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焦点:ワクチン接種で「過失致死」容疑、イタリアで混乱深まる


Angelo Amante and Crispian Balmer

[ローマ 23日 ロイター] - アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンに深刻な副反応の懸念が広がる中、欧州各国では接種中断の動きが相次いだ。とりわけイタリアでは、接種後の死亡をめぐって犯罪容疑が持ち上がり、混迷の度が深まっている。

今月11日、シチリア島の都市シラクサの検察官は、医師2人、看護師1人に対し過失致死容疑での捜査を開始した。ある海軍将校が、アストラゼネカ製ワクチンの接種を受けてから数時間後に急死したことが発端だ。

ガエタノ・ボノ検察官は、同じ製造ロットのワクチン数万回分をイタリア全土で差し押さえることも命じた。ボノ検察官はロイターの取材に対し、予防的な措置だと説明しているが、医療従事者たちは口々に不必要な措置だとの怒りの声を上げている。

イタリアも他国同様、コロナ危機の克服に向け、ワクチンの集団接種に希望を託している。同国のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)による死者は欧州連合(EU)加盟国の中では最多の約10万5000人。そればかりか、コロナ危機は同国に第二次世界大戦後では最悪の景気後退をもたらしている。

<ワクチン希望は国民の6割>

今年9月までに国民6000万人の大半にワクチン接種を行うという計画は、前途多難なスタートを切った。ワクチン供給のペースが予想以上に遅れているうえ、他社製に比べ輸送が容易で低コストであるアストラゼネカ製ワクチンの評価が芳しくないためである。

シラクサの事件から数日後、イタリア北部の検察官が警察に対し、やはり接種後の急死事例を受けて、同社ワクチンの別の製造ロットを押収するよう命じた。

イタリアの司法当局の動きに続いて、ドイツやフランス、イタリアなど欧州の10数カ国が同社製ワクチンの接種を中断した。接種を受けた人の中に稀少な血栓症がごく少数見られたとの報告を受けた措置である。

欧州医薬品庁は先週、これまでの検証では血栓発生の全般的リスクの増大とアストラゼネカ製ワクチンの関連性は見られないと発表し、大半の政府は同社製ワクチンの接種を再開した。

だが反ワクチン意識が根強く残るイタリアでは、検察の動きが国民のワクチン不信をさらに高めてしまっている、医師たちは語る。英国の調査会社イプソスMORIが12月に発表した世論調査によれば、新型コロナワクチンの接種を受ける予定だと答えたイタリア人は全体の62%に留まっている。

<アストラゼネカは捜査協力を表明>

「こんな条件で、何百万人もの国民にワクチン接種をすることなど、どうして期待できるだろうか」。金融の中心地ミラノにあるサッコ病院で感染症部門を率いるマッシモ・ガリ氏は当惑する。「私が知っている医療関係者は、この馬鹿げた状況にひどく憤激している」

他の欧州諸国では医師・看護師がイタリアのような司法的な脅威には直面している状況はない、と115カ国の医師を代表する世界医師会(WMA)は指摘する。

WMAの評議会長を務めるフランク・モンゴメリー医師は、「欧州連合の他の加盟国では、(ワクチン接種による死亡は)過失致死とは見なされないだろう」と語る。「ワクチン接種で生じうる副反応を理由に医師が告訴されることは絶対にないはずだ」

アストラゼネカは、捜査に協力する用意があり、司法制度を信頼していると述べている。同社製ワクチンは治験において最大で79%の有効性を示しており、同社は21日、追加の治験でも安全性を懸念すべき理由は得られなかったと発表した。

法律の専門家らは、医師や政府が検察の対応に何らかの働きかけを行うことは一切できないと説明する。イタリア保健省はコメントを控えるとしている。

イタリア憲法の下では、検察は完全な独立性を維持しており、いかなる種類の外的圧力にも左右されない。さらに、彼らが関心を持つ事件は何であれ捜査を行うことが法により義務付けられている。

ボノ検察官はロイターに対し、「捜査は粛々と進めなければならず、世論を考慮する余地はない」と語り、海軍将校の死に対して過剰反応しているのではないかとの見方を否定した。

同検察官は、自分自身はワクチンに対して何の恐れも抱いていないことを強調し、死亡した男性の遺族と面会してから数時間後に自らアストラゼネカ製ワクチンの接種を受けたことを明かした。

<既往症のない接種者が死亡>

シラクサで死亡した海軍将校は、ステファノ・パテルノさん(43歳)。妻がテレビ局「La7」に語ったところでは、特に何の既往症もなく、3月8日午前中、ワクチン接種を受けるためにシチリア島東岸アウグスタ軍病院に向かったという。数時間後に微熱が出たが、寝る頃には下がったという。

だが深夜2時頃、彼は発作のような症状を示し、すぐに救急車が駆けつけたものの、まもなく亡くなった。

妻によれば、遺族は死亡とワクチン接種のあいだに関連があるのか調べるよう地元の検察官に要請したという。

ボノ検察官はただちに過失致死の可能性を調べ始めた。その後、看護師1人と医師2人、さらにはアストラゼネカのイタリアでの責任者を容疑者として指名した。医療関係者3人の名前は発表されていない。

ボノ氏によれば、迅速に容疑者を明確にしたことで、容疑者の側でも弁護士を指名して、その後行われる検視に対応してもらうことが可能になったという。

「彼らにとっては安心材料だ。(検視の)手続きに関与する権利を得て、意見を言うことができる」

<グレーゾーンの事件>

医療従事者の労働組合は、こうした捜査は医療スタッフを深く動揺させていると話す。医師たちの労働組合ANAAO-ASSOMEDを率いるカルロ・パレルモ氏は、「単に筋肉注射をしているだけだ。どのような副反応が起きようと責任を持つことはできない」と語る。

「こういう事件に巻き込まれた医師たちが皆、どれほど個人的な悪影響を受けるか想像できるだろうか。弁護士を見つけ、検視に立ち会う専門家を探さなければならない。ひどい混乱につながる」

イタリア刑法では、医療従事者が訴追されるのは、悪意又は重大な怠りがあった場合に限られる。組合によれば、シラクサの事件はグレーゾーンの存在を示唆しており、政府がワクチン接種を行う医療従事者に特別な法的保護を与えることが求められるという。

ロベルト・スペランザ保健相は、「コリエーレ・デラ・セラ」紙に対し、ワクチン接種従事者への法的保護は「よい考え」だろうと語った。

企業レベルでは、アストラゼネカとEUのあいだで、結果的に何か法廷闘争に至った場合、ワクチン接種について弁護する責任は同社が負うとの合意ができている。だが、あるEU当局者が昨年9月にロイターに語ったところでは、EU各国政府は、想定される副反応をめぐって所定の基準以上の損害賠償請求が発生した場合、政府側が支払いを肩代わりすることで合意しているという。

<押収ワクチンの行方>

ボノ検察官とは異なり、イタリア北部の街ビエッラのもう1人の検察官は、先週に捜査を開始した時点では容疑者を特定しなかった。57歳の音楽教師サンドロ・トグナッティさんがアストラゼネカ製ワクチンの接種を受けた翌日に亡くなった事件を受けた捜査だ。

だが、このテレーザ・カメリオ検察官も、ワクチンの劣化がなかったか確認するための予防的な措置として、トグナッティさんが接種されたものと同じ製造ロットのアストラゼネカ製ワクチン39万3600回分を押収するよう命じている。

カメリオ検察官はこの件についてコメントを控えるとしている。

警察当局者によれば、イタリア全土でカラビニエリ(同国の国家憲兵)がワクチン保管拠点に赴き、問題の製造ロットのワクチンを箱に収めて封印しているという。捜査が続く間、ワクチンは保管拠点に留め置かれることになる。

政府のデータによれば、押収分は、その時点でイタリア国内に保管されていたアストラゼネカ製ワクチンの約20%に相当するという。供給が限られているためにEUにおけるワクチン接種の取り組みが遅れているにもかかわらず、押収分は封印されてしまったことになる。

押収されたワクチンは6カ月で有効期間が切れてしまう。シラクサ、ビエッラ双方の検察官は、分析を完了するためには時間が必要だとして、捜査にどれくらいの期間を要するかは言えないとしている。

同社製ワクチンの接種を受けた後で体調が悪化して死亡した50歳の警察官については、シチリア島の都市カタニアの検察官が捜査を開始してから終了するまでに1週間かからなかった。

カルメロ・ズッカロ検察官は今月18日に出した声明で、警察官の死とワクチンとの関連を疑わせる材料は何もなかったと述べている。

「我々が強い確信を持っていることは、私自身、また当検察局の検察官及び職員の大多数がアストラゼネカ製ワクチンの接種を受けていることに示されている」と書いている。

(翻訳:エァクレーレン)

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