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鑑定スキャンダル|日米2つのケース

偶然とはいえ、いま日本と米国で、科学鑑定結果のねつ造をめぐって同じような騒動が起きています。期せずして、日米で同時期に進行している2つの鑑定書ねつ造事件、事態の成り行きを見比べてみると、日本では、小さな事件に収まりつつあることに、なにやら無理が感じられてなりません。

日本での騒動は、和歌山県警の科学捜査研究所で起きたもので、元主任研究員が1998年から今年1月の間に担当した8000件の鑑定のうち、27件で過去の別事件のデータを流用して鑑定書をねつ造したというもの。

この件が最初に報道されたのは今年8月、同研究員が8回にわたって、内部決済用の資料に過去の別事件のデータを流用するなどの不正を行ったと発表されました。さも周辺的なささいな問題であるかのような内容で、なにやら意味不明な発表だったようです。

先日、その続報が発表され、この事件の全体像がようやくあきらかになりました。

<ニュースから>*****
●証拠品鑑定結果捏造、研究員を停職
和歌山県警科学捜査研究所の証拠品鑑定結果捏造ねつぞう事件で、県警は17日、不正を行ったとされる男性主任研究員(50)を証拠隠滅と有印公文書偽造・同行使の両容疑で書類送検し、停職3か月の懲戒処分とした。
研究員は同日、依願退職した。

発表によると、研究員は2010年5月~12年6月、変死事件など7件の鑑定に関し、上司に説明する文書に過去の別事件のデータを流用。別の鑑定書類1件でも所長の公印を無断で使い、決裁済みを装った疑い。

県警は、研究員が関わった全約8000件の鑑定について調べ、この8件以外にも覚醒剤取締法違反など19事件で同様のデータ流用を確認したが、証拠隠滅罪の公訴時効(3年)が過ぎていることから、立件を見送った。
(2012年12月18日 読売新聞)
*****

毎日新聞和歌山版(2012年12月19日)は、問題のねつ造鑑定書のうち1件は、覚せい剤に関する鑑定書で、刑事裁判の証拠として採用されたと報じています。記事によると、和歌山地検は「公判結果には影響を及ぼしていない」としているそうですが。

もし、これが覚せい剤取締法違反事件であれば、鑑定書は、行われた犯罪の客体が覚せい剤であると証明する唯一の根拠であり、それが偽造であったとしても「後半結果に影響を及ぼしていない」などということが、果たしてありうるでしょうか。また、裁判の証拠として採用されたのが1件だけというのも、何やら腑に落ちないことです。

さて、ところ変わって米マサチューセッツ州でも鑑定書ねつ造事件が起きていますが、こちらは未決被告人に対する公訴の取り下げや、すでに裁判が確定した服役者などの釈放から、地域社会に不安が広がるという事態にまで発展してきました。

事の発端は、州立犯罪捜査研究所に勤務していた研究員が、薬物鑑定で、長年にわたって鑑定書を偽造してきたというもので、今年10月に同研究員が逮捕されました。同人が関わった約6万件の鑑定書が精査された結果、未決者、既決者合わせて1千人以上が釈放される見込みだと報じられています。

12月14日のCBSニュースは、薬物犯罪者の大量釈放という事態に直面した地域社会の反応を取り上げています。

すでに釈放された158人のうち8人は社会復帰後まもなく再犯して逮捕されました。鑑定書の偽造によって釈放される人のほとんどは、薬物犯罪の前科を多数持ち、繰り返して裁判を受けてきた人たちだといいます。

釈放者の多くが帰住することになるボストン市では、薬物犯罪の急増を危惧する声もあります。鑑定書の偽造という偶然から、犯罪者が釈放されることに違和感を訴える声もあがっているといいます。マサチューセッツ州司法長官は、こんな事態だからこそきちんと対応しようと呼びかけています。

ボストン警察は、釈放予定者たち一人ひとりに面会して、就職、住宅のあっせんや支援制度について伝え、彼らの社会復帰を支援するメッセージを送っているといいます。でも、もしも薬物と犯罪の世界に舞い戻るなら、容赦なく逮捕して刑務所に戻してやると、警告することも忘れていません。

[参照]
CBS>Behind Boston crime lab chemist's alleged deceptions(December 14, 2012)
http://www.cbsnews.com/8301-505263_162-57559175/behind-boston-crime-lab-chemists-alleged-deceptions/
[関連の過去記事]
①科捜研スキャンダル|和歌山県警(2012/08/17)
http://33765910.at.webry.info/201208/article_8.html
②薬物鑑定スキャンダル|米マサチューセッツ州(2012/10/01)
http://33765910.at.webry.info/201210/article_1.html

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