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原発事故被災地からスタートした聖火リレー 福島復興に向けた「影」の部分は消された?

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報道やSNSを通じて見た3月25日の福島県沿岸部の姿は、普段のそれとは180度違った。けたたましく、騒がしい行列が聖火リレーの名の下に、東京電力福島第一原発事故の被災地を通り過ぎていった。

福島から始まった聖火リレーは、その様子が世界中に発信された。「福島はもう大丈夫」。そう思った海外の人も少なくないだろう。着実に復興が進んでいる面は確かにあると考える。しかし、それは福島の一つの側面に過ぎない。

第一原発の汚染水の問題や、低迷したままの県産品、そして、東日本大震災から10年が過ぎても約3万6000人が避難生活を余儀なくされている現実――。これまでの聖火リレーを見る限り、“復興五輪”を旗印とした今回の五輪から、福島のいわゆる「影」の部分は捨象されてしまっていると実感した。

聖火リレーのトーチを見つめる岩清水梓選手(左から3人目)ら=25日午前9時39分、福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」(共同通信社)

「復興」とはどんな状況か 進んだ面も進んでいない面も

筆者は2016年4月から18年9月末まで福島県に暮らしていた。とは言っても住んでいたのは第一原発から約62キロも離れた県庁所在地の福島市。2時間以上車を走らせて「浜通り」と呼ばれる沿岸部を訪れ、その現状を目に焼き付けては記事で伝えてきた。

福島を離れてからも半年おきには、第一原発周辺を訪れてきた。福島で暮らしていた時に『浜通り 元通り』というステッカーを目にした。何か絶望の中に明るい光を見た気持ちになった。深く心に残り、原発事故で大きく傷ついた地域が蘇るその姿を見届けたいと考えた。

避難指示が解除された地域には商業施設が相次いでオープンしている(福島県富岡町、2月22日撮影)

直近では今年2月中旬、取材で訪れる機会を得た。昨年11月に友人らと訪れて以来、3ヶ月ぶりのことだった。

通行できるエリアが増えていたり、新たに商店がオープンしていたり。浜通りを訪れるたびに何らかの変化に気づくことができる。原発事故前に住んでいた場所に戻った住民の姿も見かける。

もしかしたら、それは「復興」と呼べるのかもしれない。住民の嬉しそうな表情は印象的だし、商店のオープンには地元の人たちから政府の関係者まで様々な立場の人の英知と情熱が込められていることだろう。「浜通りを元通りに」。まさしくそれを体現している。

ただ、違う現実もある。黒いフレコンバックが積まれ、中には放射性物質を除去する作業で出た廃棄物が入っている。こんな風景は第一原発近くの至る所で見られる。

第一原発近くには放射性廃棄物が入ったフレコンバックが多く残る(福島県浪江町、2月21日撮影)

一時は「人が住むことはできない」とされた地域に人が戻り、商店や宿泊施設もできた。しかし、そうした施設にいるのは元々の住民ではなく、原発の廃炉や除染のために全国から訪れている作業員の人たちが中心だ。

避難指示が解除された地域であっても、街を行き交う人はまばら。原発事故前の姿とは程遠い。

様々な人の思いが集まって、復興は着実に進んでいる。しかし、同時に、様々な人が願っても、一向に復興が進まない。

それが福島の現状であり、原子力災害の怖さだと思う。

聖火リレーが行われたJR双葉駅(2月21日撮影)

SNSで双葉町のコースが話題に そこに復興五輪の実態と住民の希望

聖火リレーが始まるのとほぼ時を同じくして、第一原発が立地する双葉町でのリレーの様子が話題となった。

奇しくも東日本大震災が発生したのと同じ午後2時46分に出発し、時間はわずか6分間。距離もたった約0.48キロ。

JR常磐線が通過する双葉駅を出発し、行き先は双葉駅前。コースは平仮名の「の」の字を逆さまにしたようにぐるぐると回るだけ。

いわば、復興に向けて人の手が入った“綺麗な”狭いエリアを走るコースだ。このコースこそ、“復興五輪”の象徴であるように思える。

双葉町は今も町域の96%が避難指示区域に指定され、立ち入りが規制されている。避難指示が解除された4%の地域も、人が戻って生活できる環境は整っていない。

聖火リレーがあったJR双葉駅一帯は、数少ない避難指示が解除された地域。駅舎は綺麗に整備され、駅前ロータリーは原発事故を感じさせない。

そんな“復興が進んでいる”エリアだけで聖火リレーは行われた。ほんの少し離れただけで立ち入りできない地域にたどり着き、なんとかコースを捻り出した格好だ。

JR双葉駅前で行われた聖火リレー=25日午後、福島県双葉町(共同通信社)

SNSを見たら、案の定、双葉町のコースを揶揄する投稿が目立っていた。一つ一つの投稿を見るにつれて、胸が痛くなった。

双葉町は原発事故で全域に避難指示が出た自治体だ。この町に人が出入りするようになったことは双葉町の将来を感じさせる出来事に間違いない。

その上、決して格好良くはないコースながらも聖火リレーが行われた。これを心から歓迎する双葉町の住民にも想いを馳せたい。

原発事故から10年が過ぎた今も多くのエリアで立ち入りが禁じられている(福島県富岡町、2月22日撮影)

10年目を迎えた原発事故被災地 聖火リレーで消された実状

原発事故の避難指示が解除された地域は、昼間でも人の姿がまばらで、夜に電灯がついている家も少ない。それは今月10日に公開した『「32.1%」 原発事故の避難指示が解除された街 数字が物語る福島の10年』との記事にも現れている。

かつてはいて当たり前だった「お隣さん」が原発事故をきっかけに、遠く離れた街で新たな生活を始めたという人も少なくない。自治会、隣組など地域のコミュニティーも多くで破綻してしまった。

今の第一原発周辺の街並みは、事故前のそれとは全く異なる。政治家や官僚が言葉でどう脚色して説明したとしても、それが誤りであることは現場に足を運んでみれば一目瞭然だ。

25日の聖火リレーでは、渋谷や新宿で見かけるアドトラック(宣伝カー)と見間違えるような五輪スポンサーの大型車両が闊歩し、それに聖火ランナーが続く光景もあった。

誤解を恐れずに言えば、一種の「下品さ」すらも感じた。

動画で見たそれはとにかく派手で豪華絢爛。原発事故に故郷を奪われた人がいる現実も、戻って再び住み始めた人の苦悩も、「影」を感じさせるマイナスの何もかもが遠くに追いやられていた。

避難指示が解除された地域の、震災から10年後のありのままの姿は画面から捨てられていたとしか思えなかった。

聖火リレーの出発式であいさつする福島県の内堀雅雄知事=25日午前9時16分、福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」(共同通信社)

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