、中国、インドなどといった諸国との関係強化に動くかもしれない。サウジが兵器の調達先を米国から他の国に代える可能性も考えられる。過度に兵器面で米国に依存していると、補給品や部品の調達などで、米政権の介入を招くことになるからだ。



